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妻恋う鹿は笛に寄る(自作の詩と散文)

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瀬戸内海に面する小都市で暮らし、働きながら詩や散文を詠んでいます。情景を言葉として、心で感じたことを情景にして描くことを心がけています。言葉の好きな方と交流できたらいいなと思って…
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2023年7月の記事一覧

本音

本音

埋めることのできない溝なんてあるのかしら?近づけば近づくほど溝が大きくなって、埋めることができないなんて弱音吐くのは、それは持っているスコップが小さいから?それともあなたが怠惰な人間だから?それとももう既に愛はないのかしら?

ふわふわとどこへでも飛んでいってしまうような風船のような愛なら、仕方ないわね。あきらめて、他の女を探してちょうだい

あなたは私を愛していて、固く結ばれているとしたら、苦し

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まぶしい夏

まぶしい夏

木曜日、午後二時

人気のない
まっすぐな道路と青い空

誰のためでもない
自分のためですらもない
白昼夢のような
まぶしい夏

生きるって素晴らしい

眩暈するほど眩しい光

眩暈するほど眩しい光

冷たくもなく温かくもなく
温度というものを感じない水が湧き上がる
澄んだ泉があった

それは肌のぬくもりの温度だった

男は女が好きだった
女は美しく知的だった
女も男が好きだった
男は優しかった
しかし、神々の嫉妬を買い
女は龍に姿を変えられてしまった

男は体を龍に巻きつかれて
泉の底に引きずりこまれてしまった

龍は水底から水面まで
下ったり上ったりしていた
呼吸をさせるために
水面の上にま

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クチナシ

クチナシ

何となく始まる恋なんて嫌だ
稲妻に脳天を打ち抜かれるようにして始まった恋ではないと

甘い香りのする人がいい
宵の薄明かりにぼんやりと光る
白いクチナシが放っているような
胸の疼く香りがいい

寝床に入ってもなかなか寝付けず
黒い猫が横切ると会いに行きたくなり
欠けた月を見ると失恋してしまったような気持ちになり
寝ても醒めてもその女のことだけ

今宵は欠けた月が空に昇り屋根の上を黒い猫が横切り

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完璧

完璧

完璧ではない空が好きだ
果てしなく遠くに暮れてゆく

完璧ではない絵が好きだ
色彩の隙間に余韻の入っていける

完璧ではない主人公が好きだ
脇役の存在がきらりと光る

完璧ではない人が好きだ
どこかで破綻していて落下している

完璧な夏の夕方が好きだ
闇に息づく喪失感の膨らんでいく

スミレ

スミレ

湖の底に倒木が沈んでいる。透明度が高い澄んだ水に晒されて、幾重にも折り重なり、あらかたの形を留めたまま、静かに眠っている。

それは得も言われない美しい湖で、畔に年中枯れない幻のすみれが咲いていると言う。

イオナの硬いほほ笑みの瞳の奥に、その湖がある。その湖と村の森の奥にある湖と同じであることを知っているものは、風来坊のシェルドのみである。

シェルドはイオナを深く愛し、笑顔にしていた。そして、

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井の中の蛙

井の中の蛙

私は井の中の蛙です
大きな世界を知らない蛙です
私は大きな世界を知らないから
大きな世界を羽ばたく鳥たちから
馬鹿にされているかもしれません
でも井の中で慎ましく生きる事を
誇りに思っています

井の水が大好きで
よく知った仲間の蛙が大好きで
井の食べ物が大好きです
遠くにある美味なる食べ物や
美しい景色の中で暮らすことは
一時の幻のような快楽で
追い求めていくと何かを壊しそうな気がします

私は

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薔薇色の人生

薔薇色の人生

行き場を失った言葉が転がっている
その一つひとつを拾い上げて
大切に磨いた
そして詩に詠んだ

自信を失い手垢に染まった人生を生きていた
その一つひとつの行いを省みて
大切に昇華した
そして静謐な物語の主人公である自覚を持った

バラ色の人生を描いてみた
そんなものどこにもありゃしない
それでも絵の具にまみれて
描いている私は生き生きとしていた

それでいい

ダイイングメッセージ

ダイイングメッセージ

目覚めると、古い影が貼り付いていた。付箋のようにペロリと簡単にはがれそうに弱々しい。メッセージが書き込まれ、簡単に諦めるな!簡単に手放すな!と殴り書きされていた。それは過去の自分のダイイングメッセージで、破壊神を心に抱えていた彼からの意志のこもった、願いの込められた頼みごとだった。

千年後の未来に

千年後の未来に

今、芽を出した木の若葉も

年を重ねて

千年後、まだ伸び続けている

巨木なのかもしれない

今、生きている私たちの60%を占める水も

年を重ねて

千年間、地球上を幾度となく巡りめぐって

どこかを流れているのかもしれない

空

空は自由だ
様々な姿を見せる
あなたももちろん自由だ
だから様々な姿を見せておくれ

空が空のための器なら
君は君のための器なのだから

星の落ちそうな夜も、青の空も、つむじ風も
そして嵐の朝も、三日月の夕も
あなたのそばで受け入れるから

余白に降る雨

余白に降る雨

雨降りの一日。優しさに優しさ、温もりに温もり、痛みに痛みを重ね合わせる日々。欠けていて不完全な私たちは、重なり合って、苦楽を共にしている。あなたの余白を愛している。余白に明かりを灯し、闇を分かち合っている。触れた手から伝わる体温に幸せを感じ、息遣いからあなたの想いを読む。

子どものお遊びみたいに無邪気

子どものお遊びみたいに無邪気

そうやってあなたのすべてを諦めている感じが好きなの

のんびりと構えて、自堕落で、遊んでて・・・

でもね、本当のところ

諦めているように見えて、ちっとも諦めてない

あなたのそういうところ、長い間付き合ってみないと分からないから

人から誤解されがちだと思うけれど、好きよ

長距離走者でもなく、短距離走者でもなく

スキップしたり、ダッシュしたり、歩いたり、止まったり、逆走したり

アスリート

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お姫様と吟遊詩人

お姫様と吟遊詩人

あるところに美しいお姫様がいました。人づきあいが苦手で、王様が近隣の名だたる名士を招いて舞踏会を開いても、なかなか出席しようとはせず、お姫様にひと目会いたい若い名士たちを、いつもがっかりさせていました。

森の入り口の林の荒屋に吟遊詩人が住んでいました。愛の歌、人生を詠んだ詩を歌いながら、薪にする枝を拾い細々と暮らしていました。

ある日、お付きのものを引き連れて、そっと森を散策している間に、皆と

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