短歌しりとりアーカイブ

歌一覧

1~50

僂麻質斯リユーマチス病みをる媼等にあひ交り日ねもす多く言ふこともなし
斎藤茂吉『つゆじも』

視野のはしに子は摑りて望みおりにうつりつつ夜の航跡
石本隆一『木馬騎士』

きみの手とまだ温かいバケットをやさしく握って歩く陽だまり
丘光生『塔』2022年4月号

林檎むく音伝ひつつ暮れがたはひとの芯なる骨も冷ゆらむ
横山未来子『とく来りませ』

胸のうちいちどからにしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし
前川佐美雄『植物祭』

しのぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで
平兼盛『百人一首』第40番

電球を取り替えるように捨てていくきっと光になれない言葉
千原こはぎ『ちるとしふと』


※分岐

はろばろと熱く射しくる日輪光われの頬にて旅おわるあり
大滝和子『銀河を産んだように』

りるりるとカワラヒワ鳴く朝の道 もう死んだっていいんだきっと
伊津野重美『紙ピアノ』

どうしても宿には着けぬやうな気がするまたしてもつるうめもどき
秋月祐一『迷子のカピバラ』

きみもきみも生きていなさい六月はエンドロールのように駆け足
加藤治郎『環状線のモンスター』

白露に風の吹きしく秋の野はつらぬき留めぬ玉ぞ散りける
文屋朝康『後撰集』(『小倉百人一首』)

ルソン島に散りたる義兄よ風となり空駆け帰れ今日は命日
小川計江「せとうち花壇」せとうちタイムズ、07年7月14日号

※正規ルート

晩春の或る宵にしてのろのろと橋をわたりぬ溝川橋を
清水房雄『碌々散吟集』

大江山いく野の道のとほければまだふみもみず天の橋立
小式部内侍『小倉百人一首』

照る月も雲のよそにぞ行きめぐる花ぞこの世の光なりける
皇太后宮大夫俊成『新古今和歌集』

瑠璃色の珠実をつけし木の枝の小現実を歌にせむかな
宮柊二『紫式部』昭和22年(随筆)

難波江のあしのかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋わたるべき
皇嘉門院別当『小倉百人一首』

※分岐

記憶とは泥濘ぬかるみ気泡はきながら紅茶のうづへ檸檬が沈む
川野芽生『Lilith』

※正規ルート。以下分岐なし

きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに衣かたしきひとりかも寝む
後京極摂政前太政大臣『新古今集』(『小倉百人一首』)

無限から無限をひきて生じたるゼロあり手のひらに輝く
大滝和子『竹とヴィーナス』

グローブの如く大きな揚げ立てのおすすめ品の鰈食はんとす
奥村晃作『鴇色の足』

住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目ひとめよくらむ
藤原敏行朝臣『古今集』(『小倉百人一首』)

無言でもいいよ、ずっと 東北に休符のような雪ふりつもる
工藤玲音『水中で口笛』

『ルーマニヤ日記』肘を固めて読みいたり 月光射して人発光す
山下泉『海の額と夜の頬』

すべきこと それよりわざわざ靴を買いそれよりわざわざ靴を磨いて
平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

でもたぶん七月の雲のような瞳だイザベル・アジャーニの顔に嵌まって
大森静佳『カミーユ』

手品師の右手から出た万国旗がしづかに還りゆく左手よ
石川美南『裏島』

夜をこめて鶏の空音ははかるとも世に逢坂の関はゆるさじ
清少納言『小倉百人一首』

しろじろと瞼のような貝殻の散らばる浜をひとり歩みぬ
大森静佳『てのひらを燃やす』

脱ぐこともないと思ってババシャツを着てきたきょうにかぎって、そんな
枡野浩一『君の鳥は歌を歌える』

難波潟みじかき芦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや
伊勢『新古今集』(『小倉百人一首』)

やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな
赤染衛門『後拾遺集』(小倉百人一首)

長生きをしたいと思う目を閉じて開くそれだけの祈りのあとは
嶋稟太郎『羽と風鈴』

わが袖は潮干しほひに見えぬ 沖の石の人こそ知らね乾く間もなし
二条院讃岐『千載集』(小倉百人一首)

