![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55163658/rectangle_large_type_2_58999b6c39138792f67f85474377bc0c.jpeg?width=1200)
Photo by
kazuyami77
ミヒャエル・エンデ『モモ』(6)灰色の紳士とモモが出会う。そしてデモ行進
モモの前に灰色の葉巻を吸った、灰色のぼうしをかぶった紳士が現れました。
「きみのもってる人形はすごいね!」
それはビビガール、完全無欠なお人形のことでした。灰色の男はモモに、お人形用の洋服やハンドバッグ、化粧品、香水の瓶などを次々に渡しました。
「わかったかね、かんたんなことなんだよ。つぎからつぎといろんなものを買ってくれば、たいくつなんてしないですむ。」
しかし、お人形の付属品がぜんぶそろってしまったらどうでしょう?
「これはビビボーイだよ! この人形にもやっぱり、たくさん、たくさんの付属品がある。」
「これでわかっただろう。もうけっしてたいくつするなんてことはいらないんだ。いくらでも新しいものがあるんだから。」
そして、この「すてきなものをぜんぶ」モモにあげようと灰色の男は言うのでした。
モモはぼんやりとながらも、じぶんがあるたたかいに直面している、いや、すでにたたかいのなかにまきこまれている、と感じました。けれどもそれがなんのたたかいなのか、だれにたいするたたかいなのかは、わかりません。
モモは、この人形はすきになれないけれど、「あたしの友だちなら、あたしはすきよ。」と言いました。
灰色の紳士は、まるできゅうに歯でも痛みだしたように、顔をゆがめました。しかし、気を取り直します。
「人生でだいじなことはひとつしかない。」
「それは、なにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。」
この話を聞くうちに、モモはジジとベッポが言っていた「時間の節約」や「伝染病」という言葉を思い出しました。
モモは、こわがっちゃいけないとじぶんに言いきかせました。そしてありったけの力と勇気をふるいおこして、灰色の紳士の心がひそんでいる手ごたえのないやみのなかに、まっしぐらに入ってゆきました。
「それじゃ、あんたのことがすきな人は、ひとりもないの?」と、ささやき声でききました。
そのとき、灰色の紳士はがっくりとしてつい秘密を話し始めてしまいます。
「きみみたいな人間がもっとたくさんいたら、われわれの時間貯蓄銀行はすぐにつぶれちゃって、われわれじしんも消えてしまう」
「われわれは正体をかくしておかなくてはならないんだ。」
「人間が節約した時間は、人間の手にはのこらない……われわれがうばってしまうのだ」
「きみたちの時間をとことんまでしゃぶりつくすのだ」
男はなぜかこれらをしゃべってしまい、それから、あえぎ苦しみ、「わすれてくれ!」と叫んで車で消えていなくなりました。
この後、モモはジジとベッポにこの出来事を話しました。モモは話を忘れてはいませんでした。
ベッポは慎重に考えようとしますが、お調子者のジジは、町の子どもたちを集めて作戦会議をはじめます。
「では、どうしたらいいか? 子どもたちでデモ行進をするんだ!」
これがジジの提案でした。
灰色の男たちは「ひみつ」を持っているのだから、それを町じゅうに知らせてしまえば、活動できなくなると思ったのです。
こうして、デモ行進がはじまりました。
みんな聞いとくれ、
ぼくらの言うことを。
一刻のゆうよもならないぞ、
さあ目をさまして、気をつけろ、
時間をぬすみに、やつらがくる。
最後は数千人の子どもたちが、加わり列をなして練り歩きました。そして、町はずれの円形劇場でやる集会へ来てほしい、と呼びかけました。
ところが、
きてほしかった町の人はひとりもあらわれませんでした。
「どうしようもないな。おとななんて、あてにすることはないんだ。これでよくわかったもんな。おれはいままでだって、おとなを信用しちゃいなかったんだけど、こんごはもうぜったいにあいてにしてやるもんか。」
こう言うとフランコもかえってゆき、ほかの子もそれにつづきました。
ジジの計画は失敗におわりました。
詩の図書館の運営に当てます。応援いただけると幸いです。すぐれた本、心に届く言葉を探します。