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『が』と『は』の違いを理解して表現力をアップしませんか?

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん『が』住んでいました。

おじいさん『は』山へ柴刈り(しばかり)に、おばあさん『は』川へ洗濯に行きました。

『桃太郎』の冒頭部分です。

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西村敏雄『ももたろう』東京 あすなろ書房

 なぜ、一行目は『が』なのでしょうか??


ためしに、『が』と『は』を入れ替えてみましょう。

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん『は』住んでいました。

 おじいさん『が』山へ柴刈りに、おばあさん『が』川へ洗濯に行きました。


間違ってはいなさそうですが、どこか不自然な感じがしませんか?
つまり、『が』と『は』には明確な違いがあるはずです。

この記事は、【『が』と『は』の違いを理解していただき、noteクリエイターのみなさまの表現力アップに貢献したい】という思いで書きました。


1.本当に『が』と『は』は違うのか!?


ただ、そもそも『が』と『は』って、本当に違うのでしょうか。
この疑問を解決するために、例文をいくつか挙げます。

 (文の頭にある『⭕』や『❌』は、【文として成り立つかどうか】を表しています)

❌白鵬横綱だ。
⭕白鵬横綱だ。

⭕今夜は、寿司食べたい。
❌今夜は、寿司食べたい。

⭕空青い。
⭕空青い。 

⭕A氏結婚した。
⭕A氏結婚した。


やはり『が』と『は』には、違いがあるようです。

『が』と『は』を入れ替えると、文として成り立たなかったり意味が変わったりするからです。

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2.違い①

文だけで考えても、『が』と『は』の違いがわかりそうにないです。
したがって文章(=複数の文)で考えてみましょう。

以下の3つの文章を『が』と『は』が出てくる順番(どちらが先に使われているか)を意識しながら読んでみてください。

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん住んでいました。

 おじいさん山へ柴刈りに、おばあさん川へ洗濯に行きました。


 (ニュースで)
 三十代の男逮捕されました。
 その男大麻を所持していました。


 レジ袋有料化になりました。
 今の時代、レジ袋「当たり前のようにもらえる」ものではないのです。


すべての文章において『が』が先に使われています。
ここに『が』と『は』の違いを考える大事ながあります。

実は、『が』と『は』には、主語(※)に関わって以下の違いがあります。

09_がとはの違い


 主語(※)
 主語に関する考え方は様々(例:「私は」は、主語ではない)です。
 しかし、話を簡単にするため、ここでは『主語』を広い意味の言葉として扱います。


 では、さきほどの例文で確認しましょう。

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん住んでいました。(←おじいさんとおばあさんは【初登場】)

 おじいさん山へ柴刈りに、おばあさん川へ洗濯に行きました。(←おじいさんとおばあさんは【既出】)


 (ニュースで)
 三十代の男逮捕されました。(←『男』は新情報)
 その男大麻を所持していました。(←『男』は既出)


 レジ袋有料化になりました。(←『レジ袋』は新情報)
 今の時代、レジ袋「当たり前のようにもらえる」ものではないのです。(←『レジ袋』は既出)