しあわせにしてますように でも少しわたしが足りていませんように
月夜野みかん『食器と食パンとペン』

人間の貌を曝して夕ぐれの腸詰ひさぐ店先を過ぐ
富田豊子『漂鳥』

狂へりや世ぞうらめしきのろはしき髪ときさばき風にむかはむ
山川登美子著、今野寿美編『山川登美子歌集』

麦のくき口に含みて吹きをればふと鳴りいでし心うれしさ
窪田空穂『濁れる川』

騒がしき世界の中にも読む時間過ごしたる人確かにをりき
惟任將彥『灰色の図書館』

君の眼に見られいるとき私はこまかき水の粒子に還る
安藤美保『水の粒子』

流刑星姿かわいい生き物をブタと名づけて喰う悲しみ
高柳蕗子『ユモレスク』

御垣守みかきもり衛士ゑじの焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ
大中臣能宣『詞花集』(『小倉百人一首』)

部屋の明かり落として月をむかへたりひとつ望みをもつ者として
横山未来子『とく来りませ』

でもこれはわたしの喉だ赤いけど痛いかどうかはじぶんで決める
兵庫ユカ『七月の心臓』

留守がちな隣家の猫をこっそりと抱いて眠った不届きな夜々
げんすい『クロワッサンONLINE 、短歌組手』

よき人のよしとよく見てよしと言ひし吉野よく見よよき人よく見
天武天皇『万葉集』巻一・二七

耳ではなくこころで憶えているんだね潮騒、風の色づく町を
井上法子『永遠でないほうの火』

おびただしい星におびえる子もやがておぼえるだろう 目の閉じ方を
佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』

おしまいを刻み込むよう手の甲に小さなキスをくれるおしまい
千原こはぎ『これはただの』


51~100

いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな
伊勢大輔『詞花集』(『小倉百人一首』)

長からむ心もしらず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ
待賢門院堀河『千載集』(『小倉百人一首』)

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
笹井宏之『えーえんとくちから』

いかに嘆くとも死は他人ひとごとの火葬場に待つ固焼煎餅が出る
齋藤史『風翩翻』

瑠璃鳥の夢呼び過ぎし森かげやしめり覚ゆるしろがねの笛
尾上柴舟『銀鈴』

縁側で祖母がすることぼんやりと見ていないようで見ていたんだ
前田康子『色水』

たれをかもしる人にせむ高砂の松もむかしの友ならなくに
藤原興風『古今集』(『小倉百人一首』)

煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火
井上法子『永遠でないほうの火』

人もをし人も恨めしあぢきなく世を思ふゆゑにもの思ふ身は
後鳥羽院『続後撰集』(『小倉百人一首』)

春の底、桜吹雪の白熱をフランス人の耳で聞きたい
平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり
浅井和代『春の隣』

りんだうの花とも人を見てしかなかれやははつる霜がくれつつ
和泉式部『和泉式部集』

九十九島時雨の中に霞見ゆ弓張岳に登り来しとき
横丁大家『高社山』(短歌誌)

きみと過ごしし時間一斉に咲くごとく桜はしろき弾力を咲く
山下翔『meal』

クリムトの絵画、メーテル、暗がりの杏子酒(ながれるよるはやさしい)
笹川諒『水の聖歌隊』

いつまでも花終らざる野牡丹のむらさき群るるつめたき光
高安国世『虚像の鳩』

輪郭がまた痩せていた 水匂う出町柳に君が立ちいる
永田紅『日輪』

るぷぷぷと春が降るなか両腕のうらもおもても晒して歩く
佐藤羽美『ここは夏月夏曜日』

靴ひもをほどけば星がこぼれだすどれほどあるきつづけたあなた
佐藤弓生『薄い街』

たましいに性器はなくて天国の子はもうどんな服でも似あう
佐藤弓生『薄い街』

卯の花の過ぎば惜しみか霍公鳥雨間も置かずこゆ鳴きわたる
大伴家持『万葉集』巻八・一四九一

ルーシーに「忍者っているの?」と聞かれ「少なくなった」と答えるわたし
九螺ささら『ゆめのほとり鳥』

収入がたくさんあって可愛らしい奥さんがいてうららやましい
石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』

いつどこの街に行っても「はまゆう」って名前のスナックある 怖い
上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』

