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【書籍要約】ORIGINALS誰もが「人と違うこと」ができる時代

あらすじ

「世界の見方だけでなく、生き方さえも変わってしまう」。フェイスブックCOOシェリル・サンドバーグが本書をこのように絶賛する理由は、読み進めるうちにわかるだろう。

著者のアダム・グラントは、10年以上にわたり様々な企業の「オリジナリティの研究」を行ってきた気鋭の組織心理学者であり、不変な人間と社会の本質を、次々と浮き彫りにしてくれる。ここでのオリジナルな人とは、斬新なアイデアを思いつくクリエイティブな人という意味ではない。率先してアイデアを実行し、実現していく人を指す。

この本には、真に斬新なアイデアを見分ける方法や、アイデアを的確に発信し、支持を得る方法など、オリジナルな目標を現実のものにするためのヒントが宝箱のように詰まっている。それを裏づける事例も実に多彩だ。15年以上の歳月をかけて制作するという究極の先延ばしによって「モナ・リザ」を最高傑作へと昇華させたレオナルド・ダ・ヴィンチや、「うちの会社に投資すべきではない理由」をプレゼンしたことで、巨額の出資を得た起業家。こうした一見突拍子もない事例とともに、驚きと納得に満ちた事実が次々と浮き彫りになっていき、爽快な読後感が待っている。個人のオリジナリティを磨くだけでなく、組織のマネジメントや子育てにも活かせる知見が得られるはずだ。

創造的破壊をめざす人は、必ずといっていいほど逆風に遭う。しかし、世界をより良いものに変えていくエネルギーと、その秘訣を本書から体得しておけば、どんな荒波もしなやかに乗りこなせるのではないだろうか。

本書の要点

①オリジナルな人とは、既存の価値観に逆らい、斬新なアイデアを発想するだけでなく、実際の行動によって、アイデアを実現していく人を指す。

②オリジナリティを発揮するうえで、特別な才能もリスクを冒すことも必要ない。成功者は、ある部分で大きなリスクを冒しつつ、他の部分では慎重になることでリスクを分散している。

③ 傑作を生み出す秘訣は、多くのバリエーションを試して、正しいものに突き当たる確率を高めることである。
 
④ 発言を通しやすくするには、「気むずかしい上司」に意見を伝え、味方につけることが効果的だ。

必読ポイント→ 変化を生み出す「創造的破壊」

そもそもオリジナルの人とは?

オリジナルな人とはどんな人だろうか。世の中には、物事を達成するのに2つの方法がある。1つは、多数派や従来の方法に従い、現状を維持する「コンフォーミティ(同調性)」によってである。もう1つは、これまでの価値観に逆らってアイデアを生み出し、それを率先して実現する「オリジナリティ」によってだ。重要なのは、斬新かつ実用的なアイデアを発想するだけでなく、実際に行動を起こし、より良い状況をつくり出しているという点である。

オリジナリティを発揮するうえで、特別な才能は必要ではない。重要なのは、「好奇心」を原動力に、既存のものに疑問を持ち、より良い選択肢を探すことである。この好奇心とは、既知のものを従来とは違った視点で見つめ、新たな洞察を得る、「ブ・ジャ・デ」を体験することで生まれる。これは、初めて見たのに以前も見たかのように錯覚する「デ・ジャ・ブ」と真逆の状態だ。

幼い頃から突出した才能を発揮する早熟な天才児たちが、大人になって世界を変革することはまれである。その理由は、彼らが独創的なことを行う術を身につけておらず、周囲から評価されたいがために、既存のルールに従うようになるからだ。つまり、「成果を出したい」という意欲が足かせとなり、オリジナリティが二の次になってしまうというわけだ。


成功する起業家はリスク・テイカー?