 『が』と『は』の使い分けは、やはり情報の【未知】【既知】の違いが関わっていると言えそうです。

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念のため、さらに例文を挙げて確認しましょう。

親子で買い物に行っている場面を想像してください。

 子ども「今晩、チャーハン食べたい」
 親「OK。玉子ないから買っていこう」

 ⬆『玉子』は初登場(新情報)なので『が』

 子ども「ねぇ、玉子ってあったっけ?」
 親「玉子あるよ」

 ⬆『玉子』は登場済み(既知情報)なので『は』

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では、次の例文はいかがでしょうか。

⭕A氏結婚した。
⭕A氏結婚した。

『が』と『は』、どちらでも成り立つ場合です。

これも一文ではなく文章で考えてみると、スッキリします。
実は、この2つの文は事前の「問い」が違います。

「誰が結婚したの!?」(←事前の問い)
「A氏結婚したよ」

⬆『A氏』は【新情報】なので『が』

「A氏に何かあったの!?」(←事前の問い)
「A氏結婚したよ」

⬆『A氏』は【既出】なので『は』


3.違い①への反論

しかし、もしかしたら読書好きなnoteクリエイターの方は次のように思うかもしれません。

「いやいや、オニギリ殿の説明は間違ってるから。
太宰治は『走れメロス』で『メロスは激怒した』っていきなり書いてるから」

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画像出典:板垣恵介『刃牙道』9巻

実に鋭い指摘です。

たしかに『走れメロス』は、

 メロスは激怒した。

という一文から始まります。

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太宰治『走れメロス』 (ポプラ社文庫―日本の名作文庫) 

さきほどの、

仕切り

◆『が』は主語が未知の場合(新情報・初登場)に使われる。

◆『は』は主語が既知の場合(既出)に使われる。

仕切り

という違いに基づくと、本来、

 メロスという男がいた。
 メロスは激怒した。

と書くのが正しいですね。

しかし、この始まり方、どうでしょうか。
【優れた書き出しなのか】という観点でみたとき、いかがです?





非常にリズムが悪いと思います。



神尾アキラさんなら間違いなく怒るレベルです。(リズムにのれないので)

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許斐剛『テニスの王子様』 4巻 p108


太宰治は、あえて既知情報に使われる『は』を一文目に持ってくることで、読者を物語の世界に引き込んだのです。

映画の冒頭いきなり事件が起こるのと同じ手法ですね。

太宰治・・・・・・。
さすが”味の素”のみを信じる男です。※

”味の素”のみを信じる男



 鮭缶が丼の中にあけられた。太宰はその上に無闇と味の素を振りかけている。 
 「僕がね、絶対、確信を持てるのは味の素だけなんだ」   

(岩波現代文庫『小説 太宰治』檀 一雄 p14)
【補足】壇一雄は太宰の盟友です。

4.違い②【取り立て】と【対比】


『が』と『は』の違いは、まだまだあります、

⭕A氏結婚した。
⭕A氏結婚した。

どちらも成り立つ文です。
しかし、意味が違います。

⭕A氏結婚した。【取り立て】
⬆(他の誰でもない、A氏が結婚した)

⭕A氏結婚した。【対比】
⬆(B氏は結婚していない)

つまり、次のようにまとめられます。

09_がとはの違い




この『が』と『は』を組み合わせると、効果的な表現ができます。

たいへん唐突ですが、目の前にテレビがあり、【おぎやはぎ】さんが映っているとします。

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さらに、あなたの隣には、

【どっちが”やはぎ”で、どっちが”おぎ”か、わかっていない人】

がいるとします。(どんな状況やねん、と突っ込んではいけません。真面目な話をしています)


その人が、あなたに、

どっちが”やはぎ”だっけ?

と聞いてきます。
それも、【おぎやはぎ】さんがテレビに映るたび、毎度毎度聞いてきます。


すかさず、言ってやりましょう。

 こっち”やはぎ” ←【取り立て】
 こっち”おぎ”  ←【対比】

【取り立て】と【対比】により、「こっちが”やはぎ”」という言葉を強調できるのです。

そのうえ、「何回も同じこと聞いてくるんじゃねーよ」という怒りも込めることができます。

一方、

 こっち”やはぎ” 
 こっち”おぎ”

では、どちらも【並列】なので強調できません。

実生活では、

「こっち出口。こっち入り口」

などと似ているものの案内・説明をわかりやすくするために使えます。


6.まとめ

 『が』と『は』の違い下の表にまとめました。

画像14

 

『が』と『は』の違いは、他にもあります。(実は書いたのですが、4000文字を超えたので泣く泣くカットしました。ご要望あれば、コメントください)


たった一文字の言葉ですが、それだけで文の意味が変わってしまう。
まことに興味深いことです。

『が』と『は』の違いを理解し、使い分ければ表現力は確実に向上すると思います。

感謝



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