舞台『友達』ストーリーと感想
WOWOWライブで2022.4.9(土)放送の舞台『友達』(2021.9.25 公演 新国立劇場 小劇場)を録画したものを観ました。
ストーリーと感想を備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
【作】
安部公房
【演出・上演台本】
加藤拓也
【感想】
美術はとてもシンプル。床の中央斜めに置かれたドア。これが玄関ドアで、下は階段になっており、見知らぬ「9人家族」が出入りする。
ここの住人の男はひとり床に寝そべりスマホをいじったり、ペットボトルの水を飲んだりしている。突然、男の家に転がりこむ9人家族。「友達」「家族」「つながり」「共有」「シェア」「隣人愛」という耳障りのいい言葉を突きつけて、どんどん男の家も心も体も支配していく。
「一人の孤独を助ける」と正論を吐きながら、男を侵略し、全てを略奪していく。家もお金も男の時間も婚約者さえも…。
嚙み合わない会話、成り立たない話し合い。当然だ…。彼らは心をもたない侵略と略奪を繰り返すだけのサイコパスだから。
一体、いつから彼らはこうなっていったのか? 人畜無害そうな祖母の代から? その息子の代から? それとももっと以前から?
ラスト、男は反撃にでようとして発覚、檻に監禁される。次女に渡されたワインには毒が入っており、男は苦悶しながら絶命する。
その傍らで泣く次女。彼女は男を好きだった。でも、毒入りワインを渡したのだ…。
彼らは何も変わらない。また、次の標的、獲物を見つけて食い潰すだけだ。初めて来たときよりも増えた荷物を抱えて、彼らは出ていく。男の部屋だった家を…。
とにかく気味悪く、ひたすら気持ち悪く後味は悪い。誰にでもおすすめはできない作品だ。なんだろう…。この世界観は。
人の心の真っ黒な部分をでろん~と、体を裏返して、中から取り出して、「ほら!」と見せつけられているような嫌な気分になる。
彼らに目をつけられたら最後。勝ち目はない。最初から骨までしゃぶり尽くすつもりで入り込むのだから。
相手の言うことに「一理ある」とか「自分が間違っているのか?」とか思ってしまう人は格好の餌食だ。“いい人”は“悪い人”の餌になる運命なのかもしれない。
【余談】
この原作は読んでいないが、安部公房の『砂の女』は読了していた。同じ匂いがする。『砂の女』の別バージョンという感じ。
くしくも今、NHK Eテレの「100分de名著」で『砂の女』を扱っている。こちらもおもしろい。
演出家 板垣恭一が「演劇には困らせる人と困る人しか出てこない。そうでないと誰も観ない」と話されていたのを思い出した。この作品はまさにそんな舞台だと思う。
「困らせる人」と「困る人」がいることで物語が生まれて進行していき、おもしろさが生まれていくのだろう。そして、人生もそういうものなのかもしれない。
シス・カンパニーを劇場で観たのはもう何年前になるだろうか? 今はない青山円形劇場で『叔母との旅』を観て以来かもしれない。時々、気になる公演はあるのだけど、なかなかいろいろな都合がつかない。
こういったものは縁がないとチケットすら手に入らない。不思議。
【リンク】
友達|シス・カンパニー|SIS company
100分de名著「砂の女」安部公房
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