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「心が健康な」あなたに贈る孤独の話

 おはようございます。朝の投稿!atom(アトム)です。今回は自分の経験とその際に学んだことから, どうしても書いておきたかった話をつらつらと。

そのテーマは「自分がしてほしいことは先に他人にしてあげなさい, は正しい教えなのか」というものです。今まで孤独や精神疾患に縁がなかった方に 「自分は「普通」だという方へ」の章だけでも読んで頂きたいです。

人に喜ばれることを先にするとしたら, 自分はいつ満たしてもらえるの?

という疑問を出発点にして「孤独」を感じているときにも正しい教えなのかへと展開します。

代弁するわけでは無いですが, かつて当事者だった身から体験談も少し挟んで書いていきます。

孤独感を誘発する社会システム

 本題に入る前に, 孤独を感じる仕組みを確認しておきます。

例えばコロナ禍で, 上手く表現できないけれど「なんとなく寂しい」, 「どこか孤独な気がする」と感じる人は少なくないと思います。この感覚を概して孤独感と呼ぶことにします。

 社会的な動物である人間は群れから離れると生きていくのが難しくなります。そこで群れから離れそうになると, 群れに戻るように体がシグナルを発します。これが孤独感の正体です。

 しかし, 何百万年というスケールで構築された人間の神経や遺伝的性質に対し, 我々はこの数百年で一気に個人で生きていく能力を身につけようと変化してきました。その結果, 現代は人間の身体システムと社会システムの間に大きなミスマッチが生じており, 孤独感を誘発する社会と言えます。

孤独感の連鎖

 孤独感が募ると, 同時に抑うつ感も生じます。孤独感は群れに戻るといった行動を促す前向きなシグナルであるのに対し, 抑うつ感は何もしないことを促す消極的なシグナルです。

いわばアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態で, 動きたいのに動けないという葛藤が新たに生じて, ネガティブな連鎖から抜け出せなくなります。

 一度このような状況に陥ると, 助けを求めるという積極的な行動もとりにくくなります。私の場合は悩みが深くなる一方で, どうでもいいやとも感じるようになり何もする気が起きなくなりました。

軽く書いてますが, 本当に何もする気が起きません。生活を維持する活動がギリギリです。

孤独と自己防御

 孤独感をもつと, 他者に共感する・自分を制御するといった脳の機能が弱くなります。しかし, これらは社会的な生活をしていくうえで重要な機能です。

 例えば他者に共感することで社会での仲間意識を醸成しますし,社会的な生活を維持するためには自分がしたいことを隠して周囲に合わせる自己制御が必要不可欠です。

 他者も同様に願望は表に出さないのですが, 自分の視点からは自分の抑えている願望だけは認識出来ます。そのため自己制御の機能が弱っていると, 自分ばかりが我慢して満たされないと感じるようになります。

すると満たされないという感覚から悲観的な現実の見方が生じ自己防衛的な態度を取るようになります。その様子を見た人は余計に冷たい人だと判断するようになり, 孤立が深まる...というループが始まります。

 このようにして孤独を感じると, 消極的な対処しか出来ない上に他者からも誤解されやすくなるため, 負のループから抜け出せなくなっていきます。


本当に満たすのが先?

 孤独のループに陥るメカニズムが分かったところで本題に戻りましょう。

自分を満たす前に他者を満たしなさい

というのは正しいアドバイスなのでしょうか。

 心が健康な時は問題ないかもしれません。相手に喜んでもらえると嬉しいですし, 仲間意識も芽生えます。一方で精神的に弱っているときにも同じように言うべきでしょうか?

 詳しく考えたい疑問点は次の二つです。

・実践のハードルが高すぎないか?
・実践して精神状態の改善につながるのか?

これから先に後者について考えていきます。


交わらない二つのループ

 適切な制御機能が働いている場合は, 人間は自分がしてもらいたいように他人に施す傾向があります。この社会的なつながりの感覚によりオキシトシンというホルモンが放出され, これによってさらに社会的な結束がもたらされ, また社会的に施し合うという正のループが生じます。

 つまり孤独社会的なつながりに関して, 交わらない正と負の二つのループがあることになります。それぞれのループでは, 社会的なつながりを感じる人はますます結束し, 孤独感を覚える人はますますその感覚を強めていきます。

 この二つのループは何も起きなければ交わることはありませんが, 突然, 他者とのつながりが断たれることで正のループから負のループへと転移する可能性があります。その例の一つが現在のコロナ禍だと言えます。

