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キーワードは"少年心"、な私のお仕事紹介してみた

私のお仕事はアイルランドの植物調査員です。

……って名乗ってみても、どういう仕事なのか、パッ!とは伝わりづらい。伝わりづらいけれど、私はこの仕事が好きだ。だから、なんとか分かりやすく紹介してみたいのだ。

ざっくり言うと……何かを建てたいお客さん(大体は工事業者)が環境に関する法律違反をしないように、工事前に野山を歩いて、法に関わる希少種や外来種の記録や、保護地区への影響がありそうかを見るお仕事。環境保護というよりは、環境になるだけ優しく開発行為を進められるようにする立場だ。

この仕事の好きなところは

  • 野山を歩いて役に立ててお給料ももらえて、だからまた休日もそのお金で野山を歩けて、歩いた分だけ仕事に活かせて……とずっと公私ともに自然を歩き回れるところ。

  • これ、なんだろう?あれ?ここはとおれそうだ。小さい頃に近くの緑地を冒険して、栗を拾ったり、ロウソクみたいなドウダンツツジの冬芽を集めたり、いい感じの枝を見つけて装備したり、うっそうとした雑木林の通り抜けできそうなところを見つけたり……そういう少年心がそのまま、調査上手になる秘訣なところ。

なんとかこの好き、を伝えてみたい。ので、今回は植物調査ってこんな感じ、というのを、現場到着から調査完了まで、一緒に辿ってみるのはどうか、と思って書いてみた。ちょっとでも、面白そう!と感じる方がいたらめちゃくちゃ嬉しい。

紹介するのは、ちょっと長めだったある調査日のこと。この日は日中植物調査、夜間コウモリ調査ということで、宿を取っての出張調査だった。スケジュールは以下のとおり。

ある日の出張調査
9:00-12:00 移動(家から調査地)
12:00-18:00 野外調査(植物)
18:00-18:30 移動(調査地から宿)
18:30-20:00 チェックイン、夕飯
20:00-20:30 移動(宿から調査地)
20:30-23:00 野外調査(コウモリ)
23:00-23:30 移動(調査地から宿)
次の日、帰宅

うーん長い。野外調査の後の野外調査!なにぶん、コウモリ調査は終わるのが遅い。しかし、うちの会社では残業代がない代わりに、移動時間を含めて8時間以上働いた分は次の日休みを取れることになっている。ので、次の朝はちょっとのんびり帰れるのだ。

さらにかつて北海道で同じく調査員をやっていた時は、もっともっとやばいスケジュールだったし、移動時間は労働時間に入れてもらえなかったので、まあこのくらいいいかと思ってしまう。折角なので一番やばかった日を見ていただきたい。

北海道でのある日の出張調査
3:00-8:00 朝の鳥類調査(仕方ないけど、早い)
8:00-9:00 休憩(短い)
9:00-17:00 哺乳類、両生爬虫類調査(普通に日中も調査)
17:00-19:00 移動、休憩(また短い)
19:00-21:00 夜間の鳥類調査(寝れない)
これを5日連続でやって(最終日は夜間調査なし)から、3時間かけて帰社。のあとのデータ整理。

く、狂ってる……!

補助員として同行したのだが、こんな感じでいつも鳥類と哺乳類、両生爬虫類はセットだった。アンハッピーセットだ。この次の週に8:00-17:00だけの植物調査が来ると、二日酔いの時のしじみ味噌汁みたいに身体にありがたさが染みる。植物調査員で良かったー!となる。植物調査の方がササの藪に分け入ったり雨でも中止にならなかったり嫌な部分もあるけれど、鳥類調査は朝早く夜遅い。そして立ちっぱなしの時間も長い。上のスケジュールを引率していた鳥類調査員の先輩たちを本当に尊敬している。5日間の調査が終わって私が助手席でダウンしている間に、3時間運転して会社に戻ってくれていたんだから。

話を戻して、早速アイルランドでの調査を、なるべく写真つきで振りかえってみたいと思う。※報告に関係ない&使わない写真しか載せないのでご安心ください!


現場到着

今回は外来種の植物調査。本日の現場ではある工事が予定されていて、川の下流には自然保護区があるから、工事のせいで河川から特定外来種が保護区に流れちゃった!繁茂しちゃった!最終的に生態系が崩壊しちゃった!やっちゃった~!ということがないようにするというのがざっくりした今回の目的!

