「中断されない眠り」が良いという幻想
不眠症や眠りに悩む人たちは多いと言われます。また、メンタルヘルス的にはたしかに眠りの問題(不眠症、入眠障害、中途覚醒等々)は、不安やうつと結びついていることが多いと言われます。実際、オープンマインドに相談に来られる中でも、不眠や十分に寝られない、という問題を訴える人は決して少なくはありません。
どうも世間は(日本だけでなく、世界的に)「中断されない、長い眠り」を良しとする風潮があるようで、これがエスカレートしているように見えます。健康自体に強いこだわりを示してしまう傾向もあります。が、もし睡眠のサイクル(ステージ)という図を見たことがあるのであれば、眠っている間睡眠は一様ではない、つまり眠りが深いときと、浅いとき(=目覚めやすいとき)がある、ということが分かるでしょう。これが、一晩に数サイクル(1サイクル約1.5時間)繰り返されるというのが一晩の眠りというものです。
しかし、もしヨーロッパ中世では人々は夜に2回寝ていた、と聞けば「?」と思われるかもしれません。biphasic sleep(2フェーズの眠り)と呼ばれるもので、昔は電気などありませんから、日が沈んだら眠り、夜中に一回起きて、起きるばかりでなく簡単な作業や食事までして、また寝直す、というものです。
ヨーロッパばかりではなく、日本においても、昔の和歌などを読むと恋人やパートナーがやってくるのを今か今かと待ちながらうとうとしていたり、月を見たりホトトギスの鳴き声を聞いたりするために起きていたりと、一体いつ寝ているの? というような有様です。平安時代くらいの話ですが、当時は招婿婚(夫が妻の許に通う)でした。結論から言うと(とは言え想像ですが)、一日がもっとゆったりしていて、眠りも「いい加減」だったのかもしれません。
ところが、現代人は眠りに悩む人が多く、フランス人など不眠症を患うことが「スタイリッシュ」だと言わんばかりらしいです。要は悩みがあり、眠れないほど考え事をしてしまうことが言ってみれば「知識人」の証拠とでも言いましょうか。もしそれが誇りであるのなら、それほど悩まなくてもいいはずですが、十分に眠れず日中ぼーっとしてしまったりやることに身が入らないのは、やはりつらくはあります。
そんな眠りの悩みに対処するために、多くの人が睡眠薬に頼ります。寝つけなかったり、寝てもひんぱんに起きてしまうようであれば、睡眠薬はそうしたつらい状態からの解放とはなります。しかし寝付けないのであれば、まずは薬よりは「入眠儀式」という一連の行動を習慣化してみることがいいかと思います。私たちはこうした「睡眠薬文化」の中に生きているとも言えます。
ヨーロッパや日本の昔と単純比較すれば、もちろんエジソンがもたらした「電気(電灯)」というものが多くの弊害ももたらしていると言えるでしょう(なんだか前時代人みたいですが)。夜も明るくなり人間の活動時間も伸び、眠くなるはずの時間帯でも灯りが煌々とついて目はランランとしています。これではなかなか眠りに就けなくても無理ありません。加えて、最近ではコンピュータやスマホが発するブルーライトという、ほぼ昼間の光に相当するものを真夜中でも簡単に浴びることができます。
先ほどの入眠儀式もですが、眠れない、寝付けないという人は睡眠薬に頼る前にまずそうした生活パターンや習慣の見直しを図ってみるべきでしょう。
さて、眠りを整えることを言いたかったというよりは、実は中断される睡眠にはメリットがあるということが言いたかったのですが、ちょっと別の方向に走ってしまいました。
最初に睡眠のサイクルについて述べましたが、1サイクルにつき1回のレム睡眠が起こってきます。人が夢を見るのはレム睡眠時だけではない、ということも分かってきていますが、レム睡眠のときには人は確実に夢を見ています。ところが、夢に関心を払っていないとなかなか思い出せないものなのです。
夢には、「どうしてこんな夢を??」と思うことが多いですが、実は夢には大切なメッセージが多く含まれています。というのも、私たちは起きている間たいてい現実的なあれやこれやの問題に悩まされており、いわば「視野狭窄」の状態に陥っていることが多いからです。
夢には無意識が関わっており、無意識には私たちが意識に上せなかったことや、忘れてしまっていることなども含まれています。それも含めより広い視野からメッセージやリマインドをくれるのが、夢なのです。よく亡くなる前に人生が走馬灯のように見えると言いますが、それなども脳(無意識)がそれまでの経験をすべて蓄積していることから起こってくるのではないかと思われます。
つまり、眠りが中断されるということはその直前になにか夢を見ている可能性も高いわけです。夢を思い出さず夢の後のいやな気分(いい気分のこともありますが)だけが残っていることもありますが、ともあれ起こされるということはそうしたことが起こっている可能性も高いです。
私はずっと夢日記をつけていますが、夜中に夢を見た(思い出した)場合には起きてそれを書きます。そんなことをしたら眠れなくなるのでは? と思われるかもしれませんが、習慣化されているのと、それで心がまとまるのかあまり問題なくまた眠りに戻ることができます(電気をつけず暗闇の中で書くとか、録音するとかいう人もいるようです)。
夢日記をつけ、夢のワークをすること。また、瞑想やマインドフルネスをして日常に「スペース」を作ること。また、心理療法などの自分やこころに取り組む時間を作ること。このようにして、視野狭窄や悩みに陥っている自分から脱却していくことができます。そのようにして、睡眠の問題と自覚されていることも解消していくのではないかと思われます。
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