私たちは、オリジナルな人たちを、生まれながらにリスクや不安に強く、我が道を行く存在だと考えてしまう。そして、オリジナリティを発揮するには、リスクを冒すことが必要だと思いがちだ。しかし、こうした通説を見事に覆してくれる事実が明らかになった。

経営管理学研究者のジョセフ・ラフィーたちは、起業に専念した人と、本業を続けたまま起業した人の追跡調査を行った。前者は、自信に満ちたリスク・テイカーであり、一方、後者は自信の程度が低く、リスクを嫌う傾向にあった。さて、いずれが起業を成功させるのに有利なのか。蓋を開けると、本業を続けた起業家のほうが失敗の確率は、33%低かった。つまり、大胆なギャンブラーが興した会社のほうが脆いのである。

成功を収める人は、ある部分で大きなリスクを冒しつつ、他の部分では慎重になることでリスクを分散し、バランスをとっている。リスク軽減の恩恵を享受し、成功を収めた企業の最たる例は、ワービー・パーカーである。起業当時、学生だった共同起業家の四人は、ネットでメガネを注文するという新奇な発想を受け入れてもらえるように奔走した。その一方で、事業の代替案を考え、ビジネスプランを磨くための授業を受けるなどして、事業の不確実さを軽減した。こうした努力の甲斐あって、2015年には、ビジネス誌『ファストカンパニー』の「世界でもっとも革新的な企業ランキング」で一位に選ばれるという快挙を成し遂げた。

このように、起業家は進んでリスクをとろうとしているわけではない。むしろ、一般の人たちよりもリスク回避型であることが他の研究からも明らかになっている。つまりオリジナルな人たちは、一般に思われているよりも、ずっとふつうの人たちなのだ。唯一違いがあるとすれば、それは彼らが不安や恐怖を抱きながらも「行動を起こす」という点である。失敗するよりも、挑戦しないほうが後悔すると、身をもって感じているからだろう

大胆に発想し、緻密に進める


キラリと光るアイデアとは?

オリジナリティの最大の障害は、アイデアの「創出」ではなく、「選定」であるという。斬新なアイデアは世の中にあふれているが、その中から適切なものをうまく選び出せる人は限られている。

さらには、人は自分のアイデアを評価する際、えてして自信過剰になる傾向にある。長所にばかり目を向け、欠点を過小評価してしまう「確証バイアス」に陥りやすいからだ。

では、創作者が自らのアイデアを正しく評価できないとすれば、傑作を生み出す可能性を高めるにはどうしたらいいのか。それは「多くのアイデアを生み出すこと」に尽きる。特定分野の天才的な創作者は、同じ分野の他の人たちと比べて特段、その質が優れているわけではない。シェイクスピアですら、現在も名作として評されている戯曲は、彼が生み出した作品のうちのほんの一握りであり、凡作を大量に生み出していたという。また、稀代の発明家エジソンも、1093の特許をとっているが、最高傑作は片手で数えられる程度である。要は、大量に創作すると、作品の多様性が増し、オリジナリティの高いものが生まれやすくなるのだ。

他の研究によると、どの分野においても、創作者はもっとも多く作品を生み出している時期に、もっともクリエイティブな作品を生み出しているという。このように、アイデア創出においては、いかに多くのバリエーションを試して、正しいものに突き当たる確率を高めるかがキーとなる。


自分の「勘」は、あてになるか?

画期的な発明品をいくつも世に出していた発明家ケーメンが生んだ、電動立ち乗り二輪車の「セグウェイ」。スティーブ・ジョブズは当初、「パソコン以来のもっとも驚異的な技術作品」と絶賛した。そのうえ、伝説の投資家ジョーン・ドーアはこの事業に莫大な投資を行った。ところが、セグウェイは人気を博すどころか、大失敗に終わってしまった。

名だたる起業家や投資家がこぞって評価を誤った原因は、「その分野における経験不足」、「思い上がり」、そして「熱意に感化されたこと」である。ジョブズもドーアも自分の専門領域では並ぶ者がいなかった。しかし、他分野での成功の予測にも長けているかというと、そうとは限らない。その道の経験を積んでいないと、的確な評価はかなり難しいといえる。直感が冴えるのは、医者が患者の症状を判断するときのように、専門家が予測可能な場面で判断を下すときだけだからだ。まして、変化の大きい分野においては、専門家ですら、「経験によって培った直感」に頼ることは得策ではない。

また、ジョブズは過去の成功で大いに自信を得ていたために、批判的な意見を受け入れようとしなかった。もともと直感を重視するジョブズは、ケーメンの情熱的なプレゼンに左右され、セグウェイは世界を変えると信じ込んでしまったのだ。本来、移動手段に精通していないのなら、セグウェイが真に実用的かどうかを見極めるために、もっと調査をする必要があった。

このような要因が重なり、セグウェイが世界を変えるという予測は失敗に終わってしまった。しかし、ケーメンが素晴らしい発明家であることに変わりはなく、現に、もともと名を馳せてきたヘルスケア分野では画期的な発明を次々と発表している。新しいアイデアを生み出す人は、野球のバッターのようなもので、三割の打率があれば天才だといえる。


周囲の無関心を情熱へ変えるには?


