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【弁当の日】05.なぜ弁当作りで家族の絆が深まるのか?

 この記事は、小学生が親の手伝いなしで弁当を作る「弁当の日」の素晴らしさを伝える記事です。

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 私がこの記事を書く目的はつぎのとおりです。

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◆教室では学べないことを学べる「弁当の日」の素晴らしさを知ってもらう
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1.家族の絆について

 「弁当の日」というと、調理技術を身につけさせる取り組みと思われるかもしれません。

 しかし、そうではないのです。もし調理技術の向上が主眼なら、家庭科の時間にみんなで弁当を一緒に作った方が効率がいいですよね。

 「弁当の日」のねらいのひとつに、【家族の絆を深める】というものがあります。
 その例をいくつか挙げましょう。




2.例① ひじきの炊き込みごはんを作った女の子

 「自分で作ったお弁当は、おいしい!」という子が多いです。が、中には味付けを失敗してしまった子もいます。

 しかし、その失敗は、ある気づきをもたらしました。
 ひじきの炊き込みごはんを作った女の子の作文を紹介します。

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 お昼だ。さあ食べるぞ。食べたらめちゃまずかった。
 
しかし、友だちにはそんな顔は見せられない。心で泣いて、顔で笑って食べた。
 そんな失敗をくりかえしながら、成功したときの喜びはたまらない。

 そして、お母さんの苦労が身にしみた。

 それともうひとつ。「弁当の日」はお父さんの笑顔に会える日にもなりました。だって、私が心を込めて、お父さんにも弁当をつくってあげるからだ。

 お父さんはいつも全部食べて、空の弁当箱を持って帰って「おいしかったよ」といって笑ってくれます

 私は思った。あのひじきごはんのときも、おいしかったよといってニッコリしてくれた。
 お父さんゴメンネ。こんどはもっとおいしいものをつくってあげるね。

 文句ひとついわずに笑ってくれたお父さん。お父さんのやさしい心が私にはとてもうれしかった。そして、ますますお父さんが好きになった。

出典:『弁当づくりで身につく力』p166-167

 誰だって、お母さんやお父さんが喜んでくれたら、嬉しいはずです。

「テストで100点取った!」と報告しても喜んでくれるでしょう。

 しかし、料理を作って喜んでもらうことは、100点のテスト以上に価値があると思います。
  必ず会話が発展していくからです。

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出典:『ひよっこ料理人』4巻 p18-19

3.竹下先生のねらい

 竹下先生は、【「弁当の日」のいちばんのねらい】として、家族の絆について言っています。

 人に喜んでもらうことの快感をなるべく多くの子どもたちに知ってほしい。(中略)

 卵焼きでも、唐揚げでも、ひとり分の弁当だけつくる子はまずいません。スーパーで鶏肉の切り身を買ってきて唐揚げをつくれば、いやでも何人前かできてしまいます。(中略)

 すると、残りの唐揚げは家族が食べることになります。

「そうか、これはおまえがつくったんか。すごいなあ、うまいなあ」

お父さんが喜べば、

「ほんとねえ、おいしいわねえ」

と、お母さんも目を細めます。

 わが子がつくった料理がおいしくないはずがありません。なかには、その日のうちに食べてしまわないで、翌日までとっておくお母さんもいます。
 
 その唐揚げは、この日、パートに出るお母さんの弁当のおかずになります。(中略)職場の同僚に自慢しなければならないからです。

「ねえ、ねえ、見て。この唐揚げ、うちの小学生の息子がつくったんよ

 お母さんは、そう自慢したくてしかたがないのです。そんなお母さんの姿を見れば、子どもだってうれしいに決まっています。

出典:『弁当づくりで身につく力』p164-p165

 第一回「弁当の日」の感想(自由記述のもの)において、圧倒的に多かったのが、毎日の食事を準備してくれる家族への感謝でした。

 そして、その感謝の気持ちは次のような態度の変化で表れてきました。


「好き嫌いを言えなくなった」
「不満を言わずに食べたい」
「これからはすすんで手伝いたい」
「ありがとうを言うようにする」
「たまには自分で作ろう」

 実際、その態度の変化は行動となって表れます。

 両親がふたりとも仕事に出かける土曜日の朝、ある男の子がいいました。「弟と妹の昼ごはんなら心配いらないよ。ぼくが残りごはんでチャーハンをつくるから」。

 
ある女の子は、急な発熱で寝込んでしまった母親の枕元に「これを食べてぐっすり寝て」と、梅ぞうすいと、ホウレン草のおひたしを運んできました。

出典:『弁当づくりで身につく力』p167

 「弁当の日」を経験した子どもたちは、自ら率先して家族のために、ごはんを作るのです。

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出典:『できる!を伸ばす 弁当の日』p40


4.例② 「作る側」になって気づいたこと

 次も、女の子の作文です。

 今日の「弁当の日」は、一品持ち寄り形式になりました。私のグループはテーマが中華になりました。

 私が「チャーハンをつくる」というと、x×君が「おれ、ピーマン、嫌いやからな」といいました。
 そのとき私は、この子に「ピーマンが入っているけど、おいしいな」といわせたいと思いました。