幾重もの瞼を順にひらきゆき薔薇が一個の眼となることを
川野芽生『Lilith』

前年をととしの先つ年より今年まで恋ふれどいもに逢ひ難き
大伴家持『万葉集』巻四・七八三

ぎんいろの郵便受けを光らせて待つためにある初夏の一日
俵万智『かぜのてのひら』

契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
清原元輔『後拾遺集』(『小倉百人一首』)

わたの原漕ぎ出でて見れば久かたの雲ゐにまがふ沖つ白波
法性寺入道前関白太政大臣『詞花集』(『小倉百人一首』)

陸奥みちのくのしのぶもぢずり たれゆゑに乱れそめにしわれならなくに
河原左大臣『古今集』(『小倉百人一首』)

人間にもっとも遠き優しさに春至りしと梢そよぐや
島田修二『花火の星』

優しさをもってすべてに接すればすべてのものは優しさをもつ
島楓果『すべてのものは優しさをもつ』

つきの光に花梨が青く垂れてゐる。ずるいなあ先に時が満ちてて
岡井隆『ネフスキイ』

手のひらにきみの気配が満ちてきてあかるい 夜の底をゆくときも
伊津野重美『紙ピアノ』

朦朧と口に運びし野葡萄があなたの指に変はるまでの話
石川美南『離れ島』

しづかにしづかに酒を漉すなりただ孤りかうしてゐると我は盗賊
岡田美香子『水管楽器』

クレーンの操縦席でいっせいに息を引き取る線香花火
笹井宏之『ひとさらい』

必要のない枠線を消してゆく<border=”0”>を世界に足して
千原こはぎ『ちるとしふと』

でもきっとなにもしないのがいいのでしょう くつひもほどくどんどんほどく
蒼井杏『瀬戸際レモン』

悔いありて歩むあしたをまがなしく蜘蛛はさかさに空を見ており
安藤美保『水の粒子』

リカちゃんのボーイフレンドがワタルくんでなくなった日にむかえた初経
深田海子『短歌くださいその二』(穂村弘)

イリーガルガールリーガルガールからルール奪つて手を引き走れ!
伊豆みつ『鍵盤のことば』

レシピにも行間がある揚げたてのアジを浸せば鳴く三杯酢
俵万智『未来のサイズ』

スクラムを揺りつつうたふ揺りうたふあなほのぼのと揺ることのあらむ
葛原妙子『葡萄木立』

胸倉を摑んでまでもこいつらに伝えんことのなきまま摑む
染野太朗『人魚』

むかしよりひと殺め来し火といふを点けたりうまく手懐けながら
藪内亮輔『海蛇と珊瑚』

ラケットで蝶を打ったの、手応えがぜんぜんなくて、めまいがしたわ
穂村弘『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』

わが知らぬわが家の屋根をまざまざとインターネットに凝視してしまふ
小池光『山鳩集』

筆を折った人たちだけでベランダの季節外れの花火がしたい
千種創一『千夜曳獏』

家を描く水彩画家に囲まれて私は家になってゆきます
笹井宏之『ひとさらい』


101~150

ずっと味方でいてよ菜の花咲くなかを味方は愛の言葉ではない
大森静佳『カミーユ』

「イラク軍の盲撃ち」と言ひしキャスターが謝罪しており地形図を背に
吉川宏志『青蟬』

肉体はかなしさざなみあをくしてオルカはつひに海の葬列
吉田隼人『忘却のための試論』

月見ればちぢに物こそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど
大江千里『古今和歌集』(『小倉百人一首』)

遠くから手を振ったんだ笑ったんだ涙に色が無くてよかった
柳澤真美(『かんたん短歌の作り方』枡野浩一)

