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pinguincafe/2020年の本棚

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2020年に読んだ本の記録を投稿します。
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2020/06/17 「モノ」としての本の楽しみ

2020/06/17 「モノ」としての本の楽しみ

ここ数年、初回の授業では自己紹介として、自分の略歴と好きなものについて話をして、本を紹介するという型が定着している。

今年度生徒達に紹介したのは2冊。筒井康隆『残像に口紅を』(中公文庫)と泡坂妻夫『生者と死者―酩探偵ヨギガンジーの透視術』(新潮文庫)だ。今年度担当するのは日常の学習ツールとしてタブレット端末を使っている学年で、電子書籍で読書をする生徒もいるので、あえて「モノ」としての本を楽しむこ

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2020/05/30 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』を読む/好きなものの話は誰かとしたい

2020/05/30 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』を読む/好きなものの話は誰かとしたい

今朝、妹からLINEが届いていた。
何かと思ったら、アニメ『鬼滅の刃』に夢中だという姪1号(5歳)が「恵理奈は誰が好きなの?」と尋ねているとのこと。わたしが『鬼滅の刃』を知っている前提だ。

この作品が猛烈な人気であることは知っているけれど、これまで漫画もアニメにも触れずにいた。が、姪1号がアニメを見ていて、その話をわたしとしたいというならば鬼滅の山に入山せずにはおれない。だって、自分がおもしろい

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2020/02/19 集めたい/本の森で迷子

2020/02/19 集めたい/本の森で迷子

昔から蒐集癖がある。
シリーズで出ているものであれば、すべて揃っていると嬉しい。子供の時分から続いているのは、本とペンギン、CDだろうか。大人になってから、ここにわずかな美術作品が加わる。

特に、本は全集が好きで、幼い頃、自宅には『ディズニー名作絵話』全24巻(講談社)、祖父の家には『世界の童話』全50巻(小学館)があって、いつでも好きなものを選んで読めることが嬉しかった。文字も読めない頃から、

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2020/02/16 引用と出典/ポール・ヴァレリー(1)

2020/02/16 引用と出典/ポール・ヴァレリー(1)

「『人は後退りするように未来へ進む』みたいな言葉、誰が言ってたのだったかな」――きっかけはそんなものだ。

有名な箴言ならすぐに分かるだろうと踏んで、ネットで検索してみる。案の定、フランスの作家ポール・ヴァレリー(Ambroise Paul Toussaint Jules Valéry, 1871 - 1945)のものらしいと出た。ただし、ボートの比喩は記憶になない。ざっと検索する限りでは、「ポー

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2020/01/29 仕事の極意

2020/01/29 仕事の極意

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』第3巻に、映像研顧問・藤本先生による「仕事の極意」が披露される。

必要以上に働かない! 隙を見つけては遊ぶ! これが仕事の極意!(p5)

彼は、部活顧問はブラックなので、日曜や夏休みに部活をすると自分の休日はなくなってしまうと話して、映像研の3人を面食らわせる。その後に続けた言葉が、上記の仕事の極意。結果、3人に発破をかけることになる。その後、藤本先生は金森氏

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2020/01/16 ある複製本の思い出

2020/01/16 ある複製本の思い出

今年から、ここ10年ほどできなかった自分の勉強を再開することにした。先日そのために必要となりそうな本を古書店でまとめて購入した。

その中のひとつが今日届いた複製本だ。貴重な古典籍は実物そのままの姿を再現した複製本が作られることがある。ただしその数は決して多くない。限定部数で発行されるのが常だ。

手許に届いたものは、上中下三巻を収める帙こそ少し褪色しているものの、大きな傷みはない。解説も付属して

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#001/千葉雅也『デッドライン』新潮社

#001/千葉雅也『デッドライン』新潮社

 精力的に活動を続ける哲学者による初めての小説。今季の芥川賞候補作として選出された。作者の千葉氏による『動きすぎてはいけない』『勉強の哲学』が刺激的だったので、ぜひ読みたいと思っていた。

 2000年代初頭、東京で一人暮らしをしながら大学院で哲学を学ぶ主人公「僕」は、研究テーマと向き合いながら修士論文を書く。主人公にとって修論を書くことが、「つねに誤解される可能性」(p13)を持つ言葉を用いて、

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