特定外来種というのは、元々住んでいる植物を押し退けて繁茂してしまう有害な外来種のこと。法律で持ち運びや植栽が禁止されている。工事業者は自分たちの工事で法律違反をしてしまわないように、予め植物調査員に工事場所での数と位置の把握、それから工事中の管理方法決めなどを依頼するのが基本だ。

放棄された牧草地と、その下に隣接する河川、それからその川沿いに細く広がる森が今日のクエストのメインフィールド。今からここをまんべんなく歩いて、特定外来種の植物の分布を記録していく。

放棄された牧草地
バターを塗ったみたいな花びらの照りから、キンポウゲは英語で「Buttercup」と呼ばれる。これはCreeping Buttercup
放置されすぎて、湿った水路跡沿いにヤナギ林もできてきている

調査始めが12時だったので2時間くらい歩いたところでエネルギーが切れてきて、歩きかけの牧草地にしゃがんでいったんお昼に。お腹が空くと見落としも多くなるし……

基本は調査中にご飯を買いに行く時間がもったいないので、出発時に買っておく。朝早くオープンしている&ドライブスルーで出てくるのも速い&移動中のコーヒーGETということで、お昼は大体、朝マックのエッグマフィンとハッシュドポテト。30代だしこんなマック生活してたら身体が心配である。しかし前日にお弁当を作る気力がなかなかない。

牧草地の真ん中でハンバーガーを口に詰め込む。これはこれで乙だ

渡渉と遭遇

今回は河川を挟んだ範囲が調査対象。なのに、胴付き(お魚屋さんが来ている胸まで防水のやつ)を忘れるという失態をした。昨晩と今朝の雨で水位高め流速早めになっていて、どうにも長靴では向こう岸に渡れそうにない。

しかし見逃しがあってはまずいのでどうにか渡りたい。ちょっと浅くなっていそうな場所を、探り探り歩いてみる。枝を使って水深を確認して、ここはいけるか?と足を置く。おっいけるじゃんと思った瞬間……

あっ

じんわーっと冷たい感触が左足に伝わる。あ、やっちゃった。水が長靴に満たされていく。慌てて足を上げたけれど、もう手遅れだった。はーやっちゃった……長靴を脱いで逆さにするとバシャッと水が出てきた。靴下もびちょびちょだ。今日は比較的暖かいから良かったものの、テンションがあからさまに下がった。

うん、水中を渡るのはやめよう。無理は禁物。さっきまでチャレンジ精神に溢れていたのに、渡渉する気力メーターが急激に下がった。とりあえず川沿いに練り歩いて調査を続ける。

すると、森の中、何かをザクザクと伐る音が聞こえる。クマ……はいないから、別途カワウソの痕跡調査を川沿いでしている同僚か、殺人鬼のどっちかだ。時々「オウゥ!」みたいな野太い雄叫びが聞こえる。相当いきり立っているぞ。

向こうから音がする気がする。エンカウントするかも
イラクサの上に、めっちゃ朱色のきれいな虫がいた。何ていう名前なんだろう

ザッザッザッ、アオゥ!みたいな音と声が近づいたり遠ざかったりするのを聞きながらも、地を這うブラックベリーの棘を踏まないように足を高めに上げてザクザクと森を歩いていると、ちょっと開けて川を見渡せる場所に来た。ふと川を挟んで対岸に、ちょうど藪から出てきた同僚の姿を見つける。こちらに気が付かずにスラッシュホックで藪を無心に掻き分けていた。面白いので黙って彼の写真を撮っていると、人がいると思わなかったのか、私に気が付いた時には「わああ!」とめちゃくちゃびっくりしていた。

音の正体発見

「殺人鬼かと思ったよ~」と笑いながら彼は言って胸を撫で下ろした。そりゃこっちの台詞だよ。

彼はちゃんと胴付を着てきたので、川を渡って合流できた。進捗報告とお互いのルート確認をして、また解散。彼は東へ、私は西へ向かう。

要注意な生き物たち

アイルランドは、北海道と違い、マムシなし、マダニまみれのササ藪なし(マダニはいる)、オオスズメバチなし(スズメバチはいる)、そしてそして何よりヒグマなしの、ビビりでへっぴり腰の私にとって夢みたいな世界だ。岩場に手を置くときにマムシチェックは必要ないし、動物の足音や匂いに常に警戒しながら歩く必要はあまりないし(野犬はたまにいるらしい)、調査地でフレッシュなクマ糞を見て絶望したり、大きい音がしてもクマスプレーを構えて「今日死ぬかも」と思う必要もない。