大地のどこも便所たりえしころのことカンガルーのように我と弟
渡辺松男『歩く仏像』

どこまでも優しくなれる 春風につつみこまれた花園神社
伴風花『イチゴフェア』

山裾に白噴き出して山桜ずっとあなたは眠っていたか
千種創一『砂丘律』

観音のおゆびの反りとひびき合いはるか東に魚るわれは
大滝和子『人類のヴァイオリン』

春のに菫採みに来し吾ぞをなつかしみ一夜宿にける
山辺赤人『万葉集』巻八・一四二四

累々と屍骨しこつになりし教室の瞬時を目にする心弱る時
釈迢空『あくびの如く』

君待つと吾が恋ひれば吾が屋戸の簾うごかし秋の風吹く
額田王『万葉集』巻四・四八八

唇のさむきのみかは秋のかぜ聞けば骨にもとおひとこと
橘曙覧『松籟艸』

透明なせかいのまなこ疲れたら芽をつみなさい わたしのでいい
井上法子『永遠でないほうの火』

一台のレントゲン車に技師こもりひとりひとりの洞を撮りゆく
遠藤由季『鳥語の文法』

くぐるときみなうつくしき水死人たけゆたかなる柳の下を
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』

落ちたるを拾はむとして鉛筆は人間のやうな感じがしたり
花山多佳子『春疾風』

リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら
虫武一俊『羽虫群』

辻音楽師ライエルマン」歌ひて居れる昼のラヂオよなれが悲しき声を揚ぐるな
前田透 『漂流の季節』

なんでなんで君を見てると靴下を脱ぎたくなって困る 脱ぐね
増田静『ぴりんぱらん』

ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
笹井宏之『ひとさらい』

すがすがとわれは居るべし雪ふる夜再婚話のひとつとてなく
小池光『梨の花』

昏れゆく市街まちに鷹を放たば紅玉の夜の果てまで水脈みをたちのぼれ
山尾悠子『角砂糖の日』

黎明のニュースは音を消して見るひとへわたしの百年あげる
雪舟えま『たんぽるぽる』

「ルーズソックス」最初にはいた女子高生誰か知ってる? スゴイことだね
奥村晃作『ピシリと決まる』

眠れないときは製氷皿をおもう ねむったあともきっとこころが
大森静佳『カミーユ』

河沿いをひとりあゆめば光へと身を投げるごとく紅葉する木々
大森静佳『カミーユ』

君がため春の野に出でて若菜摘む我が衣手に雪は降りつつ
『古今和歌集』春・21・光孝天皇

鶴が岡八幡宮の石段の十段にして疲れたるひと
吉井勇『酒がほひ』

とほきなびきの杜けぶる日は訪れて鳥形の的立てたるひとか
山中智恵子『みずかありなむ』

改札を出てから雨にぬれるまで駅はどこから終わるのだろう
𠮷田恭大『光と私語』

後ろから抱きしめながらするキスはあなたがくるしそうでうれしい
木下龍也『オールアラウンドユー』

射ゆ獣の死んだきりんを見にゆくよよよよって泣くひとはじめてみたな
上篠翔『エモーショナルきりん大全』

夏の海タルト・タタンの向こう側まなざし君の手の上で揺れ
竹内亮『タルト・タタンと炭酸水』

レントゲン放射に胸の皮膚を焼き黒きを何の烙印とする
中城ふみ子『乳房喪失』

累卵の、なれど崩れぬたまごあまた積みあげられる さういふ危機だ
魚村晋太郎『バックヤード』

誰もいないときには道でバーベキューしててもいい自動車学校
伊舎堂仁『トントングラム』

生まれ変わってアメリカ大統領選に出る夏の日のため窓を磨けり
中沢直人「未来」2016

リヤカーつてありましたよねぢやうぶだつた鎖骨とおなじほどの
平井弘『振りまはした花のやうに』

野ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれた
服部真里子『行け広野へと』

立ち入ったことまで問わねば近づけずはるか水鳥身を震わせて
大森静佳『てのひらを燃やす』

手をあらふみづの被膜をまとひつつ皮膚いちまいのなかのわたくし
尾崎まゆみ「糖杏菓マカロン

終電に轢かれて君に逢いにいく夜はすべてを許しているから
輪湖「自殺ごっこ

ライフルを誰かに向けて撃つように傘を広げる真夏の空に
岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』

熟田津にぎたつに船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今はこぎ出でな
『万葉集』巻一・八・額田王

