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健康診断に行ったら、

昨日は早朝からなにも口にしないで、執筆作業をしていた。

午後一番に、健康診断へ行くためだった。

しかし空腹も長くつづくと、感覚がおかしくなるのか、特に気にならなくなった。

このまま何時間も活動を続けられそうな気がした。

時間になったので、クリニックに向かった。

大きなところだったので、受付が円滑で待ち時間もほとんどなかった。
まず血圧を測った。

僕はあの腕を締めつける器具が、結構好きだった。

もし担当の看護師さんが操作を誤って圧力を加えすぎたら、腕がソーセージのつなぎ目みたいになるのかもしれない、と思うとわくわくした。

次は診察だった。

前回、一度簡単に病院で診てもらったほうがいい、と言われた箇所をそのままにしていたので、ちょっとだけ注意された。

具合は悪くないのに、病院に行くのはなんだか気が引けていた。

病院には、僕よりも先に診てもらった方がいい重篤な人がいるに違いない。

というのは建前で、本当はめんどくさいだけだった。


その後も健康診断は続いた。

採血、身長体重、視力聴力、胸部x線。

すべてが効率的に進んでいった。

僕の血液は想像よりも黒くて、何かのオイルみたいだと思った。

「皮膚が柔らかいほうなので、ちょっと長くおさえてたほうがいいかもしれません」

採血の担当者にそう言われ、なぜかモツ焼きのことが脳裏によぎった。

看護師さんたちはみんなてきぱきとしていて、世間話をする時間もなかった。

心電図で手首や足首、胸に手際よく器具が取り付けられているとき、自分が人造人間になった気がした。

今からこの器具から特殊な電磁波を流しこみ、作り物の体に異常が見当たらないか調べるのだ。

健康診断ではなく、定期メンテナンスなのだ。
という妄想をして、時間を潰した。


検査項目がすべて終了し、僕は一度トイレにはいった。

そこに偶然さきほどの担当の看護師さんたちが通りかかって、会話が聞こえた。

「乙川さんの……人工皮膚……劣化が……プロトタイプの……耐久年数を見直し……」

彼女たちは、なんだか難しい話をしているようだった。


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