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非認知能力を伸ばす8つのプログラム

はじめに

「幼児期における非認知能力プログラムの近年の動向」という東大の先生たちが書いた論文のメモ

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2000560/files/edu_60_10.pdf

論文の内容そのままじゃないか、というお叱りを受けそうですが、そうで
す。だって自分用のメモとして(も)書いているんですもん

非認知能力って

ざっくり非認知能力

IQ や学力テストでは測ることができない自信や対人関係など内面的な能力(スキル)のこと。つまり、テストなどで測れる知っているか知っていないかというのは「認知」、我慢する力とか感情のコントロールみたいにペーパーテストでは測れないのが「非認知」と言われている。

だだし、「能力」訳されているが、原文ではskillだったり、abilityだったりする。つまり、「身につけることが可能」(学習可能)という点が示唆されている。

ノーベル「経済学」賞者の研究でブーム

こんなグラフどこかで見たことありませんか?

2001年にノーベル経済学賞者のヘックマン教授が「非認知能力(skils)」は社会で成功するために必要なスキルであると発表して、瞬く間に世界中で非認知ブームが起こりました。

このグラフはペリー就学前介入プログラムという1960年代に行われた有名な社会実験をもとに論じられています。ポイントは40年の追跡調査で

プログラムを受けた子供たちは受けなかった子供たちと比べて、

高い収入
高い持ち家率
低い犯罪率
低い生活保護率

という「社会に適合した生活」を送るようになったそうです。

つまり、

1 子どもが就学前にいかに質の高い教育プログラムを提供できるかがこれからの社会での成功を左右する

2 大人になってからでは教育の費用対効果低い

みたいな捉え方をされたわけです。

ここ10年で子ども向けの学習や運動プログラムのチラシや広告を見かけませんか?

ブームの火付け役になったのですが、実は問題点も多々あって本当にそうなのかというのは未だに曖昧だったりします。

ただ、なんとなくこれからの社会への教育はこれまでと同じではダメだよね

みたいな肌感覚の認識が共有されているのです。

【問題点】
1 グラフの単位が分からない 
2 ペリープログラムでは「非認知能力」に焦点を当てた教育をしたわけではないので、「非認知能力の差だと思われる」みたいな消極的な理由で成り立っている。
3 貧困家庭(ハイリスク)への介入であり、低水準から平均への回帰であって、一般家庭の平均から高水準への伸びは不明。

【論文】

https://www.jstor.org/stable/2677749

【関連記事】

OECDの見解

OECD(経済協力開発機構)という先進国を集めた国際的な「経済」機関では非認知能力を「社会情緒的スキル Social and Emotional Skills」という概念で表現しています。

具体的には

1 思考、感情、行動における一貫したパターンで
2 学習経験を通じて発達し
3 個人の人生を通じて社会経済的に影響を与える

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2000560/files/edu_60_10.pdf

ヘックマン教授にせよ、OECDにせよ、これからの社会は知っているか知っていないかという知識量の時代から、自分をコントロールするスキルが非常に重要になってくると言っているんですね。

OCEDの取り組みは、そういった漠然とした非認知能力を実験などで計測可能なところに落とし込んで、探ろうという野心的なものなのです。


問題点

ヘックマン教授にしてもOECDにしても、ポイントはどちらも「経済」的な成功という視点から教育を捉えています。

また、ヘックマン教授ら「教育経済学」関係の方々が唱える非認知能というのは、

認知能力意外のもの一般というものすごい漠然とした概念であり、

パーソナリティや気質など後天的に学習するのは難しい概念も含まれているので

心理学的な視点からは「能力」という用語は適切ではないという指摘もあります。

東大の論文で紹介されている非認知能力プログラム

ここでは近年10年間に効果研究が発表された幼児対象のプログラムを紹介します。研究がなされていない、謎めいたプログラムの星の数ほどありますので、本当に効果があるのか調べてみることが重要ですね。

1 PATHプログラム

https://youth.gov/content/promoting-alternative-thinking-strategies-paths%25C2%25AE


PATHS プ ロ グ ラ ム( Promoting Alternative Thinking Strategies)は,社会情緒的スキルの向上および,攻撃行動や問題行動の減少を目的とした非認知能力プログラムのこと。 

ABCD( Affective-Behavioral-Cognitive Dynamic)モデルに基づき,情動,認知,行動を自然なかたちで統合し、発達を促す点を重視しているようです。

PATHS®のカリキュラムは、3つの主要な概念領域における知識とスキルを子どもたちに提供することを目的とした包括的なレッスン(学年により36~52レッスン)から構成されています。

1)自己管理
2)感情と人間関係
3)社会的問題解決です。

例えば、2の感情リテラシーには、感情を識別してラベル付けすること、感情を表現すること、感情の強さを評価すること、感情を管理すること、感情と行動の違いを理解することを学ぶそうです。

具体的には年少の子どもはFeeling Faceカードを一日中使い、年長の子どもはFeeling DictionaryやFeeling Thesaurusなどの学習ツールを活用するみたい。要するに、感情表現のコトバ化ですね。

幼児期から自分の思いをコトバにする学びをすると、情動に関する知識,社会的な問題解決能力,友達と協力し合う力などが有意に向上したという研究報告があります。

【論文】
Kusché, C. A. (2020). The PATHS curriculum: Thirty-five years and counting. In Social Skills Across the Life Span (pp. 201-219). Academic
Press.