何か怪しき荷物運ばるる風のまち吹かれてわれも何処までも行く
春日井建『夢の法則』

首枷のごとき自由を愛しこの暗渠もいつか海に溶けこむ
黒瀬珂瀾『黒耀宮』

麦の穂がざわめくような手紙書き雲をみあげてばかりの少年
江戸雪『声を聞きたい』

ンゴロゴロ、ンガイ、ンブフル、ンジャメナよ 終わりたくないしりとりがある
吉田岬「うたの日」2022年6月9日

ルピナスの爪の中レンズ雲浮かぶDNAよこれはいつの空
雪舟えま『たんぽるぽる』


151~200

楽になってほしいだなんて 憎しみの眼窩に嵌まる月をください
榊原紘『悪友』

いまわれの見たき後ろ手山吹のあかるくゆるる道に吸はれぬ
横山未来子『午後の蝶 短歌日記 2014』4/11

濡れざればいつまでも雨気はらみゐて傘のうちがは胸のうらがは
栗木京子『綺羅』

われの死ののちの風景思ひつつ見る太陽がいつぱいの街
荻原裕幸『青年霊歌』

じんちょうげ そう、じんちょうげ 沈丁花 春の雨の日想いだしてね
伴風花『イチゴフェア』

ネコかわいいよ まず大きさからしてかわいい っていうか大きさがかわいい
宇都宮敦『ピクニック』

一度でも我に頭を下げさせし
人みな死ねと
いのりてしこと
石川啄木『一握の砂』

とうすみとんぼはたましひかここに反幕のみかどの二人もつれゆくみゆ
山中智恵子『夢之記』

夕かげは紅茶を注ぐやうに来て角砂糖なるわれのくづるる
川野芽生『Lilith』

ルリカケス、ルリカケスつてつぶやいた すこし気持ちがあかるくなつた
秋月祐一『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
河野裕子『森のやうに獣のやうに』

かさりとふ音を辿ればひそやかなたのしみとして落葉ふむ鳩
大西久美子『イーハトーブの数式』

もう俺は今日から生まれ変わるのに昨日のことで怒られている
尼崎武『新しい猫背の星』

類的な存在としてわたくしはパスケースから定期を出した
中澤系『uta0001.txt』

誰かがわたしを応援しているのがわかる 58分に始まるテレビ
鈴木ジェロニモ「ものすごいマンション」

日々だった、囮のままの。生き延びる理由に好きなひとたちをして
笠木拓『はるかカーテンコールまで』

掌を結びかつはひらきて夜にゐたり畏れぬは多くおろかなるため
滝沢亘『断腸歌集』

めぐり逢ひしひとりひとりを数ふれば死者の眼のやうな秋の敷石
永井陽子『樟の木のうた』

死なばこそ相見ずあらめ生きてあらば白髪しろかみ子らに生ひずあらめやも
『万葉集』巻十六・三七九二・竹取の翁

もうなにもできなくなつてしまつたと告げて消えたき未明のこころ
吉田隼人『忘却のための試論』

ロケット弾飛び交い機雷の浮遊するまなかに住める我らがたつき
三井修『砂の詩学』

君にとつて波濤が立てば立つほどにうつくしくある社会なる海
小佐野彈『メタリック』

「水菜買いにきた」
三時間高速をとばしてこのへやに
みずな
かいに。
今原愛『O脚の膝』

人間らしく、さう言ふがきみ人間は根腐れのした見事な樹だぜ
岡井隆『馴鹿トナカイ時代今か来向かふ』

ぜに欲しく寒き霜夜にうたをなすわが貧しさの言はむかたも無し
宮柊二『晩夏』

知らぬ間に人を殺したことのある顔だな、言葉を持つたばかりに
濱松哲朗「〈富める人とラザロ〉の五つの異版─Ralph Vaughan Williamsに倣つて」(「穀物」第3号)