弱点をさらけ出し、巨額の資金を得た起業家


起業家ルーファス・グリスコムとアリサ・ボークマンは、子育ての間違った常識に、ユーモアを持って異議を投げかけるウェブマガジンとブログを配信する事業を始めた。彼らは投資家にプレゼンテーションを行う際、「自分のビジネスに投資すべきでない5つの最大の理由」を提示するという、型破りな行動に出た。さらに驚くことには、この方法が奏功し、330万ドルの資金を獲得できたという。

一般的に、人を説得するには長所を強調し、短所を控えめに言うべきだと思われている。しかし、斬新なアイデアを売り込む場合や、目上の相手に対して何らかの変化を促す場合には、下手に出て、自身のアイデアの欠点を強調するほうが実は効果的だという。

それはなぜなのか。第一の理由は、弱点を前面に出すと聞き手の警戒心が薄れるからだ。うまくいっていない点を率直に話すと、聞き手は、その問題解決に注意を向けやすくなる。第二の理由は、悲観的な発言をする人は、賢く見識があるように見られやすいからである。アイデアの欠点を示しながら意見を伝えれば、自分を理知的に見せられる。第三の理由は、相手に謙虚な印象を与えるからだ。自身の弱点を理解していることが伝わり、相手からの信頼性が高まっていく。最後に、第四の理由は、アイデアそのものを好意的に評価してもらえるからである。起業家が率先して深刻な課題を明らかにすれば、投資家は他の悪い点を思いつきにくくなるという逆説が生じるのだ。

最強のサポーターは「気むずかしい上司」? 

何か重要なことを発言する際、
誰に訴えかけるかは、どのように主張を伝えるのかと同じくらい重要となる。とりわけ職場で何か不満に対処する際は、直属の上司のタイプに大きく左右される。心強いサポーターになってくれるのは、意外なことに、気むずかしい上司だという。

親しみやすい上司は周囲に協調することを重視するため、人間関係を乱したくないあまり、いざというときに引き下がることが多い。一方、気むずかしい上司は、他者や慣習に立ち向かうことをいとわない。研究によると、現状に異論を呈したことのある管理職は、新しい提案に寛容で、それを脅威ととらえないことが判明している。

そのため、自分の考えにいつも頷いてくれる上司よりも、独自路線を行くような「トゲのある上司」を味方につけることが、発言を通しやすくするコツなのである。

賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ

チャンスを最大化するタイミング

オリジナルな人はタイミングを味方につけている。起業や製品開発においては、一般的に、真っ先に行動を起こすことが推奨される。しかし、スピーディーに行動して一番乗りになっても、不利益のほうが大きい場合もある。

先延ばしは、生産性の敵になりえるが、創造性の源にもなる。実際のところ、戦略的な先延ばしは、創造性や問題解決能力に秀でた人によく見られる習慣だという。例えば、科学におけるエリートたちは、アイデアを頭の片隅に置き、「さっさと解決しよう」という衝動を抑えて、アイデアを熟成させているという。これにより、幅広くアイデアを検討でき、最終的により良い選択肢を選べるというわけだ。

キング牧師は、ワシントン大行進の最終演説で人々の心をつかんだことで有名だが、あの演説の原稿を書き始めたのは、大行進の前夜だったという。そして、人類の歴史に残る「I have a dream(私には夢がある)」のフレーズは、キング牧師の原稿にはなく、ぶっつけ本番で語ったものだった。先延ばしは、用意した内容に凝り固まることなく、即興で生まれたアイデアを取り入れる余地を残してくれる。キング牧師の戦略的な先延ばしこそが、真に迫る名演説を生み出したといえる。


まとめ


「『オリジナルでいる』ことは、幸せにいたる道としては、けっして簡単なものではない。しかし、それを追い求めることの幸せは何にも代えがたいのである」。本書の結びからうかがい知れる、著者のオリジナリティに対する考え方は、「恐れを手放し、独創的なアイデアを形にしていこう」と私たちを奮い立たせてくれる。ぜひ本書を読み通し、人間の本質に対する深い洞察を手にし、可能性の扉を開け放ってほしい。


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