2 BEST in Classプログラム

https://education.ufl.edu/best-in-class/#:~:text=BEST%20in%20CLASS%2C%20developed%20with,which%20place%20them%20at%20future

BEST in Class とは米国教育科学研究所の資金援助を受けてフロリダ大学で開発された保育者・教師向け介入プログラムです。

教室内で挑戦的行動をとったり,将来的に社会性と情動の学習困難を引き起こす危険性がある子ども(PK~3年生)のニーズを解決することを目標としています。

プログラム教育では,子ども―保育者間の関係性と保育者自身の自己効力感を高め,その結果としてクラスの雰囲気や子どもの社会冗長的な発達を伸ばすそうです。

内容としては、全14週間の教育プログラムを受講し,また1週間に1 回メンターと面談の時間を設け,ビデオ記録をもとに 自分の指導を振り返ったり、今後の指導方針を計画したりする。

こういった研究成果に裏付けられた教育プログラムを保育者や教師が受けることが出来るっていいですね。

我が国にもないのかな?

3 Conscious Disciplineプログラム

Conscious Discipline プログラム(以下CD)は,

子どもたちの自己制御能力や社会情緒的スキル
子どもたちが安心して学べる学級環境作り

という、子どもと保育者両方に向けた非認知プログラムのようです。理論的には、データに基づきトラウマに配慮したアプローチです。(trauma-informed approach)

ハーバード大学が行った全米トップ25の社会性と情動の学習プログラムの分析では、10のカテゴリーのうち8つで高い評価を得たそうです。ハーバード大学の研究者によると、「CDは教師が日常の状況を学習の機会に変えるために使用できる、一連の行動管理戦略と教室の構造を提供します」と述べています。

コンシャス・ディシプリンは、科学的かつ実践的に成功するよう設計された、以下の4つの要素を包含しています。


この図の上の方にある7つの社会情緒的スキルはこんな感じです。

1 冷静さ(アン ガーマネジメント)
2 励まし(親切さ,思いやり,向社会的行動) 
3 アサーティブネス(攻撃性と主張 の区別)
4 選択(衝動性の制御と目標の達成)
5 共感(感情制御と他者視点の取得)
6 ポジティブな意図(他者との協力と問題解決能力)
7 結果(振り返り)

CDには保育者向けに classroom fidelity(教室忠実度評価)という基準が用意されていて、どういうものかというと「教室での行動を管理する」とか「情緒的な支援の提供」というものです。

研究の結果では、教室での有意義な活動を促したクラスでは子供たちの実行機能スキルの改善と有意に関連し、「情緒的支援の提供」がなされたクラスでは、社会へとの繋がりを意識するようになったそうです。なんかあたりまえといえばそうですが・・・。

結論から、CDの導入が教室の質だけでなく、子どもの実行機能スキルにプラスの影響を与えることを示唆されます

ただし、教師の忠実度と子どもの基礎学力との間には、有意な関係は見られなかったそうです。

4 Tools of the Mind 

https://toolsofthemind.org/

Tools of the Mind プログラム(以下 Tools)は,自己制御能力の育成に注目したプログラムとして有名です。

ロシアの天才心理学者ヴィゴツキーの認知発達に関する理論に基づいて開発された,子どもの遊びの発達を重視したカリキュラムなのが特徴です。子どもたちが学校生活や社会生活を送る上で必要なのは、事実や技能の習得だけではなく、心の道具であるメンタルツールを身につける必要があると考えます。

そういった意味で、遊びを通じてメンタルツールの使い方を身につけるのが本プログラムの特徴ですね。

https://toolsofthemind.org/get-tools/

5 Positive Action 

https://www.positiveaction.net/

Positive Action プログラム(以下PA)は,「ポジティブな行動をとると気持ちがいい」という直感的な哲学から出発し、肯定的な自己概念の形成を目的としています。その結果として、社会情緒的スキル や認知能力の向上だけでなく,身体的健康の維持などを目指します。

PAプログラムの思考-行動-感情の輪(TAF)とは、思考が行動につながり、その行動が自分に対する感情を生み、それがまた思考につながるという、人生におけるこの仕組みのことです。

前に紹介した「井の中の蛙効果」のところに出てくる「自己概念」と似ていますね。

こんな感じで徹底的に「肯定的な自己概念」を持つコースが組まれています。

すんごいアメリカちっくだなと思ってしまいますが、有名なデータでは日本の子供たちはあまり自分に対して肯定的なイメージを持っていないという報告もあります(ちょっと古い)。そんな意味でこのPAは、今の日本の教育(子育て)に必要なエッセンスかもしれませんね。

https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26gaiyou/tokushu.html

ただし、巷で流行っている「スーパーマンポーズ」とか「パワーポーズ」の効果はかなり限定的というか、「効果がある」と一般化するのは非常に難しいという研究報告が出ております。ハーバードの先生の研究というので一人歩きしてしまった感じですね。

https://www.sciencedaily.com/releases/2017/09/170911095932.htm

小さい時から「コトバ」と「カラダ」を使った遊びを通じて、肯定的な自己概念を作り育てることがとても大切なようです。

6 Fun FRIENDS

https://friendsresilience.org/funfriends


オーストラリアで開発された認知行動療法(CBT)に基づくプログラムで、不安やうつ病の予防と治療、家族、学校、コミュニティの回復力を促進するための実践として世界保健機関(WHO)によって承認されています。