それでもやっぱり自然は危険がつきもので、さっきの川渡りや湿原の落とし穴、山からの滑落なんかはアイルランドでも要注意だ。

生き物で言うと、ササの代わりにブラックベリーの大きな藪が行く手を阻むことが多い。ブラックベリーは枝に無数の固い刺が生えていて、丈夫な素材の工事用ズボンも貫通してしまう。踏み越えようとしようにも、密に生えているので下の地形が分からず、窪みがあったりすると踏み抜いて転んだりする。

ブラックベリーは日当たりがよい場所でワッと広がる
たまに長靴も貫通する棘

サンザシは、キレイで可憐な花、かわいらしい形に切れ込んだ葉っぱで美しいが……棘がえぐい。ちょうど腕の高さに枝があり、転びそうになった時にワッと掴むと、グサリという感覚と共に、転んでおけばよかったという痛みが走る。革手袋越しでも内出血するくらい固くて鋭いのだ。

花も葉っぱも何てかわいらしいんだろう。妖精の棲み処と言われるのも納得だ
でも棘はかわいくない。サンザシの前で踊ると妖精にさらわれると言われるのも納得だ

イラクサは、チクチクする成分を含んだ細かい毛を全身に持っていて、これが刺さってしまうと数日間、嫌なひりひり感に襲われる。患部を洗っても全然痛いままだ。これは基本、防水ウェアと革手袋があれば貫通しない。

イラクサは、湿っている土の上にこれまたワッと繁茂しやすい

昔、お母さんと一緒にシソと間違え、梅干しが二人とも好きだったのでなぜかその場でその葉っぱに頬擦りし、三日三晩顔がちくちくして痛かった。トラウマでしばらく梅干しもシソも食べなかった。あれは今考えるとイラクサだったのだ。もう間違えないぞ。

昔はシソと間違えていたイラクサ

スピノサスモモも、サンザシと同じようなえぐい棘がある。調査地ではスピノサスモモ林があって、通り抜けるのが一苦労だった。

ぼやけちゃっているが、侵入者絶対許さないという気概を感じる
棘が多すぎるので、下の方をハイハイして通る

いい感じの幹と枝

というわけでこれらの棘に阻まれたら迂回かくぐり抜け、を繰り返しつつ、とりあえず川を見ながら森をうろついていると、ややっ!!!ついに、いい感じの幹を発見!何と、川をちょうど向こう岸まで横切る倒木があった。

自然の橋発見!!!勝った!

幹は泥でぬるぬるなので、上に枝垂れかかっているヤナギの枝を掴みながらゆっくり渡る。落ちても流されはしないが、全身びしょぬれは避けたい。

途中、幹の上に動物のうんちがあったので一応記録。それから抜き足差し足で歩を進め、渡りきれた。すると、水中に何か川の流れに沿ってたなびくものが見える

緑色の糸状のものが見える。

植物だ。水位が上がって陸生の植物が沈んでいるだけの時もあるが、これは水草だ。糸状の葉っぱと白くて可愛らしいお花を持つバイカモの仲間にちがいない。外来種ではないが、希少種の可能性があるか、少し採取して、見ておきたい。

ということで何とか取れないだろか。と思ったが最寄りの枝が何とも足場としては頼りなく、出来れば今足を置いている場所から取りたい。こんな時に必要なのはいい感じの枝だ。後ろを振り返る。

いい感じの枝じゃん!!!採取!
枝に葉っぱをひっかけて何とか引き上げようとする
オラーッ!

