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戦神の星から

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ケルト神話やケルト文化の話をします。
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#ケルト文化

論文を寄稿した本が出ます

論文を寄稿した本が出ます

こんにちは。今回は宣伝記事です。

私が論文を寄稿した書籍が出版されました。
12/5に笠間書院様より発行予定の『神話研究の最先端』になります。

私は『「ケルト」神話と「ケルト神話」――「ケルト神話」という語の妥当性について』というタイトルで、「島のケルト」問題と「ケルト神話」という語の使用について論じました。
私なんかよりもすごい先生方がたくさん書かれていますので、ぜひご購入ください。

ケルト神話翻訳してみた

私はかねてより、いわゆるケルト神話を原語であるゲール語から翻訳し、noteにて公開してきました。

私が翻訳したのは「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired)、「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrend)、「エウェルへの求婚」(Tochmarc Emire) の三つのエピソードです。以下はそれぞれの翻訳をまとめたマガジンです。

ケルト神話といえば、クー・フリン(クー・フ

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ケルト神話における王の盤遊戯フィドヘル

彼は繰り返して言った 、「王に聞くがいい」と。「これらの技芸の全てを一人で持つ者が、王のもとにいるどうかを。そしてもしいるのなら、私はタラの王宮に入ることはない」
それから門番はヌァザ王の館へ行き、王に全てを語った。「王宮の門のところに来ている戦士」と彼は言った、「その名前はサウィルダーナッハといいます。そしてあなた様の人びとの役に立つ全ての技、それら全てを彼一人が持っており、ゆえに彼は全ての技芸

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アイルランド神話の装身具

アイルランド神話の装身具

ケルト人が極めて装飾好きであり、高い関心を払っていたことは、大陸側でも島嶼側でも同様で、彼らの美術はその非常に高いレベルのために有名です。今回は、そのなかでもアイルランド神話の中の装身具に注目してみました。ケルト人の美術については、『図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ』(松村一男・鶴岡真弓)や『ケルトの美術と文明』(ロイド&ジェニファー・ラング著、鶴岡真弓訳)をご参照なさるとよいでしょう。

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フィン・マックールが率いた戦士団フィアンについて

これらの物語の近代の批判的読者は、すぐに次のように感じるだろう、この煌びやかな蜃気楼の中に、事実の裏付けを探すことは徒労であると。しかしその蜃気楼は、この種の文芸に対する極めて稀な才能を有する詩人たちと語り部たちによって作り上げられたものであるからして、かつてアイルランドとスコットランドのゲール人の想像の世界を深く支配していたのである。(Myths And Legends Of The Celti

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フィンの生涯

アイルランドに比類なき英雄、戦士にして狩人にして詩人、強く、賢く、美しい、戦士達の王。それがフィン・マックールです。彼が如何なる男なのか知るために、彼が伝承の中でどのように語られているかを、ライフステージ毎に見ていきましょう。

0.名前まず先に名前を明らかにしておかなければなりません。フィンの名前は「フィン・マク・クウァル」(フィン・マク・クウィル;古期・中期アイルランド語Finn mac Cu

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クー・フリンの必殺の槍「ゲイ・ボルグ」

引用1:
するとフェル・ディアドはクー・フリンが油断しているのを見てとり、象牙の柄の剣の一撃を見舞い、クー・フリンの胸に突き刺した。そしてクー・フリンの血が彼の腰帯の中に入り、浅瀬はこの戦士の血で赤くなった。フェル・ディアドが強烈な死の連撃を放ったため、彼はこの傷に耐えられなかった。彼はロイグにガイ・ボルガを要求した。ガイ・ボルガの性質は以下のようであった――それは川の流れに置かれ、足指の間から投

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ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

1.CODECSって何だ今回は便利なサービスの紹介記事です。有料サービスに誘導して裏で報酬をもらうとかはしないのでご安心ください。

ご紹介するのは、"CODECS" というデータベースです(注:英語です)。

これは、ケルト学のためのオンラインデータベースで、一次、二次問わないケルト学関係の膨大な量の文献が集積されています。私も普段お世話になっています。とても便利なので、皆さんにも知ってもらいた

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ケルト神話の偉大なる王、コンホヴァル

昔々、エウィン・ウァハに素晴らしくかつ高名なる王、ファフトナ・ファサッハの息子コンホヴァルがいた。彼の治世下、アルスターの人びとには素晴らしいことがたくさん起こった。平和と平穏と喜びがあった。裁きと地の恵みと海の恵みがあった。支配と法と良き統治が長い間アルスターの人びとの上にあり、名誉と集会と財産とがエウィンの王の舘において大であった。(「エウェルへの求婚」、¶1、拙訳)

アイルランドの伝承、ア

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王たちのサイクルと「霊の幻視」あらすじ

王たちのサイクルと「霊の幻視」あらすじ

1.王たちのサイクルアイルランドの伝承では、「神話サイクル」、「アルスターサイクル」、「フィンサイクル」の三つのサイクルが有名です(拙記事参照)。しかし、実はその三つとは別の、あまり知られていないサイクルがあるのです。それが「王たちのサイクル」(またの名を「歴史サイクル」)です。これは、伝説及び史実上の諸王に関する様々な伝承群のことを言います。

「王たちのサイクル」の特徴は、他の三つのサイクルと

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ハロウィーンって元々なんなの?

ハロウィーンって元々なんなの?

最近日本でも季節のイベントとして定着したハロウィーン。9月に入ると、街は早くもハロウィーンの色に染まります。気が早いですね。みんなで仮装して「トリックオアトリート!」とか言ってお菓子をねだったり、かぼちゃを食べたりする。大体そんな感じのハロウィーン、日本にはアメリカから伝わったらしいです。

その起源がケルト人の習俗「サウィン」とされている、ということはそこそこ知られていますが、それ以上のことを知

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ケルト神話を学びたい高校生は何を勉強すべきか?

私は訳あって高校以下の学生と接する機会が多いのですが、ふと思ったのは、高校以下の学校教育の科目で、自分がケルト神話を学ぶ上で必要だったものや役立ったものは何だろうか、あるいは学んでおきたかったものはあるだろうか、ということでした。

これまでの記事では基本的に大学以降の方を対象として書いていましたが、今回は、今後ケルト神話を知りたい高校生以下の方に向けて、何を勉強したらその役に立つか、自分の経験を

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ケルト人を語る資料――我々は何を通してケルト人を知っているのか?

ケルト人を語る資料――我々は何を通してケルト人を知っているのか?

皆さんは昔のことを知るときに、どのような手段を使いますか?

当時を知ってる人に聞く? それはいい手段ですね。では、もっと昔のことの場合はどうでしょう。当時を知ってる人はもういないかもしれません。そのときはどうしますか?

記録や歴史書を読む。それもいい手段ですね。では、もっともっと前、記録も残っておらず、文字を使ってすらいなかった時代は?

今回は、ケルト人について我々が持てる資料(原資料)につ

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ケルト神話の固有名詞はなぜわかりにくいのか?

神話を読んでいるときによくあるのが、固有名詞、特に人物名(神様も含む)が覚えられない、ということではないでしょうか。これは外国文学を読むときなど、あるいは世界史の勉強をするときも同様だと思いますが、馴染みのない感じの名前、しかも横文字の名前がたくさん出てくると、とても覚えにくいです(日本や中国の神話なら漢字ですが、それでも現代日本の名前感覚とは大きく離れており、大差ありませんよね)。

ケルト神話

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