対象は、就学前の幼児から大人までと幅広く、12ヶ月および3年間のプログラムでがっちりと成果を出していくようです。

このプログラムの特徴的なところは、

ストレスへの対処法

を中心にとらえ、そこから自信を育むというアプローチです。ですから、へんに「ボクはスゴい」見たいな根拠のない自信を植え付けるというより、実際に起こるストレスをどのように扱うのか、そういった具体的な体験の積み重ねを重要視しています。

FRIENDSは、子供たちがストレスや不安に効果的に対応するテクニックの頭字語です。

F = 感情 (共感トレーニングと自己規制)

R = リラックスすることを思い出す(R=リラックスすることを忘れない(リラクゼーションとマインドフルネス戦略)

I = がんばれる(I = I can try my best(頑張ります) (役に立たない考え方を役に立つ考え方に変える

E = コーピング・ステップ・プランと役に立つ解決策を見つけるためのストラテジーの探求(親指を立てる行動ではなく、親指を立てる行動を選択する)。

N = 今、頑張っている自分にご褒美をあげよう(物質的なご褒美ではなく、対人的なご褒美を選ぶ)。

D = 練習することを忘れないでください(FRIENDSのスキルを使い、地域に還元することを選ぶ)。

S = 落ち着いていること(価値観に基づくロールモデルとサポートネットワーク)

けっこういい感じですね。

7 THE SELF KIT ルーマニア

これはちょっと情報が見つからないので、論文によると

The SELF KIT プログラムとは,ネガティブ感情に 対処できるようになることを目標とした感情制御に特化した介入プログラムである。保育者や養育者のアン ケートをもとに子どもが感情制御しにくいネガティブ 感情として,悲しみ/落ち込み,分離不安,心身が傷 つくことへの恐れ,怒り,罪悪感,恥,妬み,羨みの 8つの感情を取り上げ,これらの感情に関する物語な どを使って,感情への対処の仕方を学ぶ。幼児・児童 どちらにも実施可能なプログラムとして効果検証され ている(Opre, Buzgar & Dumulescu, 2013)。

らしいです。

【論文】

https://www.researchgate.net/publication/281268415_Empirical_support_for_self_kit_A_rational_emotive_education_program

8 Mindfulness

https://www.researchgate.net/publication/321358562_Effects_of_a_Mindfulness-Based_Program_on_Young_Children's_Self-Regulation_Prosocial_Behavior_and_Hyperactivity

マインドフルネスとは、今ここでの経験に,評価や判断を加えることなく能動的な注意を向けることと定義されています。

つまり、身近な例で言えば、瞑想ですね。そう、座禅

ビジネス界隈でちょっと前にブームになって、それが学校教育にも取り入れたれた感じです。インド人向けのインターナショナルスクールがヨガやっているって一時期話題になりましたね。ここ良い学校ですよ。

https://ja.tokyo.globalindianschool.org/

このスタンフォード大学のスティーヴン先生の実践とか有名ですね。

まとめ

非認知という魔法のコトバが流行りだして、ブードゥー教レベルの謎めいた実践から、かなり体系的に検証を繰り返している実践まで誕生しました。

有名どころで言うと、ビジネス界隈発の心理的安全という概念ですね。(ま一部ではこれもアヤシイという話はありますが)

心理的安全性

エイミー・デビッドソン先生が発表してから雨後の竹の子のように本が量産されております。例えば👇

でも、こんなに難しいこと言わなくいても

先生がニコニコしていると教育効果が上がるという報告もあります。

ニコニコ教室の例

https://www.edutopia.org/article/welcoming-students-smile

先生がニコニコして迎えるだけで雰囲気違いますよね。なんか、それが子供たちにとって一番大切なことなんじゃないですかね。

非認知能力ってコトバ、難しく感じますけど、ここで紹介した8つのプログラムに共通して言えるのは

子供たちが安心して学べる環境

子供たちが心落ち着けて振り返る

振り返って、「これでいいんだ」という自信を持ち、肯定的な自己概念を形成する

という順番で

自分と向き合うスキル

を教え・身につけさせることなんです。

ですから、保育者や教師が出来るのって、子供たちに安全な場所を与え、彼らの持っている能力・資質を引き出すことなのだと思います。

だって、 EDUCATION の意味は

ex  外へ duco 導く

つまり、子供たちの力を解放してあげることですから。

education = 教育、 教えて育てるじゃないんです。

教えるのもめちゃめちゃ重要ですけど、教えすぎは禁物ですよー。


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