青猫

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【短編小説】「靉靆」

 都会の夜はどこか寂しく思える。  青白い空も、いつまでも一人点滅している看板も、遠くで揺らいでいる電波塔も。全部自分のもののようにも思え、また世界の果てのようにも感じる。白い息の行方を目で辿ると、薄明の空が僕の頭上に横たわっていた。――みんなの知らない夜の姿、それを見るために僕は人より早く目を覚ます。 「おはよう、じいちゃん」 「えっと、お前は……たかし?」 「そう、だね」  僕は目の前から歩いて来た、海老の如く腰の曲がった老人に声掛けた。朝靄が街を包み込んでいて、視界はフ

    • 2023.12.29

      坂本龍一の曲名みたいなタイトルですがそんなに価値あるものではなく、どこにでも居るような人間の経過報告であることを冒頭で謝らせてください。 これを言うことによって以下の自分語りが許されると祖母に教えてもらった気がする。 小説が書けなくなって、久しぶりに文章を書くので、読みにくかったらすみません。 全部を捨てて、死んでもしまっても良かった。 新品のタオルケットに包まれたら泣いてしまうくらいに自分は弱かった。自分を守る外装は上半期で契約を辞めた。そうすれば、砂糖菓子よりも脆い内

      • あの時、赤信号を渡れなかったきみへ

        父親が生前遺した唯一の図書カードで彼女への誕生日プレゼントとして本を買うために隣町の本屋に向かっていた時のことだ。原付で小さな交差点の赤信号に止まった時にふと、彼のことを思い出した。泣きながらも、漠然とした未来に走って、赤信号を越えれなかった君のこと。 たとえば緩い幸せがだらっと続いたとする、の緩い幸せの部分を感じることが出来ている日常を送っている私は初めて彼に共感することが出来た。 私は最近、人生のこれでいいという基準が出来てしまった。これでいいというには最低基準の幸せの

        • 星が降って来たからさばいてみた。

          先に言っておくと昨日はなんとか流星群だったらしい。 2日前に干した洗濯物を取り込もうと思い立った時にはもう夕暮れだった。排水溝が詰まりに詰まって雨水が流れなくなったツバル国みたいなベランダに大きな金平糖が落ちていた。というよりも多分これは星だった。 多分というのはこんな至近距離で星を見たことがなかったから断言が出来ないのだ。私は洗濯物をそっちのけでその星を持ち上げた。色は白というより透明に近く、内側が不規則にぼんやりとした黄色い光を放っていた。重さは11ポンドのボウリング玉く

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        【短編小説】「靉靆」

          【短編小説】「沙羅と夏」

           一/ 「妹よ、やはりお前は疎ましい」  妹宛の郵便物を覗き見た玄関先で、私は思わず呟いた。――お姉ちゃん、お姉ちゃんと、耳鳴りのような蝉の声までもが妹のもののように聴こえ、私は身震いをする。しんみりとした長い廊下が、ただ呆然と立ち尽くす私をじっと見つめていて、無情なまでに冷たく苦しい夏の気配が流れる汗となり、私の首筋を静かにたらりと垂れた。  里美こと私の妹は、一ヶ月前にこの世を去った。自死であった。  遺書などは探しても見付からず、何を考え、何を思い、その選択に至った

          【短編小説】「沙羅と夏」

          【短編小説】「夜行衝動」

          ふと、視線を感じた。  生物的本能である。  それが誰から何処から向けられているものかは分からなかった。  私は、会社の帰りに古本屋に寄った。ほんの気まぐれだ。  残業終わりの夜の匂いがそうさせたのか、私は気付けばここに立ち寄っていた。本の背を眺めながら店内を歩いていると、一冊の本の前で止まった。  ――少女地獄、夢野久作著。  私はその本を読んだことが無かった。しかし覚えている。――まだ愛を知らない、しがない大学生の私が経験したおそらく初めての恋といえる話である。

          【短編小説】「夜行衝動」

          【短編小説】「誰そ彼」

           或る秋の夕暮。  私は缶コーヒーを片手に延々と続くかと思われる階段を静かに降りていた。昨日の天気は雨であった、故にコンクリートは湿り、駅のホームには悶々とした空気が漂っている。明るい地上から地下鉄のプラットフォームへと降りて行く様子は地獄へと堕落していくように感じ高揚感というか、不吉感というか、得体の知れない感情が震える。さもありなん、私は既に堕落した人間なのだ。純情と気遣いは五年前の箱根で、愛と希望は一昨年の伊豆で棄てたのだ。――そうして先程、人生と未来を手放して来た。

          【短編小説】「誰そ彼」