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10秒で読める小説

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100作書けたので、次の目標は150作!ってことでボチボチ書いていきます。
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2022年11月の記事一覧

【10秒で読める小説】北風と太陽とオカン

【10秒で読める小説】北風と太陽とオカン

「寝坊した!今日試験なのに」
俺は家を飛び出した。
外は風が強く、俺はコートの前をかき寄せた。

大学の講堂に入ると今度は暑い。
汗がダラダラ流れる。
まるで「北風と太陽」だ。
しかし俺は頑としてコートを脱がなかった。

だって、コートの下は、オカンが買ってきたヒヨコ柄のトレーナーだったから。

【10秒で読める小説】赤ずきんちゃんの真実

【10秒で読める小説】赤ずきんちゃんの真実

狼に襲われて娘を失った科学者は、娘そっくりのアンドロイドを作った。
『どうして父さんの目は潤んでるの?
どうして父さんは歯を食いしばっているの?』

「さあ、もう口を閉じて。
お前は今から姉さんの仇を取りに行くんだ。
お前なら、たとえ食われても、無傷でいられる」

配線むき出しの頭部に、赤ずきん型カバーをかぶせ、科学者は新しい娘を送り出した。

【10秒で読める小説】一緒にいたいから

【10秒で読める小説】一緒にいたいから

病魔は妻の命を奪い去ろうとしていた。
「何でも言ってくれ。僕が叶えてみせるから」
「いえ、いいのよ」
「頼む、言ってくれよ」

二十年前、彼女は僕に、夫になって欲しいと頼んだ。
それから、つつましやかな家が欲しい、と頼んできたこともある。
だがそれ以来、何も頼んでこない。

「だって最後の願いを言ったら、居なくなっちゃうでしょ。
あなたは本当はランプの精なんだから」

【10秒で読める小説】ヒーローは見た目が大事

【10秒で読める小説】ヒーローは見た目が大事

我が社は、凶悪犯罪から市民が身を守れるように、とスーパー金太郎飴を開発した。
食べると一定時間ムキムキのヒーローに変身するのだ。

が、ほとんど売れなかった。
変身後に金太郎の腹掛けスタイルになるのがダサいと酷評されたのだ。
もうヤケクソだ、と「パーティグッズ」と書いて売り出した。
バカ売れした。

【10秒で読める小説】君こそ彼女だ!

【10秒で読める小説】君こそ彼女だ!

私は雪女の子孫だ。
あらゆるものを凍えさせる力を持つ。
バレたら見世物小屋に売られる、と聞いて育ったので隠してきた。
しかし結局、人に見つかり、それ以来、毎日舞台に立っている。

今日も幕が上がる。
吹雪を出す私に、観客は釘づけだ。

「♪ありのーままのー姿見せるのよー」
歌劇女優も悪くない。

【10秒で読める小説】タイムラグ

【10秒で読める小説】タイムラグ

私は某寺の地蔵だ。
毎夜、参拝者のもとを訪ねて願いを叶えている。
時間も手間もかかるが、人々の願いの為には致し方ない。

今夜もある男を訪れた。
「待たせたな。同級生のミカちゃんと両想いにしてやろう」

「それ、二十年前の修学旅行で行った時の願いだろ?
やめろ、俺の家庭を壊さないでくれー」

【10秒で読める小説】辛辣

【10秒で読める小説】辛辣

「三匹のこぶたの教訓は、地震の多い日本では通用しない。
レンガの家は一番ダメだ。
崩れて下敷きになると危ないからね。
木の家はマシだけど安全とはいえない。
その点、藁の家は安全だ。
だから俺たちの愛の巣は藁の家にすべきだね」

「あなたの考えは現代の女性には通用しないわ。
豚と結婚したら?」

【10秒で読める小説】BL白雪姫

【10秒で読める小説】BL白雪姫

娘が、白雪姫の二次創作を考えたらしい。

「毒りんごを食べても、白雪姫はピンピンしていました。
日々の食事に少しずつ毒を混ぜ、耐性を作っていたからです」

いかにも厨ニ病っぽい設定、と私は苦笑した。
「それはそれは…。七人の小人たちも、さぞ喜んだでしょうね」

「いいえ、彼らは白雪姫の毒入りメニューの犠牲になり、すでにこの世には…」
「ひえぇ…」

「でも安心してください。もうすぐ王子様が現れて、

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【10秒で読める小説】人魚の恋心

【10秒で読める小説】人魚の恋心

俺が海辺で歌ってたら、誰かがハモってきた。
声の主を探すと、何と人魚だ。
どうりで上手いわけだ。
「俺たちの歌をネットに投稿していい?」
恐る恐る尋ねると、
「人魚だとバレないならいいよ」
と、人魚は微笑んだ。

さっそく投稿した動画は、またたく間に人気が出た。
俺は有頂天になり、動画を増やしていった。

だがある日、人魚は声を失った。
がっかりした俺を見て、人魚は泣きながら走り去った。

【10秒で読める小説】恩返し

【10秒で読める小説】恩返し

私は白鷺だ。
ある夜、怪我をして動けないでいると、男が来て
「鶴か。いつか恩返しに来てくれよ」
と、手当てをしてくれた。

元気になった私は、恩を返そうと男を訪れた。
人間の女に化けている私を見て、男は怪訝な表情で
「誰?」
と尋ねた。

「私です、私。あの夜、出会った…」
「身に覚えねーよ! あ、サギじゃねえの?」
「そうです!! 気づいてもらえて嬉しいです!」

塩を撒かれた。なんで…?

【10秒で読める小説】ウラ話

【10秒で読める小説】ウラ話

狼と熊と鷲はヤケ酒を呑んでいた。

「やってられねぇ。最初に指名されたのは俺らだったのに」
狼はそうクダを巻き、鷲も頷く。

「代わりの連中、あんなに人気が出るとはな。
依頼を請けとけば良かった」

「けどフツー断るに決まってるよ、団子一つで鬼退治なんて、割の合わねぇ仕事は」
熊はそう言って盃に清酒・鬼殺しを注いだ。

【10秒で読める小説】人の、ではなく…

【10秒で読める小説】人の、ではなく…

夫と二人で海に面した、見晴らしのいい旅館に泊まった。
その晩、真っ暗な場所に閉じ込められ、ぽーんと放り出されて空を飛ぶ夢を見た。

「今後の飛躍の暗示かしら?縁起がいいわぁ」
翌朝そう話すと、夫は首を振った。
「ここ、幕末の砲台跡らしいよ。残留思念だろうね」
「大砲の、弾の…?」

【10秒で読める小説】心機一転

【10秒で読める小説】心機一転

会社が買収され、解雇された。
落ち込んだが、この機会にやりたい事をやろう、
と思い直し、
私は年齢を偽って坂道グループの新規メンバーのオーディションに行った。

会場には大勢の応募者がいた。
その中に、解雇された取締役を見つけた。
彼も同じ気持ちなんだ、と私は心が励まされた。

二人とも落ちたけど。

【10秒で読める小説】帰還は三百年後

【10秒で読める小説】帰還は三百年後

竜宮城らしきものが発見されたというニュースが報道された。
ロマンを感じた俺は探索隊に志願した。

が、友人は大反対した。
「何がロマンだ!
あれは大昔の、奈良時代に出来た物語だ。
竜宮城なんて存在しないんだよ」

俺は、チッチッチと指を振った。
「分かってねぇのはお前だ。
こっちの百年はあっちの一年。
てことは、乙姫が実在したらまだ三十代前半。
ガッキーと同じだ。
これに勝るロマンがあるかよ」