シンガポールで感じる、発展と疑問。
カンボジアからシンガポールへ
カンボジア2か月生活も折り返し、1か月目を過ぎるところで
シンガポールへ旅行へ行ってきた。
旅行先から旅行へ行くというのもなんだか不思議な話だが、
日本からシンガポールへ行くのではなかなか負担が大きいが、
カンボジアからであれば飛行機で2時間で到着してしまうので
とても楽だと感じ、今回の決断に至ったわけである。
宿泊先はあのマリーナ・ベイ・サンズ。
人生で一度は泊まってみたいと思っていたホテルで、
噂にたがわぬ世界最高峰の体験をすることができた。
インフィニティプールから見た絶景はおそらく一生忘れないだろう。
いい経験をすることができたと心から思う。
ただ、シンガポールで感じたことはそれだけでなかった。
それは、理想的な街を作り上げようとするその意志と、
理想的な街に対するぼんやりとした疑問であった。
人類の発展の理想形?
シンガポールはとてもコンパクトシティ。
なんと国土全体が東京23区ほどの大きさしかない。
しかも都市機能が集約されているリバーフロント地区は
ほぼその中央に位置しているので、
端っこに住んでも電車に30分乗れば業務や観光の中心地まで行けてしまう。
(ちなみに有名なマーライオン象もこの地区に鎮座している。)
こういった職場・公共施設・住居などを集約して、
リソースを効率的に使用できるように設計された街のことを
「コンパクトシティ」と呼ぶが、シンガポールはまさにそれを
国土で実現しているいい例ではないかと思う。
日本では通勤までに片道1時間かかることも多い中で、
遠くても30分で中心地へ出れることはなんと素晴らしいことか。
しかも駅一つ一つの周辺はかなり計画的に整備されていた。
具体的には、駅の周りに大きな公園があり、
日常生活に困らなそうな大きなショッピングセンターが配置され、
その奥に高層マンション群が林立しているといった形である。
それも1つの駅だけでなく、空港からベイフロント地区までの
10駅ほどのそのすべてが同じように整備されていた。
どの駅に住んでも、みな同じように理想的な生活環境を獲得できるというのは、いろいろな人が英知を結集して住みやすさを追求した結果だと思うし、
街・国家としてのある種理想形を体現していると感じる。
日本でもベイフロントエリアなどの新しく形作られる街、
特に都市部のマンション街はこのような姿を目指していることが多い。
これを国家レベルで行う事ができるシンガポールのその計画性には
驚かされるばかりだ。
道沿いを歩いて感じた違和感。
理想的な街、国。まさにそれを体現した姿がそこにはあったが、
単純に感心した部分もあれば違和感を感じる部分もあった。
駅に降り立ったわけではないから不確実な意見かもしれないが、
例えばカフェであったり商店街であったり、
居酒屋であったり日本でいうラーメン屋のような、
日本でいう「個人商店」がほとんど見当たらないのである。
おそらく、駅近くのショッピングセンターにそのほとんどの機能が
集約されているからだと思うが、これは果たして自然なことなのだろうか。
また、普段カンボジアに住んでいるからとてもよく分かることだが、
カンボジアの路上には人が溢れている。
車・バイク文化のため道沿いには店と屋台がひっきりなしに出店していて、
もう道を歩くのも大変なくらいだ。
夕方ごろからはあちこちで人が集まって宴会を開いている。
中には昼間から集まってビールを飲んでいる不思議なおじさん集団もいる。
こういう姿を見ているからか、シンガポールの路上には本当に人がいない。
シンガポールでは電車とともにバス文化もとても発達していて、
道を通るバスの中を見るとたくさん人がいるのだが、道路を直接歩かない為
人が街にほとんどいないように見える。
もちろん駅周辺やオフィス周辺は人が多いが、
そこに至るまでの道中では歩く人も、休む人も、ほとんど見ることはなかった。
※ちなみに、バスで40km移動しても日本円でたった200円しかかからない。
電車も同様に安く設定されており、物価は高いが交通費はかなり安い。
仕事場と家をポイントトゥポイントでつないで、最小限の労力と時間で
往復することができる。
素晴らしいことだが、それと引き換えに、道沿いには本当に人がいない。
人がいないから、当然小さな路面店もない。
・・・
個人の力に頼らず、働き手が企業で務めることで効率的な働き方を実現し、
シンガポールの驚異的な発展に寄与していることは間違いないと思う。
企業が効率的な働き方を生み出し、人々は従業員として企業に参加し、
国は増えた税収によって住みやすく整備した住宅地を生み出し、
官民一体となって仕事と暮らしのバランスを整えていく。
理想的なサイクルだと思う。
でも、これって誰にとっての理想なんだろう。
誰にとっての理想?
