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ミヒャエル・エンデの『モモ』- 「時間」を取り戻しに行く

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ミヒャエル・エンデの児童文学とも言われる代表作『モモ』を紹介する連載です。あらすじと印象的な台詞、文章。「時間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住み… もっと読む
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ミヒャエル・エンデ『モモ』(15)エピローグ、そしてお話の全体を考える。

ミヒャエル・エンデ『モモ』(15)エピローグ、そしてお話の全体を考える。

本編のあとに「作者のみじかいあとがき」と題されたエピローグがあります。

ある夜、汽車でひとりの奇妙な乗客とおなじ車室にのりあわせました。

このひとが、その夜の長い汽車旅のあいだに、この物語を話してくれたのです。

「わたしはいまの話を、」とそのひとは言いました。
「過去におこったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとしてお話ししてもよかったんですよ。」

そのひとにまた会えたら、

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(14)モモは灰色の男たちを追いかけて、時間の花を取り戻す。

とつぜんに、マイスター・ホラはまた想像をぜっするような老人に変わりました。

そして、「どこにもない家」の奥に入っていきます。ホラが眠りにつく時、この世の時間が止まります。

ぐらぐらっと、時間がゆれたような感じがしました。
周りにあった無数の時計が止まりました。

いま動けるのは、「時間の花」を持つモモと、カシオペイアだけです。

その時、灰色の男たちが<どこにもない家>に押し寄せてきました。ひ

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(13)カシオペイアとの再会、おそろしい病気とさいごの道

ミヒャエル・エンデ『モモ』(13)カシオペイアとの再会、おそろしい病気とさいごの道

モモはカメのカシオペイアと再会しました。

「マタキマシタヨ」

カメの甲羅に文字が浮かびます。

「アエテ、ウレシクナイノ?」

「うれしいわよ。」モモは泣きそうになって言いました。「うれしいにきまってるじゃない、カシオペイア、すごく、すごくよ!」

カシオペイアはモモに導きを示します。

「ホラノトコロニ ユキマショウ」
「いま?」モモは、びっくりしてききました。

灰色の男たちはみんなでカメ

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(12)モモの放浪と、勇気の対決

ミヒャエル・エンデ『モモ』(12)モモの放浪と、勇気の対決

モモはひとりで「時間の花」の豊かさを抱えていました。

町へ出かけると友だちに出くわします。円形劇場で遊んだ仲です。モモは声をかけました。

「で、これからどこに行くの?」
「遊戯の授業さ。遊び方をならうんだ。」

モモがどんなことをするのかとたずねると、

「パンチ・カードごっこさ。」
「どのカードにも、いろんな記入事項がいっぱいある。身長とか、年齢とか、体重とか、まだまだいっぱい。」

これら

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(11)ほんとうの孤独とまれな豊かさ

ミヒャエル・エンデ『モモ』(11)ほんとうの孤独とまれな豊かさ

モモは、カメのカシオペイアとともに町へ出かけました。友だちに会うためです。

はじめに、仲の良かった居酒屋のニノの店に行きました。そこは、

ファストフード レストラン ニノ

に変わっていました。かつての古ぼけた店は、ガラス張りでおおぜいがひしめき合っています。順番を待つひとはみな、イライラして、モモとぶつかり、早くしろ、と言っています。

ニノはたくさんの食事をモモに持たせてくれましたが、ほと

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(10)失われた友だち

ミヒャエル・エンデ『モモ』(10)失われた友だち

モモは気がつくと、円形劇場に戻ってきていました。

実は1年が過ぎていました。マイスター・ホラのところでは、たった一日でしたのに。

モモはうたってみました。

記憶そのものにおどろくべき奇跡がおこっていました!

つきることのない魔法の泉のように、そこにはいく千もの<時間の花>のすがたがうかびあがってきます。

しかし、円形劇場には誰も来ませんでした。ただ、近くにカメのカシオペイアがいました。そ

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ミヒャエル・エンデ『モモ』〜間奏曲〜『モモ』ってどんなお話?

ミヒャエル・エンデ『モモ』〜間奏曲〜『モモ』ってどんなお話?

