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おおにしひつじの小説

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大西羊(onishi_hitsuji)の小説をまとめています。おもしろいのが書けてるとうれしいです。
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#ショートストーリー

掌編小説:花の話

掌編小説:花の話

 花の話をしよう。

 といっても、今現在僕のふところに花の話は存在していない。妖精の話や、クリスマスの話なんかはあってそれを語ることはできるのだけど、花の話に限っては持ち合わせていない。つまり、花の話をすることはできない。
 いや、僕はこれについて申し訳なく思っている。いや、本当申し訳ない。ここに深く謝罪をする。

 ここは花の話の場所なのだから、もちろん、花の話があったのなら、もう血眼くらいの

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掌編小説集:四つの滅亡

掌編小説集:四つの滅亡

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サークル活動の一環で、テーマとページ数が制限された小説を書いた。
それら四作品をここにまとめている。

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世界の終りと……ワンダーランド
 朝がた、電話があった。窓辺のところで、愛用の黒電話がちりちりと鳴った。僕は朝を楽しんでいるところだった。実に心地よい日で、湿ったそよ風がふき込み、鉢植えのトマトは緑の色に輝いていた。
「まただよ」相棒は開口いちばんそう話す。「世界が終るってさ

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短篇小説:『孤独』

短篇小説:『孤独』

 その日も十時四十五分に待ち合わせていた。僕が駅につくと、彼女は身体を壁にもたせかけてうつむいていた。ゆっくり近づくと彼女は顔をあげた。僕は言葉なしに、にこりとした。彼女もにこりとした。駅にはさめざめとした人の往来があった。
 とくに予定はなかった。今日はどうしようか、ということになった。
 いつものように僕の家でゆっくりしようか。
 それともどこか特別なところへ出かけてもいい。ここは駅で、少し行

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掌編小説:バビロン・シスターズ

掌編小説:バビロン・シスターズ

 バビロンの街は、正方形の建物でつくられていた。ごく正確に縦横の長さが定められ、民家だけでなく、役所も、肉屋でさえまったくの正方形であり、四角の建築だった。日干しレンガの壁は青で統一され、薄い青から濃い青へ、グラデーションのようにして彩っていた。そんな風景がバビロンの丘を埋め尽くしていた。対岸の港から眺めたときには、虫の巣のように見えた。あるいは、大西洋を横断するアカエイの群れのようだった。
 ニ

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