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辞書なのに「この魚うめぇ」って主観入れて説明してくるものがある

【あこう鯛】
タイに似た深海魚。顔はいかついが、うまい。

 これは、”とある辞書”の【あこう鯛】の説明です。

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 たしかに鯛はおいしいと思いますよ。
 しかし、辞書が堂々と「うまい」なんて説明していいんでしょうか?


  たとえば、『明鏡国語辞典』には、

【あこう鯛】
深海の岩場にすむフサカサゴ科の海水魚。体色は鮮紅色。食用。あこう。

 と客観的に書いてあります。


 ”とある辞書”の【赤貝】の説明も見てみましょう。


【赤貝】
海でとれる二枚貝の一種。貝殻は心臓形、肉は赤くてうまい。


 また出ましたよ、「うまい」。


 「うまい」を多用する”とある辞書”とは、『新明解国語辞典』(以下、『新明解』)です。

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 この記事は、

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辞書なのに「うまい」という主観的な言葉を入れてしまう『新明解』のおもしろさを提供するもの

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 です。


※特別な記述がない限り、引用は『新明解』の<第四版>です。


1.食べ物編


 【あこう鯛】や【赤貝】以外の語釈(言葉の説明)はどうでしょうか。


【はまぐり】
(浜栗の意)遠浅の海にすむ二枚目の一種。食べる貝として、最も普通で、おいしい。


【鮭】
北海に住む、大形の魚。秋、自分の生まれた川をさかのぼって卵を産む。薄い紅色の肉は美味。

 「おいしい」「美味」ときましたか。
 さすが辞書。表現が豊かです。


 クッキングパパが調理する鮭は、たしかにおいしそうです。

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うえやまとち『クッキングパパ』32巻



 どんどんいきましょう。

【鼈】(すっぽん)
 日本南部の泥沼や川にすむ、カメの一種。甲らは丸く柔らかで、かみついたら離れない。吸い物にして、美味。

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 どうですか、みなさん。

 おすすめの調理方法まで教えてくれる
のが、『新明解』なのです。
 そこらへんの辞書ではマネできないでしょう。



【雉】(きじ)
ニワトリぐらいの野鳥。尾は長く、雄は羽が美しい。肉は美味。



【鴨】(かも)
 ニワトリくらいの大きさの水鳥。首が長くて足は短い。冬 北から来て、春に帰る。種類が多く、肉はうまい。

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寺門ジモン原作『ネイチャージモン』4巻


 脂の乗った鴨・・・・・・。
 白いご飯と一緒に口中へ放り込みたくなります。


「雉」や「鴨」といったジビエを好む『新明解』は、もしかしたら【マタギ】なのかもしれません。

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寺門ジモン原作『ネイチャージモン』4巻



 ただ、『新明解』の好みは肉や魚だけではありません。

【白桃】
〔「黄桃」と違って〕実の肉が白い桃。果汁が多く、おいしい。

 フルーツもいけるようです。美食家なのでしょうか。



 そうだ!
 オニギリは!?

 私が愛するオニギリは、なんて書いてある!?


02 アイコン②




【おにぎり】
「握り飯」の女性語。

 

 ・・・・・・。
 非常に味気ないですね。
 あっ!もしかして、【握り飯】のところに詳しく書いてあるかも?!





【握り飯】
水でしめした手に塩を付けて、飯を三角形(丸い形)に握り固めた携行食品。

 残念ながら「美味」「うまい」といった記述は見つかりませんでした。



というか、この辞書、かなり好みが偏っていませんか?
魚介類が好きな印象を受けるのですが・・・・・・。


そこで、「うまい」「おいしい」「美味」といった記述が<書いてあるもの>と<書いていないもの>を表にしてみました。

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すべての魚介に「美味」と書いてあるわけではないのですね。
思いっ切り『新明解』の好みが反映されています。


また、日本の国民食といっていい「ラーメン」や「カレー」には興味がないようです。



ここまで読んでくださったあなたは、

『新明解』って食べ物の好みを記述してしまう、カワイイヤツじゃないか😍

と思われたかもしれません。



しかし、『新明解』はそんなに甘くありません。

実は、悟空やクリリンを鍛える亀仙人よりはるかに厳しいのです

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鳥山明『ドラゴンボール』



2.厳しい言葉編

 

 では、『新明解』が浴びせてくる厳しい言葉を紹介します。


【凡人】
自らを高める努力を怠ったり功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。

私は凡人です。
しかし、家族・友人・後輩・生徒に少しくらいは影響を与えているとは思います。

ところが『新明解』さんは、「凡人は影響力が皆無」と断言しています。

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『週刊文春』1997年12月11日




 他にも辛辣な言葉はたくさんあります。

【実社会】
 実際の社会。[美化·様式化されたものとは違って複雑で、虚偽と欺瞞とが充満し、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す]



【人生経験】
表街道を順調に歩んで来た人にはとうてい分からない、実人生での波瀾の富、辛酸をなめ尽くした経験。



【世の中】
同時代に属する広域を、複雑な人間模様が織り成すものととらえた語。愛し合う人と憎み合う人、成功者と失意·不遇の人とが構造上同居し、常に矛盾に満ちながら、一方には持ちつ持たれつの関係にある世間。

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『新明解』、なんかあったか?
そう聞きたくなるほど、厳しい説明です。

『新明解』の表現には何か”怨念”のようなものを感じます。



そして、『新明解』さんの厳しさは、政治関係の言葉にも強く表れています。

【政界】
[不合理と金権とが物を言う]政治家どもの社会。(第三版)

 『新明解』さん、我慢ができなかったのでしょう。
 つい、「ども」をつけてしまったのですね。


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【公約】
政府、政党など、公の立場にある者が選挙などの際に世間一般の人に対して、約束すること。また、その約束。(実行を伴わないことも多い)
(第五版)

 
【思ってはいるけど、言えないこと】を堂々と言ってくれるのが『新明解』の素晴らしいところです。


ただ、『新明解』はむやみやたらに厳しいのではありません。
厳しい言葉の中に、愛があります。


【こそこそ】
他人に見られないように(所で)何かをすることを表す。「運動会や遠足を欠席してこそこそ勉強をし、試験のとき一点でも多くとりたいという浅ましさ」

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 辞書を使う学生に、

学校は受験勉強をするだけのところじゃない。 教室の中では学べないことが、たくさんあるんだ!! 

という強いメッセージを送っています。


想像ですが、『新明解』は学生時代に勉強に打ち込んでばかりだったのではないでしょうか


「運動会や遠足という仲間との思い出作りを大切にしてほしい。俺のようにはなるなよ」という思いがあるのかもしれません。


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赤坂アカ『かぐや様は告らせたい』 


このように個性的な語釈が満載の『新明解』です。

そんな『新明解』が【射精】という言葉をどのように書いているか気になりませんか?

これがまた目を疑う内容なのですよ。

長くなるので次回に続きます。
 

 続きはこちら👇👇


感謝


※辞書の引用において、太字にしたのは私(オニギリ)です。

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