 なんと立派な女の子でしょう。もちろん、彼女はこのあとに起こる「悲劇」を知りません。

 それから二週間、私は毎日のようにチャーハンをつくる練習をしました。

 ピーマンを切るサイズを変えてみました。
 妙めるときの火力も変えてみました。
 香辛科の組み合わせは何通りも変えてみました。

 何回も、何回もくりかえすうちに、やっと××君に喜んでもらえそうなチャーハンがつくれるようになりました。
 
 今日の朝、早く起きて、たくさんつくってタッパーに入れて学校に持ってきました。
  でも、私がタッパーのふたを開けたとたんに、××君がいったんです。

「ピーマンくさい!」

 私はこの二週間、その子に喜んでもらえることだけを考えてチャーハンの練習をしてきました。

 なのに、××君に「ピーマンくさい」といわれました。私はつらかったです。とってもつらかったです。

 今日一日、つらいつらいと思いつづけていました。

 気の毒です・・・・・・。
 あれだけ努力したのに・・・・・・。
 しかし、この子が立派なのは、この経験を通してあることに気づきいたことです。

 でも、この感想文を書くころになって思い出したことがありました。

 このあいだ晩ごはんのとき、お母さんがつくってくれたおかずをひと口食ベて、私は「これ、おいしくない」といいました。

 
そして、おかずが入ったお皿をお母さんのほうへ押し返し、食べませんでした。

 あのときのお母さん、今日「ピーマンくさい」といわれた私のようにつらかったんだ。
 お母さんも、私に「おいしい」といってほしくてつくってくれていたんだ。
 
なのに、私、食べなかった。

 あれーっ、お母さんがつくってくれたおかずを食べなかったのは、そのとき一回だけじゃない。
 
 いままで何回も食べてない。そのたびに、お母さんはつらかったんだ。
 でも、お母さんは一度も私を叱らなかったから、今日まで気がつきませんでした。

 お母さん。これから先、お母さんがつくったおかずを「おいしくない」とは二度といわないことにしました。

 おそらく、この女の子が気づいたのは、「おいしくないと言ってはいけないぞ」ということだけではないでしょう。

 【誰かのために作るという体験】を通して、お母さんへの感謝の気持ちが生じたと思います。

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出典:『「ごちそうさま」は”命”のバトン』p37

5.「弁当の日」で、親にも変化が

 家族の絆の深まりは、子ども側だけではありません。
 親の方にも、変化が生じます。
 弁当を作る過程で、会話が増えるからです。

 以下は、保護者の方の感想です。

 六年になって家のことを何かさせなくてはと思っていたところへ、「お弁当を自分で作る」という、願ってもない機会をいただき、親子で共同作業をしながら、料理の素材に関するいろいろなことを会話しながら、料理の手順と味を伝えることができました。

(小学六年生·女児の母親)
『もっと弁当力!!』p92

  「弁当の日」のルールに、【親は手伝わないで】とあります。
 料理の手伝いはしませんが、子どもの質問に答えたりアドバイスをしたりすることは多いようです。

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出典:『「ごちそうさま」は”命”のバトン』p4

  もう一人、紹介します。

 生活力を身につけるには、地味でコツコツとした努力が必要ですが、意外と楽しそうにやりこなします。

 こんなに身近に親子の会話を温めながら、子どもの成長を見ることができることがあるとは……。

 毎日というわけにはいきませんが、お味噌汁をつくる習慣もずっと続くと思います。

(小学六年生·女児の母親)
『もっと弁当力!!』p106

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出典:『台所に立つ子どもたち』p23

6.なぜ弁当作りで家族の絆が深まるのか?


 弁当作りを通して、家族の絆が深まる。
 まさに、竹下先生のねらいどおりでした。

 なぜ弁当作りで家族の絆が深まるのか?

 その答えは、以下の2つだと思います。

―――――――――――――――
1️⃣弁当を作る過程で、家族の会話が増える
→買い出しや調理の過程で会話が増える

2️⃣作ったものを通じて、家族の会話が増える
→親は「おいしいなぁ」、子どもは「これどうやって作るの?」などの会話が増える
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 最後に、エピソードをひとつ紹介します。

 娘が生まれて初めて一人で作った弁当を受け取りながら、お父さんは泣きました。
 「会社に持っていってみんなに自慢する」
と言いました。
 娘は照れくさそうに私を見つめてきました。
 
 いつも残業、残業で帰宅が遅いお父さんが、夕飯時に帰ってきたので、珍しく家族そろっての食卓になりました。

 話題は、「娘の弁当」を披露したときの会社の同僚の感想で持ちきりでした。
 こんなにおしゃべりなお父さんを初めて見た気がします。

「この次はお母さんの弁当も作るからね」
と言ってくれました。
 私も泣きそうになりました。

出典:『できる!を伸ばす弁当の日』p53

7.竹下先生、滝宮小学校から転任

 教師に人事異動はつきものです。
 竹下先生の転任先は、高松市立国分寺中学校でした。

 竹下先生は、中学生に弁当作りをさせるのは、無理だと考えていました。
 その理由は、以下のとおりです。

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①小学生と違い、興味より「面倒くさい」という思いが強い
②小学生より忙しい(部活、勉強、塾など)
③親も「中学生なら弁当くらい作れる」という意識になり、あまり褒めない
――――――――――――――― 

 しかし、とある講演会でその考えは変わります。
 
 ある男子生徒のたった二行の感想文を読み、

「中学生にも、台所に立つすばらしさを教えなくては」

 と、思うようになったのです。
 
 はたして、竹下先生の考えを変えた男子生徒の感想とは?
 中学校での「弁当の日」は、成功するのか?

 続きは次回です。
 ご期待ください。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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 引用した部分は、note上で読みやすくなるよう改行などを加えました。
また、太字にしたのも私です。

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