今まで、9回にわたって『モモ』のお話を紹介してきました。

ここで一回、立ち止まり、どんなお話なのか少し考えてみましょう。

『モモ』についてよく言われるのは、「寓話(ぐうわ)」だということです。つまり、現実の大人の世界を、別の角度から見て、そのまちがったところを見つけ、子供向けの話に託したということ。

そして、そのまちがいは「行き過ぎた資本主義社会で、あくせく働くと、心をなくす。それはおかしい

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(9)時間のみなもとへ

ミヒャエル・エンデ『モモ』(9)時間のみなもとへ

マイスター・ホラの腕に抱かれて、モモは「時間のみなもと」に着きました。

金色のうすあかりが、モモをつつんでいました。

純金の丸天井から、光の柱がまっすぐに下りていました。そこにはくろぐろとした丸い池がありました。

大きな振り子が、ぶらさがってもいないようでしたが、池のおもてをゆっくりと揺れています。

この星の振子(ふりこ)はいまゆっくりと池のへりに近づいてきました。するとそこのくらい水面か

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(8)モモは時間の国でマイスター・ホラと話す

ミヒャエル・エンデ『モモ』(8)モモは時間の国でマイスター・ホラと話す

灰色の男たちは、モモをつかまえるために会議を開きました。

鉛色の鞄、帽子、つるつるのはげあたま、小さい葉巻。おしなべて同じ格好の男たちが、形式ばった不毛な話し合いをします。

会議は紛糾しますが、最後にモモの友だちをつかまえる計画が出されます。

「この子が自由意志でわれわれの計画を援助することはないいじょう、われわれは友だちのほうをつかまえておくべきでしょう。」

とくに狙うべきは、ベッポとジ

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(7)カメの逃走と、ベッポとジジの不安

ミヒャエル・エンデ『モモ』(7)カメの逃走と、ベッポとジジの不安

ジジが空想した計画は、こうして失敗します。

その頃、ベッポは仕事を終えた道路で、なんと灰色の男たちの裁判を目撃していました。ベッポは息を殺します。

さきほど、モモの前で失態をさらした灰色の紳士が裁判で有罪になり、消されました。

罪人は葉巻をうばわれたとたんに、みるみる透明になって影がうすくなっていったのです。さけび声もどんどんかぼそくなってゆきます。両手で顔をおおって立ったまま、文字どおり消

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(6)灰色の紳士とモモが出会う。そしてデモ行進

ミヒャエル・エンデ『モモ』(6)灰色の紳士とモモが出会う。そしてデモ行進

モモの前に灰色の葉巻を吸った、灰色のぼうしをかぶった紳士が現れました。

「きみのもってる人形はすごいね!」

それはビビガール、完全無欠なお人形のことでした。灰色の男はモモに、お人形用の洋服やハンドバッグ、化粧品、香水の瓶などを次々に渡しました。

「わかったかね、かんたんなことなんだよ。つぎからつぎといろんなものを買ってくれば、たいくつなんてしないですむ。」

しかし、お人形の付属品がぜんぶそ

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(1)小さな円形劇場で話を聞く女の子

児童文学者とも呼ばれる思想家、作家のミヒャエル・エンデ。その代表作のひとつに『モモ』があります。

副題は、「時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」。

さて、小学生でも読むのにむずかしくはない『モモ』をゆっくりと紹介していきます。──もしかしたら、大人には難しすぎるかもしれません。

ローマを思わせる「大きな都会の南のはずれ」に、

松林にかくれるようにし

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(5)集まる子供たちとお人形ビビガール

ミヒャエル・エンデ『モモ』(5)集まる子供たちとお人形ビビガール

前回、床屋のフージー氏は灰色の男たちに取り込まれてしまいました。

だからもうたのしいお祭りであれ、厳粛な祭典であれ、ほんとうのお祭りはできなくなりました。夢を見るなど、ほとんど犯罪もどうぜんです。けれどいちばん耐えがたく思うようになったのは、しずけさでした。

大人たちは時間を泥棒され、大都会は騒音のあふれる砂漠になっていきました。そこで、あぶれた子供たちがモモのいる円形劇場に集います。

観光

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ミヒャエル・エンデ『モモ』(4)床屋のフージー氏と灰色の男たち

ミヒャエル・エンデ『モモ』(4)床屋のフージー氏と灰色の男たち

灰色の男たちが、大都会で恐ろしい「計画」を実行していました。たとえば、床屋のフージー氏の場合はこうです。

その日、フージー氏はひとりでお店にいました。

「おれの人生はこうしてすぎていくのか。」

深いため息をつくように落ち込んでいます。

「はさみと、おしゃべりと、せっけんのあわの人生だ。」

ほんとうは、フージー氏はべつにおしゃべりがきらいではありませんでした。

けれどそんなフージー氏にも

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