無事に採取できた。家に帰ったら見ようということで袋にしまう。何だか昔小川でやったザリガニ釣りみたいな気分だ。

対岸に渡り、また地面の植物たちをじっと見ながら歩く。すると、おっ!さっき渡った川とは別の水路を発見する。

別の水路

流れがなく、淀んでいる。柔らかい泥が水底に溜まっている止水域だ。こういう場所には、さっきの流れのある川とはまた別の植物が好んで住んでいるので、要チェックなのだ。特に、外来種の中にはこういった止水に繁茂する水草もあるので、慎重に見ていく。

おっ、なんだか新しい水草発見!!!
ミズハコベの仲間だ。この水草は種が出来るまで種類を見分けるのは難しい。しかし外来種や希少種の可能性はない特徴を持っているので、今回は素通り

そろそろ戻ろうかと思って、この淀みを埋まっている切り株を足場に渡ろうとした。すると……

あっ

足場がもろく、私が置いた右足もろとも泥の淀みにぐぽっ、と沈んだ。そしてその弾みに、淀みの底に溜まっていたメタンガスが、私が踏み抜いたことで解放され、ヘドロ臭が辺りに広がる。……さ、最悪だ。川の水で濡れるのはまだしも、臭い泥が長靴に溜まったのが分かる。終わった………長靴をひっくり返すとドロドロ…と緩慢に泥水が出てきた。もちろん靴下も素足も終わっている………

しかし!これで両足がずぶ濡れになった私は最強だった。もう怖いものなしなのだ。やけくそともいう。対岸を見終わり、またあの自然の橋を渡って戻るが、もう川に落ちちゃってもいいやくらいの気持ちで、堂々と渡る。足の水没?かかってこいよ。こっちはもうとっくに汚れちまってんだ…!

しかしなんやかんやで森から、牧草地に戻る道まで戻ってくるとホッとする

森から牧草地へ戻る。牧草地に来たらもう濡れない……わけではなく、アイルランドは基本的にどこもびちょびちょで、湿った地面が多い。そういう場所には、イグサが生える。今も、眼前にイグサのパッチが広がっている。

つんつんしているのがイグサ

かつて牧草地だったこの場所は、ぬかるんで柔らかい土が牛の体重でぼこぼこに凹み、踏み固まっている。その上にもう地面が見えないくらいキンポウゲとイグサが敷き詰まっている。ここをずんずん歩いてしまうと、見えない凹凸で足をがくんっとつまずかせることが多い。なので見た目に反してかなり歩きづらい。足で地面の様子を探り探り、進んでいく。

何とかでこぼこの牧草地をぐねぐねと練り歩いたら、最後に斜面を登りながらまた外来種を探していく。斜面が意外と急(50°くらい)で、草を掴みながら進まないと、落ちそうだ。

日本では掴みやすく頑丈に根を張るササが、こういった斜面登りでは頼りになるのだが、アイルランドにはササがない。北海道の調査で崖を横断した時も、ササが命綱だった。バディを組んでいた先輩に「いいかみはら、この崖ではササ以外信じるな!俺ですら信じるな!」と謎の迫真の台詞を言われたこともあるくらい、ササは信頼できる存在だった。

アイルランドのこの急斜面では、掴みやすくてもすぐに抜ける信用ならない草か、頑丈だが棘だらけのブラックベリーしかない。めちゃくちゃ歩きづらいし危ないので、斜面が少しえぐれて平らになっている場所を足場に、行けない場所は双眼鏡で見ることにした。

そして斜面を見終わったということで、ようやく車を置いた場所の近くまで登って帰ってきた。最後は厩舎跡地周りの、荒地雑草群落と呼ばれるような、砂利とコンクリートの隙間にポソポソ生える植物たちを見る。こういう人の活動に近い場所が一番外来種は多いので、ここからやるべきだったなと反省しつつ、これにて全部をまんべんなく見られたと思う。

調査完了

やっと車に戻る。では、今回のクエスト報酬を見てみよう。

今回のクエスト報酬
濡れた左足(水)×1
濡れた右足(泥)×1
濡れた靴下×2
濡れた長靴×2
植物標本×1
分布記録

……うーん、なんだか残念なモンハンの部位報酬みたいだ……ま、まあ、外来種の分布記録がちゃんと取れたから、それでいいんだ。

ということで、これにて昼の調査完了!!!