にんげんのあたまはまるいまいにちの渋谷の駅にあまたのあたま
上澄眠『苺の心臓』

眸(まみ)しばし力うしなう 洞ふかき原爆ドームに鳥入るを見て
江戸雪『椿夜』

てのひらに受けとめるたび此の星と密度ひとしき林檎とおもふ
光森裕樹『鈴を産むひばり』

ウミウシの突起のように濡れながら午後の浜辺にわたしは屈む
早川志織『種の起源』

昔偲ふゆふすげくさのひとすぢの途切れさうなる時間とふ糸
紀野恵『午後の音楽』

動物記の裏表紙なる「いさましいジャックうさぎ」が浴びる夕焼け
山崎聡子『手のひらの花火』

消し去るための過去などあるな君の部屋のグランドピアノ黒鍵ばかり
福島泰樹『哀悼』

リラの花卓のうへに匂ふさへ五月はかなし汝に会はずして
木俣修『みちのく』

てのひらを風にかざしているようにさびしさはぶつかってくるもの
土岐友浩『Bootleg』

のぼることはできても降りることのできぬ階段がある。いまも同じだ
魚村晋太郎「階段」(「部屋にうたえば: 第十九回 魚村晋太郎×谷じゃこ」

大輪の牡丹の花のひとひらをまたひとひらを鍋に沈めつ
松村正直『午前3時を過ぎて』

次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く
奥村晃作『三齢幼虫』

空砲なのか実弾なのか匂ひすればムツキを開ける斥候われは
大松達知『ゆりかごのうた』

バビロンの宝はひとつ金銀でなく捕囚でもなくそのかみのうはのそらこそ
笹原玉子『偶然、この官能的な』

それはそれは愛しあってた脳たちとラベルに書いて飾って欲しい
穂村弘 『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』

言はむすべせむすべ知らず極まりて貴きものは酒にしあるらし
『万葉集』巻三・三四二・大伴旅人

自転車の轍らせんを描きつつ海へつづけり めぐる季節を
中山明『猫、1・2・3・4』

小黒崎をぐろざきみつの小島の人ならば都のつとにいざと言はましを
『古今和歌集』巻二十・一〇九〇・東歌

終はりまで観ずに立ち去る夜の夢のうしろ姿のぼくの危ふさ
西田政史『スウィート・ホーム』

さびしくも雪ふるまへの山に鳴く蛙にに射すや入り日のひかり
斎藤茂吉「寒土」(『白き山』)