 そして, その逆の過程も起こりえます。つながりが失われることで負の影響が出ることがありますが, 新しいつながりを持つことで正の影響が出ることもあります。

孤独のループと救いの手

 孤独感は社会的動物である人間の本能から生じることを思い出せば, 社会への帰属感を抱くことで治療出来るというのも納得がいくと思います。

 具体的には, 悲観的な思考を抑えて他者の役に立ち, 社会への帰属意識を持つと孤独を埋めることが出来ます。逆に, 他者から何かをしてもらっても悲観的な思考を持ち続け, 負のループから出ようとしなければ孤独感が払拭されることはありません。

私なりの思考ではありますが後に示す参考図書を読んだ限り,

他者を先に満たすことで自分の孤独感も解消できる

というのは正しく, 「自分がしてほしいことを他者にしてあげなさい」という教えは理論的には正しいように感じます。これで二つの疑問のうち, 後者には回答できました。

 一方で行動のハードルが高すぎるという問題もあります。確かにループから抜け出すには, 他者に心を開く練習と我慢が必要だと思います。自分の経験から見ても頼れるメンタルケア専門職の方か, 手を差し伸べてくれる家族や友人が必要でしょう。他者を信頼して心を開くことの難易度が極端に上がっているため難しいですが避けられない道のように思います。


自分は「普通」だという方へ

 終盤になって話は変わりますが...書いておきたいことがあります。孤独感が積もっていくと, しばしば精神疾患を発症します。しかし, 精神疾患に関して十分な知識を持っていらっしゃるでしょうか。私は専門家ではないのでまだ分からないことだらけですが, 一度経験して以来, 勉強は続けています。

 脅す意図はありませんが, 社会的なつながりは常に外部要因によって断たれる可能性があります。精神疾患が自分ごとになったとき, 知識が不足していれば回復に向けて適切に行動するのが難しくなります。

 精神疾患は人間を構成する「体」と「心」, その「心」の不調です。治療が必要な病気であり「気分の問題だ」などと身体の疾患と比較して軽んじられて良いものではありません。

また途中で見たように, 一度負のループに陥ると何もしないという消極的な対処をしやすく回復に多くの時間がかかったりします。しかも精神的に健康というのは連続的に変化する心の状態の正の側にいるに過ぎません。

 これらの知識を持たなかった私は, 不調に陥ったときにただ悩み続けることしか出来ず, 結果的に回復にはそれなりに時間がかかりました。

偉そうに言えた口ではありませんが, 自分は「健康だ」と思っている人にこそ知識を持ってほしいと心から思います。

 また, 自分の投稿で恐縮ですが, 周囲の人に理解されないというのは当人からすると悩みを深める大きな要因になります。相手の立場に立つことは難しいかもしれませんが, 正しい知識を持って理解することは自分のためにも相手のためにもなります。

「なったことが無いから分からない。」のはその通りです。精神疾患に至る道は虐待や差別, 経済的な不平等など孤独以外にも様々で, 痛みの大きさも人それぞれだと思います。私も他の方の痛みを想像することは出来ません。

 そのため同情や共感, 憐れみはいりません。完璧に相手の痛みを知ることは出来ないので, 中途半端にそれらを持つとかえって相手を傷つける可能性があります。冷静で客観的な理解こそが周囲の人には求められるのではないかと考えます。

精神疾患の治療でカウンセリングや投薬治療を受けているとき, 周囲の無理解の目は非常に大きなストレスになります。自分が投げかけたその冷たい目は, いつか自分に返ってくるのではないでしょうか。

まとめ

 4000字近く長々と拙文を失礼しました。いじめや, 原発事故の映像や, 些細なことで考えすぎる悪癖で心を病んだ経験があり, 心が健康な人も他人事ではないという思いから, つい書きすぎてしまいました。途中失礼に感じる発言もあったかもしれません。申し訳ありません。

今回は, 「他者を先に満たしなさいという教えは 利他でも利己でもあり, 正しいのではないか」というお話でした。悩みの渦中にいる方からすれば訓練と忍耐が必要になりますが, 社会的動物である人間の性質上, 不可欠なプロセスに思います。

 私は憐れまれることに不快感を強く感じたので,正しく理解することを意識しています。これが正しいというつもりはありませんが「知らない」ということや助けてあげる」という態度は, 相手を傷つける可能性があることを知ってもらいたいです。

 メンタルヘルスへの理解が進むことを祈りながら, 今回はこのあたりで。理解を示す人が増え, 心の不調に悩む方が一人でも多く, そして自分のペースで負のループから抜け出すことを願ってこの投稿を締めさせて頂きます。


【参考図書】
「精神疾患」, 岩波明, 2018, 角川ソフィア文庫
「臨床心理学入門」, スーザン・レウェリン/ケイティ・アフェス-ヴァン・ドーン,2019 ,東京大学出版会
「孤独の科学」, ジョン・T・カシオポ/ウィリアム・パトリック, 2018, 株式会社河出書房新社













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