マガジンのカバー画像

ソーのこの優しさに憧れる

13
優しいを集めます。
運営しているクリエイター

#小説

小説|人だからさ

小説|人だからさ

 十年ぶりに彼女は町へ帰ります。知らない土地に思えました。古い建物の屋根は焼け落ちており、土壁には銃痕。支援金で建てられた新しい家々には知らない人々が住んでいます。夜に沈む町は変わりました。そして彼女も。

 十年前。彼女と病弱な幼い弟は、町の飯屋で無口な店主から軍人の残飯をもらいました。姉弟が急いで食べるかたわら、店主の腹が鳴ります。店主の痩けた頬を見て「なぜ、くれるの?」と彼女。店主は答えませ

もっとみる
【1話完結小説】文化祭(午後原茶太郎シリーズ)

【1話完結小説】文化祭(午後原茶太郎シリーズ)

高校生活最後の文化祭。俺はベタながらお化け屋敷をやりたかった。男子はほとんど俺の味方をしてくれたけど、女子の大半が「メイドカフェをやりたい」と譲らない。

「文化祭と言ったらお化け屋敷だろ!」
「そんな暗いしキモチワルイの絶対イヤ!」
「メイドカフェ、一回くらいやってみたいし!」
「そんなもん女子しか盛り上がんねーだろ!」

意見は平行線で、出し物は永遠に決まらず、明日、改めて仕切り直すことになっ

もっとみる
【短編小説】「靉靆」

【短編小説】「靉靆」

 都会の夜はどこか寂しく思える。
 青白い空も、いつまでも一人点滅している看板も、遠くで揺らいでいる電波塔も。全部自分のもののようにも思え、また世界の果てのようにも感じる。白い息の行方を目で辿ると、薄明の空が僕の頭上に横たわっていた。――みんなの知らない夜の姿、それを見るために僕は人より早く目を覚ます。
「おはよう、じいちゃん」
「えっと、お前は……たかし?」
「そう、だね」
 僕は目の前から歩い

もっとみる
好々爺しげさんの独り言は         かるくて深くてせつない

好々爺しげさんの独り言は         かるくて深くてせつない

この世を去った後に

その人の存在が
さらに
大きくなるということがある。

しげさんが亡くなったのはコロナ禍真っ只中の春だった。
葬儀はひっそりと行われ、家族だけに見送られて旅立った。

あれから1年半。しげさんの言葉は生き続けている。いや、その言葉の重みは増しているのだ。
しげさんの生前の生活は平凡だった。穏やかな日々。でも、だからこそ心豊かに生きるヒントがいっぱい。

ちょっと覗いてみましょ

もっとみる