多くの人間は、いずれかの会社に勤めることで賃金を得ながら生活を続けていく。
だから、会社で働くことをまずは起点にとらえて、そこから逆算して
働くためにストレスが少ない場所を良い住宅環境と認識することが多い。
この視点で考えてみると、シンガポールはまさに会社員には理想の町だ。
仕事でストレスを貯めたとしても、ほとんど歩かず、
しかも早く職場と自宅の往復ができて、かつ自宅はきれいなマンション。
休日はショッピングと自宅近くの大きな公園でまったり。
そしてリラックスをして、また仕事に臨める。
理想的だ。理想的すぎる。
でも、そこに迎合できない人はどうなる?
例えば会社員としてうまくなじむことができなかった人、
個人商店として独立したいと思っている人、
夜中に道端で集まってお酒飲みたいと思っている人、
何となくふらふらしたい人。
シンガポールは治安がいい。それは、小さなことから法律で
ガンガンに縛っていることも大きく関係している。
ポイ捨て、夜22時以降の飲酒、果てはガムの購入まで、
理想の街を形作るために不要だと判断されたものは容赦なく禁止する。
そんな意志が、街づくりにも反映されているように感じるのだ。
シンガポールが理想としている人間は、きちんと会社で務めてパフォーマンスを発揮してくれる人間。
そんな人のために、国家として環境を整備していますよと。
確かに、そうするのは当たり前だ。現状、国力を強くする手段としては、
良い会社を置いて能力のある従業員を雇い、お金を稼ぐことが一番まっとうだからだ。
シンガポールは多様な民族が存在しつつ発展してきた国なので、
多様性について先進的な国家の一つであることは間違いない。
だが、その多様性はあくまでシンガポールの国益に沿った上でだ。
夜22時以降に公園でお酒を飲みたいという多様性には対応しない。
そういった状況を鑑みて、自分が考えた結論は、
「ルールを守る優秀な会社員」と、
「国に大きな税収をもたらす企業」にとって理想の国だということだ。
会社員にとって環境が良い土地ということは、
言い換えれば企業にとってもメリットでしかない。
世界中から働きたい人も集まってくるため、人材問題も解決できる。
ルールを守る従業員と、それを雇う企業双方にとって理想的な地である。
でもそれって、あくまで企業と従業員という資本主義的視点での理想であって、本当の意味での人間一人ひとりの幸せという意味とは相違していると思う。
会社員の中には、自分では気づいていないけど本当は違う生き方をしたほうが幸せに暮らせる人もいるかもしれない。
社会にうまく適用できなかった人や、頑張れない人、
駅前の家賃は高く、道中には人がいないから自分のお店を出せない人。
そういう人たちも全部ひっくるめて、会社に入っていい環境に住んで
働いてもらうことが、果たしてみんなの幸せなのか。
みんな人間だから、それぞれに合わせた幸せの形があるんじゃないのか。
レールから外れたい、そうでないと生きられない人もいる。
資本主義社会では、売り上げを増やし、一人一人の所得を増やし、
国力を増やし、さらに豊かになっていくというサイクルを回していくことが
正であり、そのための不可欠な要素として企業(資本家)と従業員を定義している。
シンガポールはある種、その資本主義における理想を体現している国だと思う。
だけどそれは人々の理想ではなくて、あくまでも資本主義の理想であることを認識しておかなければならない。
価値観の変革期
産業革命以降、人類の生産性は爆発的に向上した。
人々は豊かになり、現代は間違いなく歴史上一番の生産性を誇る。
この流れはまだしばらくは続き、成長し続けると思う。
でも、それも永遠には続かない。
まさに日本のように、成長がストップする瞬間が来る。
そうなったときに大事なことは、お金を稼ぐことではなく、
「幸せかどうか」という価値観になると思う。
そうじゃないと、稼ぐことだけに価値観を限定すると
当地で稼げなくなった時に国の魅力がなくなり、
海外への人材流出・海外からの流入減につながってしまう。
国も、企業も、資本主義観点から一歩引いた、
一人ひとりの幸せへのフォーカスを始める時期に来ていると思う。
資本主義的な理想を追い続けるのではなく、
個人それぞれの理想を考えて、尊重していく。
そんな社会が、これからの世界で必要とされてくるのではないか。
シンガポールの完成された街並みを見て、感じたことでした。
<余談>
理想的な国であるシンガポール、発展により子育てもしやすいかと思えば
現在の出生率は1.14。
これは、深刻な少子化といわれる日本の出生率1.30を大きく下回る数字だ。
人間は頭を使い発展することで人口を増やしてきたが、
近年は発展した国家が軒並み低出生率、人口減に陥っている。
発展すればするほど衰退する。これは一体どういった現象なのだろう。。
別途調べてみようと思う。
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