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”射精”の説明が個性的すぎる辞書

 じゃがいもを、

【寒冷地のは美味】

自分の好みを反映して説明してしまう辞書、『新明解国語辞典』(以下、『新明解』)

この記事は、『新明解』を通じて、辞書に興味を持ってもらう記事の後編です。 


前回の記事はこちらです👇


1.『新明解』が【射精】を説明したら・・・・・・


 『新明解』は、【射精】を第四版では次のように説明していました。

【射精】
精液を出すこと。

この説明に不自然なところはありません。 


しかし、[五版]に改訂する際、次のように加筆しています。

【射精】
精液を勢いよく出すこと。

どういう意図で「勢いよく」を追記したのかはわかりません。

言えるのは、『新明解』が「こうするのが一番いい」という方針で「勢いよく」を追記したという事実です。

今回の記事は、まず改訂による変化に触れていきます。

2.改訂による変化



まず、【足りる】の用例(言葉の使用例)です。

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『新明解』は夜の繁華街での遊びでも覚えたのでしょうか。


三千円では足らなくなり、金額をちゃっかりアップしています。

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 次は【入れあげる】です。

[初版]→[五版]にかけて、少しずつグレードアップしていきます。

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もしかしたら、『新明解』には”愛人”がいるのかもしれません。

初版の頃は「たくさんのお金を使う」程度で済んでいました。

しかし、五版の頃には「自分の持っているお金などをすべて使い果た」してしまったのでしょう・・・・・・。

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3.用例がおもしろい


ところで、『新明解』は辞書の1ページめに『辞書に求められるもの』として次のように記述しています。

辞書後進国の悲しさ、どの辞書を見ても満足を覚えることはめったに無い。そこに載せる用例は余りにも貧弱であり、当然の結果として語義の分析は十分でない。

『新明解国語辞典』(第四版)の序

 

用例とは「その言葉が実際の生活ではどのように使われているか」を説明するための【言葉の使用例】です。

日本の辞書に不満を覚える『新明解』さんは、用例に力を入れたのです。

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それでは、その力の入った用例を見てやろうではありませんか。

【一気】
従来の辞典ではどうしてもピッタリの訳語を見つけられなかった難解な語も、この辞典で一気解決

自信を持つことは大事です。
私は『新明解』から、「堂々と胸を張れ」ということを教わった気がします。


【むっちり】
イナゴは軽快で、香ばしく、肉にむっちりしたところもあって、いいオヤツになるのだった。

 前編でふれたとおり、やはり『新明解』には狩猟の心得があるのです。 
 『新明解』=マタギ説の真実味が帯びてきました。

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『ネイチャージモン』4巻 



 ここからは『新明解』の危うい女癖を紹介します。

【好き】
好きな人〔=愛人〕

 

【好き】の用例に「好きな人」を挙げるのは自然です。
しかし、<好きな人=愛人>というのは、疑問を感じますね。

さきほど書いたとおり、愛人に全財産を使ってしまった『新明解』の今後が心配です。


【会話】
ほとんど会話もない生活に耐えられないので、とうとう別れることになった。

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私の心配が現実になってしまいました。
「愛人」のことが『新明解』の奥様に露見し、会話のない生活になってしまったようです。


【零点】
人間として零点だ〔=全く取り柄がない〕

 奥様や友人から、「お前は最低だ!」と言われたのでしょう。
 『新明解』の自己評価は、とことん落ち込みます。


【たびたび】
そういえば私は、これまでたびたびの海外旅行に税関でソワソワ したこともなければ、オドオドしたこともない。

自信を失った『新明解』は、「税関でソワソワしない」ことが唯一誇れることとなってしまいました。

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【うれしい】
あいつもだめだったかと思うと、うれしくなっちゃう。

ついに、他人の不幸を喜ぶ人間に成り下がります。
友人もだめ(離婚か?)になったことを知り、愉悦に浸るのです。
 


ついに奥様とは離婚。
愛人からも、愛想をつかされてしまった『新明解』。



愛も財産も失った『新明解』は故郷に戻り、定食屋を営む実家に帰ります。

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しかし、母親には、


「お前みたいなロクデナシに手伝ってもらう仕事はねぇ!」

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と言われてしまいます。



そんな場面で出た言葉が、

【断然】
おっかさんがどう言おうと、おれは断然おっかさんの手つだいをする。

です。

真っ当な人間になろうという『新明解』の叫びです。



こうして、『新明解』は心を入れ替え、まじめに実家の仕事を手伝いました。

定食屋は忙しかったのですが、『新明解』はまかないで食べるお蕎麦がおいしかったので頑張れました。


グルメな『新明解』(前回参照)は「挽きたて、打ちたて、ゆでたて」のお蕎麦を、ほとんど毎日食べたのです。

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【どっぷり】
おそばのタレは、たっぷりとつけたい。たっぷり、というよりどっぷりといった方がいい。

【たっぷり】ではないよ、【どっぷり】だよ、とわざわざ強調しているところから、蕎麦への愛を感じます。



「アイツも心を入れ替えたようだな」

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一年がたち、『新明解』の親父さんも、汗を流して働く息子に「二代目」を譲ってもいいか、と考え始めました。




しかし、近くにイタリア美女が引っ越してきて、様子が一変します。

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【ねばねば】
ねばねばした暑熱と、たえまない靴音と、汗ばむ倦怠物にひたって、すれちがうイタリア娘の腰と足を鑑賞していると(後略)

また『新明解』の悪い女癖が出てしまいました。
「腰」だけでは物足らず「足」も鑑賞しています。



【させる】
君ばかりもうけさせているわけにはいかない

どこで聞いてきたのか。
イタリア娘に貢ぐ金を稼ぐため、”きみ”とやらがしている危険な仕事に手を出します。



”君”がしているのは、黒服に身を包んで行なう怪しい仕事でした。


【ひととおり】
一週間ばかりしたら学校の様子をひととおりはのみ込めたし、宿の夫婦の人物もたいがいわかった。

 どうやら学校を狙う仕事のようですが・・・・・・

 『新明解』は何をしようとしているのでしょうか?

 宿の夫婦が事件に巻き込まれないか、はなはだ心配です。




 このあと、『新明解』がどうなったのかはわかりません。
 ただ、手がかりとなる用例は見つかりました。

【見込む】
悪魔に見込まれる



 【見込む】の用例なんて、

◆書道の師範に見込まれる
◆社長が見込んだ男

などいくらでも見つかります



それでも「悪魔」を用例に使ったのは『新明解』が悪魔と契約したからではないでしょうか。

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4.謎のメッセージ


 ここまで読んでいただき、

新明解国語辞典っておもしろい辞書だなー😄😄

 と思っていただけたら嬉しいです。


 


 さて、最後に【時点】という言葉の用例を紹介します。

【時点】
一月九日の時点では、その事実は判明していなかった

 

  不自然です。

”その事実”って何やねん?

と聞きたくなりませんか。

「一月九日」という具体的な日にちが書いてあるのも妙です。



実は『新明解』が誕生する経緯には、

【戦後の辞書界を代表する二人の男】の、友情と決別

 があったのです。


その話を知れば、

◆なぜ『新明解』は「あこう鯛はうまい」などという説明をするのか?
◆一月九日に何があったのか?

 という謎がとけます。


 そして、

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「新明解国語辞典っておもしろい辞書だなー!」という評価は|一変する《・・・・》

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 でしょう。


 👇続きはこちらです!!


感謝


※辞書の引用において、太字にしたのは私(オニギリ)です。


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