宿にチェックイン

駐車場で合流した同僚とはひとまず現地解散し、18:30、宿に到着。チェックインをした。宿は町から少し外れた場所にあり、思ったよりもでかかったし、会社の宿代の範囲内に収めた値段なのに、とてもきれいなよいお部屋だった。私は少し潔癖症の気がある。なので、泊まる宿のきれいさが分かるまでは、それが気がかりだったりする。これが一番の仕事のネックかもしれない。しかし宿が大丈夫だと分かれば、もう怖いものなしだ。

通路
お風呂とトイレがきれいだと、途端にホッとする
え?!めちゃくちゃいいお部屋!

ひと息ついて、足を洗ったりなんやかんやで19:20。20:00にはまた調査地に出発しなきゃいけないので、案外ゆっくりする時間はない。ホテル併設のレストランで急いで注文しにいく。

ディナーの中では安めの、ラム肉のローストを頼んだ

途中でシェフが「どう?口に合った?」と確認に来てくれたので「おいしいです!楽しんでます!」と答えながら頬張りつづけた。急いで食べてごめんなさい。でも本当においしかった!特に添えてあった野菜たち。キャベツとさやえんどうを茹でてバルサミコ酢に和えたもの、それからバターで炒めたカリフラワー。バルサミコ酢やカリフラワーは普段あまり自分で使わないので、こうするとおいしいのか!という発見にホクホクしながら食べた。

そしてベイクドポテトと、肉の下にマッシュポテト。ポテトづくし

コウモリ調査

急いで食べすぎて腹痛になり、少し遅れて20:10に出発。集合は20:30、開始は21:00だけれど、ちょっと遅刻かもで焦る。まだオレンジになる前の白い夕焼けと青空がきれい……て場合じゃない、調査地に急げ!

無事に間に合った……。さっきの同僚に加えて、コウモリ調査だけ参加するために駆けつけた二人を合わせて四人での調査だ。

ここで、コウモリ調査とは何ぞやというと……アイルランドではコウモリの全種類が法律で保護されている。そしていくつかの種は家屋なんかの屋根や壁の隙間にねぐらを作ることが多い。保全措置のないねぐらの破壊は法律で禁止されている。つまりねぐらに気が付かずに家を取り壊してしまうと、罰せられる危険がある。

これを避けるために、取り壊し業者や家の持ち主は事前に環境調査会社に依頼して、コウモリが住んでいる可能性があるかないかを調べさせる。

という感じで依頼を受けて、私たちは今夜、取り壊し予定の厩舎で、コウモリ調査をする。基本は建物の特にコウモリが出入りしそうな場所を見繕って、一人一ヶ所担当を決めて、日の入りから2時間、ひたすらひびや隙間を見つめ続ける。コウモリが頻繁に出入りしたり、入ったっきり出てこなかったりしたら、ねぐらがある可能性が高い。

とはいえそれだけでは確実ではないので、バットディテクターという、コウモリが周囲の様子を確認するために出す超音波を検知する機械も、一人一つ手に持つ。人間には聞こえない周波数なので、この機械なしでの調査は難しい。しかも、周波数の高低や波形パターン、そこから推測される種類も記録してくれる。これが種によって違うので、この波形を見ながら、何の種がいたのか特定できる。

画面の中の右側の赤い四角に、黄色い小さな糸のような波形が見えるだろうか。画像出典:elecon 『Batlogger M2』商品紹介ページ

私はコウモリ調査の初心者ではあるが、とても興味深いと思う。しかし2時間立ちっぱ、片時も目を離せない、夜遅い、そして特に!お互いにおしゃべりできないとあってこの調査は調査員の間ではかなり不評だったりする。しかし中にはキャンプ椅子を持ってきて、自分の観測場所にリラックス空間を作り出す奴もいる。

夜間運転の醍醐味

23:00。コウモリ調査がようやく終わった。「気を付けて帰れよ~」と声をかけあって、おのおの家や宿に解散になった。

辺りはすっかり真っ暗だ。この真っ暗な中の夜間運転の、私的な醍醐味。それは……

ハイビームとロービームの切り替え

先頭で走っていて、対向車がいない場合は、安全のためにハイビームで視界を照らして走る。しかし前を走る車両が見えたり、対向車が来た場合は相手の視界の邪魔にならないようにすぐにロービームに切り替える。というのが夜間走行の基本だと思うが、私はこの切り替えが本当に好きなのだ。