りんてん機、今こそ響け。
 うれしくも、
東京版とうきょうばんに雪のふりいづ。
土岐善麿『黄昏に』

積もりたる雪踏みしめる人々の消えたるのちのグレーの世界
惟任將彥『灰色の図書館』


201~247

痛いほどそこに世界があることをうべなうごとし蝿の翅音も
大森静佳『カミーユ』

もし君が死ぬ時ほんの一瞬をぼくで満たしてくれればいいや
佐藤りえ『フラジャイル』

約束をお城みたいに積めばいい蔦も這わせて。ほら崩れない
千種創一『砂丘律』

今はただぼくが壊れてゆくさまを少し離れて見つめていてよ
松野志保『モイラの裔』

ヨーグルトに砂糖をいれるかいれないかきみだけが決められる些事だね
安田茜「些事」

眠気から眠りに落ちるそのあいだユーモレスクの空港がある
九螺ささら『ゆめのほとり鳥』

ルナアルの『博物誌』一冊あてがはれ置去られたるわれとこがらし
石川不二子『牧歌』

茂山しげやま鬼怒沼道きぬぬまみちはおほよそに山の北側につきて歩みつ
佐藤佐太郎『歩道』

吊り皮の手首に脈拍たしかむる寒の迫りてくるはさびしゑ
篠弘『日日炎炎』

エピローグあるいはプロローグのように催眠術のきれいな解除
丸田洋渡「Slow Speed」

夜毎吹く風に欅の葉のるはわが小守歌、聞きて眠りき
佐藤照子『ときのすき間に』

木に凭れこころおちつかせてをればとほい空ちかい空ととけあふ
渡辺松男『雨る』

冬凪ぎの海原とほく追はれきているかは啼けり低き鋭声とごゑ
岡野弘彦『あま鶴群たづむら

にんじんは明日蒔けばよし帰らむよ東一華の花も開かず
土屋文明『山下水』

砂渚あゆみ来たれば波しづけしをなみさなみといふ古語のごと
柏崎驍二『四十雀日記』

とほきわが羊のこころひたひたと霧のもなかを帰りはじめぬ
小野茂樹『黄金記憶』

烏羽玉の音盤ディスクめぐれりひと無きのちわれも大鴉を飼へるひとり
大塚寅彦『刺青天使』

カーテンの穴から光の欠片 どこにでも行けると言ったのは嘘だった けど
初谷むい『胎動短歌 collective vol.2』

ともにあればいつも若しと思ひゐたるわが子もやがて年ふけむとす
片山廣子『野に住みて』

するだろう ぼくをすてたるものがたりマシュマロくちにほおばりながら
村木道彦『天唇』

卵黄に死の妹をねむらしめ雉鳩のそのきぎすのたまご
塚本邦雄『感幻樂』

これからをともに生きんよこれからはこれまでよりも短けれども
藤島秀憲『ミステリー』

もゆる限りは人に與へし乳房なれ癌の組成を何時よりと知らず
中城ふみ子『乳房喪失』

すたれたる体横たへ枇杷の木の古き落葉のごときかなしみ
宮柊二『忘瓦亭の歌』

み吉野の吉野の山の春霞たつを見る見るなほぞ雪降る
紀貫之(『新々百人一首』丸谷才一)

ルーレット回して給料決めましょう人生ゲームの子持ちフリーター
工藤吉生『短歌研究』2018年9月号

朝倉や木の丸殿に我がをれば名乗りをしつつ行くは誰が子ぞ
『新古今和歌集』巻十七・一六八九・天智天皇

ぞろぞろと鳥けだものをひきつれて秋晴れの街に遊びに行きたし
前川佐美雄『植物祭』

人生はただ一問の質問に過ぎぬと書けば2月のかもめ
寺山修司『テーブルの上の荒野』

めいめいはみな極楽に入り行けやおのれ勝手に茸など喰ひて
前川佐美雄『捜神』

掌の中にふる精液の迅きかな、アレクサンドリア種の曙に
岡井隆『眼底紀行』

人間を深く愛する神ありてもしもの言はば我のごとけむ
釈迢空『釈迢空全歌集』

紫に小草の上にかげ落ちぬ野の春風に髪けづる朝
与謝野晶子『みだれ髪』

佐野朋子の馬鹿殺したろと思ひつつ教室に行きしが佐野朋子おらず
小池光『日々の思い出』

いずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る
安藤美保『水の粒子』

ルビー婚、「ガマンしたわ」と妻が言う、いやそのセリフ、私のセリフ
樫村好則(「朝日歌壇」2022年11月21日)

ふはふはと心のまよふ一日にて日差はのびぬ竹の林に
吉田正俊『霜ふる土』

日本画の子どもが丸く描かれてそれはなんとも投げやすそうで
井口可奈『プラスチックのかたち』

デモに行きし子のスリッパが脱いである板の間に暁の光漂ふ
前田透「あかがねてん

ふっかつのじゅもんをいくつ囁けどへんじがないただのしかばねのようだ
中島裕介『oval/untitleds』

たったいまぜんぶすててもいいけれどあたしぽっちの女でも好き?
渡辺志保(『かばん』、俵万智『あなたと読む恋の歌百首』所収)

君逝きしこと知らざりし朝なりきつめたき風に桜花揺れをり
横山未来子『金の雨』

理解より愛は生まれ来、我らみな黄金を鍵の言葉持つなり
窪田空穂『窪田空穂全歌集』

良寛の字に似る雨と見てあればよさのひろしと言う仮名も書く
与謝野晶子『白桜集』

くちびるを寄せて言葉を放てどもわたしとあなたはわたしとあなた
阿木津英『紫木蓮まで・風舌』

たれもたれも鞄を膝にのせている鞄の底を他人に見せて
染野太朗『人魚』

デルモンテ・トマトケチャップ鼻につけこそばゆくって(あは)気持ちいい
森本平「ハードラック」(『セレクション歌人28 森本平集』)

いちはやく冬のマントをひきまはし銀座いそげばふる霙かな
北原白秋『桐の花』




統計


計247首(うち分岐先7首)

語尾のひらがなについて
・頻度の高いもの
 い(18回)
 る(17回)
 し、て、り(12回)
 く(11回)
 き、に、む(10回)
 き(10回)

・まだ使われていないもの
 ・あ、お、こ、せ、ほ
 (げ、ざ、ぢ、づ、ぱ、ぴ、ぷ、ぶ、ぺ、べ、ぽ、ぼ、ゐ)

歌の引用・出典はツイートの投稿者に拠っています(一部修正・加筆)
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更新日
2022/10/5 計127首
2022/11/21 計160首
2022/2/19 計247首


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