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芸術って、何やねん

長かった夏が終わり、今年も芸術の秋がやってきた。物心ついて以降、もう20回以上は「芸術の秋」を過ごしてきたはずなのに、未だに芸術という言葉には正直ピンときた試しがない。

そんな僕は、今週末から再び四国に来ている。普段関東で暮らす僕は、リモートワークという地の利を生かし、毎月の下旬を四国で過ごすようになってきた。こっちで一人住むおばあちゃんの様子を見にきたく、関東と四国を行ったり来たりする生活スタイルになりつつある。

聞けば四国では今、「瀬戸内国際芸術祭」なるものが開催されているらしい。瀬戸内海に浮かぶ島々を舞台に、様々な現代アーティストが出展を行なっているようだ。

芸術祭って、何やねん。詳しい事はよく分からないが、せっかくタイミングが合ったのでとりあえず行ってみることにした。

おばあちゃんの家の近くの港から、小型の高速船に乗り込み1時間強。瀬戸内海に浮かぶ島の一つである「豊島」に上陸した。

芸術祭ということで、島の内部には実際にアート作品が点在している。美術館としてまとまって展示されている場所もあれば、屋外にむき出しで作品が展示されている場所もある。

昔から、芸術鑑賞に対してはどこか敷居の高さを感じてきた。唐突に『考える人』とかそんなこと言われても、「はあ…そうですか……次の方どうぞ」みたいな感じになってしまう。

例えば美術館を訪れた時。目の前の絵画を見ても、作者がなぜこれを作り上げるに至ったのか、噛み砕いて理解することができない場面が多い。

分かりやすい話、「この人は就活で100連敗して辛い思いをした結果、集団面接をテーマとした面白いコントを作り上げました」ならば、噛み砕いた理解に至ることができる。その作品の必然性的なものを感じられる。

それが「芸術」として教科書チックなパッケージに包まれた途端、理解の難易度が跳ね上がる。「天才の所業に刮目せよッッ!!」的な圧に押し切られるような感覚になってしまうのだ。

この瀬戸内国際芸術祭も、始めの内はそんな「天才圧」に身構えている自分がいた。しかし島の散策を通して、その姿勢は少しずつ和らいでいった。

島の風景に溶け込む作品はどれも自然体で、温かみを感じる気がした。「この作品を作るしかない状況って、例えばこんな感じなのかなあ」と共感を楽しませてくれるような雰囲気があった。

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そうだよな、確かにゴールって、一つじゃないよな。メチャクチャ楽しいバスケして、「マジでこれもう勝ち負けとかどうでも良くね?ちょっと待って俺この感じ明日時間取って芸術に落とし込んでみるわ」ってなって作ったりしてたらいいな。

あれ、俺にもようやく「芸術の秋」ってやつが訪れたのかもしれない。そんな事を考えながら豊島で数時間の散策を楽しんだ僕は、帰りの高速船に乗り込み、芸術祭を後にした。

やっぱり、芸術だからって難しく考える必要はないんだ。天才とか凡人とか、そういうことじゃないんだ。

市内へと戻り、おばあちゃんの家へ帰宅。荷物を下ろし、シャワーでも浴びようと思い浴室のドアを開いた瞬間、衝撃の光景が現れた。

なんなんだこれは、一体。

芸術祭で見たどの作品よりも、強烈な非日常を叩き込まれた。

「あれ、おばあちゃんこれどうしたの??」

「ああそれな、きょうお坊さんが来るからとおもっておばあちゃん一回そこによけよったんや」

お坊さんが来る事などは当然僕も知っている。聞きたいポイントは確実にそこじゃない。

「あーなるほどね。あれ、でもなんでこれお風呂場に置いた?」

「何でってあんた、こっちの部屋には今日お坊さんが来るからや」

質問に対する受け答えが完全に天才のそれだ。こちらがどれだけ掘り下げようとしても、「そこに山があるからや」的な発言で必ず行き止まる。

これ以上おばあちゃんを問い詰めたところで、望む答えは得られない。おばあちゃんにとっては、和室から一時的に布団を取り除くために他の空いてるスペースを活用しただけだ。それ以上でも以下でもない。

むしろ、誰が風呂場に布団を置いてはいけないと言っただろうか。固定概念に囚われて勝手に決めつけているのは、間違いなくこちら側だ。

おばあちゃんは布団の片付けを通して、現代社会に一石を投じた。極めて日常的な空間を題材として、見事な非日常性を描き出してみせた。

一方で当のおばあちゃんにとっては、こんなこと造作もない。戸惑う孫に追い討ちをかけるかの如く、今も使い終わったアリエールの容器に菊の花を活け始めている。

超人的な発想力。悔しいが、凡人には辿り着けない。これからも僕は、この家で彼女が放つ才能の暴力を受け続けるのだろう。

世の中には、これほどまでに無自覚なアーティストが存在するというのか???

「芸術」は、再び僕を突き放す。








芸術って、何やねん。













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