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眩暈するほど眩しい光

冷たくもなく温かくもなく
温度というものを感じない水が湧き上がる
澄んだ泉があった

それは肌のぬくもりの温度だった

男は女が好きだった
女は美しく知的だった
女も男が好きだった
男は優しかった
しかし、神々の嫉妬を買い
女は龍に姿を変えられてしまった

男は体を龍に巻きつかれて
泉の底に引きずりこまれてしまった

龍は水底から水面まで
下ったり上ったりしていた
呼吸をさせるために
水面の上にまでは決して上がらなかった

男は女が好きだったから
女が龍に姿を変えてしまっても
それでもよかった
でもそれがうまく伝えられなかった

男は息を止めていたが苦しくなって
腹の底にためていた空気を
水の中で吐き出してしまった

息絶えてしまうかと思ったが
水は水ではなく 空気は空気ではなかった
呼吸は呼吸ではなく 
生きているようで死んでいるようだった

龍に姿を変えた女の
硬いうろこは少しずつ白い肌に変わり
とがった顔が柔和な顔の
元の美しい姿に戻っていった

男と女は互いを抱きしめあいながら
澄んだ泉の中を
水底から水面までを
何度も何度も上下していた

こうしていることを
ほかの誰も理解してはくれないだろう
男はそうこころの中で思った

いつまでもこうしていられない
元の姿に戻れた女は
男を抱き上げて水面の上へ引き上げた

地上には真っ白な光が満ちていて
眩暈を感じるほど眩しかった

男は女の手を引いて岸に上がった
男の褐色の肌は少しずつうろこに変わり
優しそうな顔は龍の姿に変わった

そして女も龍の姿に変わり
二匹の龍は絡みあって一匹の龍に溶け合い
広い空と地上との間を
上ったり下ったりしていた

地上に龍の姿に変える前の
人の形をした二人の影が
色濃く残っていた


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