まずはカチッカチッとハンドル横のレバーでビームを指で切り替える感触自体が気持ちいい。

このレバー好き

対向車を見かけたら如何に早くロービームに切り替えるか、というのが反射神経を試すゲームのようで面白い。そして何より、お互い相手を見つけたらささっとロービームに切り替え合う。これが、街灯もない田舎道、夜間の孤独な運転で、唯一誰かとコミュニケーションできる瞬間だと思う。お互いの思いやりで「あっ、今まぶしくないようにしますからね」と、パッと切り替わるライトを見ると、何だかホッとするのだ。

そんなこんなで宿に帰ってきた。時刻は0時。お疲れ様でした

帰宅

お風呂に入ったりなんやかんやで就寝は2時だったが、朝食が9時までなので急いで起きる。部屋を出て朝食会場に行き、適当に席にかけると注文を聞かれる。エッグベネディクトにも惹かれたが、とりあえず間違いないアイリッシュブレックファストとコーヒー、それからヨーグルトのフルーツがけをお願いした。

朝のコーヒーは必須。欠かすと頭痛吐き気がする重症さ。
ここはピッチャーにたっぷり入っていて最高だった
アイリッシュブレックファストとヨーグルト。
朝からたんぱく質たくさんでうれしい

あとはドライブして帰宅する。帰宅したらまた仕事だ。けれど、ゴールウェイに引っ越した甲斐あって、道中に植物の宝庫バレン国立公園を通りすぎるルートがあるのだ。これを待っていた。通りすぎるだけ、通りすぎるだけだから!と昨日今日で溜まっているメールのことは忘れて、カーナビのルート選択をした。

本来のルートにプラス15分くらい。移動時間を抜いて4時間は休んでいいはずなので、これくらい許して……!
バレン国立公園は、どこを走っても石灰岩、石灰岩、石灰岩!
車を停められそうな場所を見繕い、道路から岩盤の原っぱに飛び込む
ランは苦手なので、今年は克服すべく、たくさん見たい。
Early Purple Orchidを見つけて、今日のところは満足
ゲームに出てきそうな格好いい教会

道を間違えたりなんだりで、結局、計20分くらいしか寄り道できなかったが、バレン国立公園にちょっとでもいられて大満足だ。4月に引っ越した町は海に近く、その対岸にいつもバレン国立公園の石灰岩の雄大な丘が見えていた。それで、あそこに行かなきゃという気持ちが日に日に急いてしまっていた。だからとりあえずこれで少し気の高ぶりがおさまった気がする。(しかし結局、この週の土曜日もバレンへ赴いた。)

それからは寄り道なしで、チームミーティングに間に合うように、なんとか帰宅。

私は自分の車を持っていないので、レンタカーで調査に行っている。トヨタのYuko Shareというサービスで、立体駐車場に止めてある車とスマホをアプリで連携し、アプリで鍵の開閉やエンジンをかけることが出来る。まだアイルランドの運転免許には切り替えが出来ず、国際運転免許証で車を私に貸してくれるのはトヨタだけだ。感謝。さらに24時間営業の駐車場なので、朝早く夜遅い調査で使うのにとてもちょうどよい。

本来なら帰ってきたら荷物を家に戻し、駐車場に車を返し、預けた自転車で帰宅という流れだが、今回は土曜日まで借りることにしたので、家の前に停めて置けるし、荷物も積んだままでいいのが楽だった。

今回は外来種調査なので、標本の採取はあまりなかったが、それ以外の調査では、顕微鏡やルーペでちゃんと見るために、何袋も標本を持ち帰る。そして新聞に挟んで時間がある時に、同定(種の名前を特定すること)する。この作業も、野外調査と同じくらい好きだ。これは休日や就業後にゆっくり見ることが多い。時間外労働にはなるが、アイルランドの植物を知るというのは自分のライフワークでもあるし、まあいいかとなるのが、この仕事との付き合いやすさかもしれない。

別調査で採取した宿題の山

というわけで、植物調査員のとある一日(二日)はこれで終わりとなる。同定したあとは、写真や記録の整理、報告書を書いていく流れだが、とにかくこの野外調査に醍醐味がたくさん詰まっているので、今回ぜひともと思い紹介してみた。

少年心がうずいた方がいて、いい感じの枝を探したくなっていたら、とても嬉しい。

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