オイカワカエル

音楽、読書、映画、植物。翻訳を少々。メーテルリンクのエッセイ『二重の庭』を訳了しました…

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音楽、読書、映画、植物。翻訳を少々。メーテルリンクのエッセイ『二重の庭』を訳了しました。 メーテルリンクの形而上学的エッセイ『埋もれた宮殿』も、Amazon Kindleにて発売中です。

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モーリス・メーテルリンク"Le Double Jardin"の翻訳を終えて

https://www.amazon.co.jp/二重の庭-モーリス・メーテルリンク-ebook/dp/B0C6M9G2G4/ref=sr_1_5?crid=1KNLXMYMFPYJE&keywords=二重の庭&qid=1685548466&sprefix=%2Caps%2C173&sr=8-5 およそ半年間。ようやく翻訳が終わった。 『青い鳥』や『ペレアスとメリザンド』の原作者として知られるモーリス・メーテルリンクのエッセイ集。 タイトルは『二重の庭』。 この”二重”

    • トルコ語⇄日本語で、詩の交換

      最近たてつづけにトルコ在住の人と友だちになった。 その1人に文学の先生がいる。 その人は詩を教え、自分でも詩を書いているらしく、トルコの詩にも詳しい。 トルコの詩についていろいろ質問すると、トルコではよく知られた詩を送ってくれた。 私はトルコ語ができない。一度だけトルコ西部を訪れたことがある。でもMerhaba という挨拶くらいしか知らない。なのでグーグルに頼って日本語に訳してから読んだ。 けっこう立派な詩の体裁をとっている。翻訳者泣かせである。 さてその詩というのは、と

      • 映画『 A GHOST STORY』いかにもありふれた幽霊の姿が意味するのは?

        DVDを買おうか迷っていたら、『A GHOST STORY』がアマゾンプライムビデオに入っていて狂喜。さっそく観た。 このデヴィッド・ロウリー監督を私は贔屓にしている。『グリーン・ナイト』以外は観た。新作の『ピター・パン&ウェンディ』も、ピーター・パンじたいにはまったく興味がないけど観るつもりだ。 さて、デヴィッド・ロウリーの映画といえば静謐で明暗が繊細に移り変わる映像が魅力的だが、この幽霊譚はストーリーもいろいろと考えさせられた。 一見するとわかりづらいストーリーかもし

        • 短編小説『あまさかる』 (2/2)

          まばたきの勢いで重たるいまぶたをどうにか持ち上げると、車線を隔てる白線が波打っていた。左を見ても、右を見ても、真っ暗だ。倫子の記憶は現実への糸口を失っていた。 幾重にも重なる山間を貫く高速道。路傍の壁が凹んだ明るい場所をようやく見つけた倫子は、どうにでもなれ、ゆるゆるとそちらに引き寄せられていった。帰ってきたのではないか。そんな一抹の期待さえよぎった。 エンジンを止め、窓を下ろす。中央分離帯のはるか向こう側に、青灰色の帯が幽かににじんでいる。とっさに倫子は風の中に海のにお

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          短編小説『あまさかる』 (1/2)

          雨上がり。冬。倫子は一人で暮らしている大きな古い家から、白いダイハツ・ミラを運転して近くの老人施設にボランティアに出かけていた。洪水で自宅を流された後に建てた家も、いまや50年以上が経ち、雨漏りがするようになっていた。 自宅でじっとしていられず、88になってもなお、傷だらけの軽自動車で近隣を駆け回り、初老になった娘や息子たちをひどく心配させていた。高齢者の運転する車が登校中の小学生の列に突っ込んだというニュースをテレビで見かけ、娘たちはいっそう気を揉んで電話をかけあった。何

          短編小説『あまさかる』 (1/2)

          宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』を観てきた。あるいは、「晩年に円熟に背を向け、気難しく、自分の属する社会と矛盾に満ちた関係を持つに至るもの」

          なんの前情報もなく観てきた。忘れないうちに、溢れる情報を見てしまう前に、すばやく書いておきたい。ネタバレがあるかもしれません。それも心許ない。どこまでがネタバレかも、もはやわからない映画だった、というのが正確なところかもしれない。まとまりがないけれど、ご寛恕いただきたい。 吉野源三郎原作の『君たちはどう生きるか』をアニメ化した作品だとたかを括っていた。ら、まったく違った。過去に読んだことがありすっかり忘れてしまったものの、明らかに違いすぎる。 舞台は戦時下、冒頭、火災が起

          宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』を観てきた。あるいは、「晩年に円熟に背を向け、気難しく、自分の属する社会と矛盾に満ちた関係を持つに至るもの」

          暑夏の自由研究【狛犬のルーツ】

          友人になぜか頼まれる友人と電話していた時、唐突に、神社にいるあの狛犬について調べてくれないかと頼まれた。暇人のにおいがしたのかもしれない。 友人いわく、 狛犬は一対で、一方は阿形(あぎょう。つまり口を開いている)、他方は吽形(うんぎょう。つまり口を閉ざしている)であるのが一般的だ。ところで、運慶・快慶によるものが有名だが金剛力士像もまた、一方が阿形、他方が吽形である。 両者には何か関係があるのだろうか。 というわけだ。私は狛犬なんていっさい興味がなかったけれど、まんまと

          暑夏の自由研究【狛犬のルーツ】

          建設中のホテルに泊まる、停電の夜、蛍。

          ふと思い出したことがあったので書きつけておきたい。 インドは、ゴータマ・ブッダが悟りを開いた菩提樹があるという町でのこと。 今思い返すと夢のようにさえ思える。 どうやってそのホテルに辿り着いたのか覚えていない。 滞在中は往々にして、見知らぬ誰かの案内でなかば強引に連れて行かれることしばしばだった。 のこのことついていくのは危険だとは身に染みて経験していた。けれども、同時にいくら観光客目当ての客引きとはいえ、警戒すべき悪意ある人間がそう多くはいないということもだんだんとわか

          建設中のホテルに泊まる、停電の夜、蛍。

          非同期した、坂本龍一

          坂本龍一氏が亡くなり、じきに4ヶ月が経とうとしているが、思いのほかいろいろと考えることがあった。 20代の頃、ひょんなきっかけである午後、彼と短い言葉を交わすことになった。 こちらの目を射抜くようなあの鋭い視線を忘れられず、あの人は今どうしているだろうかと、折に触れて思い出してきた。もちろん、彼の音楽も聴き続けてきた。 それがいつしか、病の進行を気にすることになろうとは。ともあれ、あと10年は生きるだろうと勝手に信じていた。 死後、いろいろな人の発言を読んだり聞いたりす

          非同期した、坂本龍一

          命のスケール

          イタチの出産、わが家の庭の倉庫の下でイタチが仔を産んだ。見たところ4匹はいる。小鳥のような声で鳴いている。さあ、食べてくれと言わんばかりに。 そんなに騒いだら敵に狙われるだろうとも思うのだが、一方でそれは哺乳類として、生きるために親に食べ物を要求する叫びでもあるのだろう。 人間の私は、このまま増殖されても困るから、カラスにでも食べられればいいのに、とちょっと思っている。自分で駆除する勇気はないから。 アリだったら平気でつぶせる。でも、イタチの赤ちゃんを殺せないのは、単

          わからないからかえって気になる"大人の"絵本作家・エドワード・ゴーリーの素顔

          一癖も二癖も三癖もある絵本作家、エドワード・ゴーリー(1925-2000)が気になってしかたがない。 彼の絵本を読んでいると、うんともすんとも反応しない、黒い鉄の玉が思い浮かぶ。そこには希望のかけらさえなく、読者の解釈をいっさい寄せ付けないかたくなさがある。 いったいこの人は何のために作品を作ったのだろう?  自分の愉しみのため? それにしてはどの絵本も暗い。むしろ苦しみのために作っているのでは、とさえ考えたくなる。 お金のため? それはそうだろう。 でも、それにしては1

          わからないからかえって気になる"大人の"絵本作家・エドワード・ゴーリーの素顔

          物語は人生を救うのか、それとも殺すのか。マチュー・アマルリック監督『彼女のいない部屋』

          マチュー・アマルリックってあのマチュー・アマルリック?本作『彼女のいない部屋』(原題はSERRE MOI FORT わたしを強く抱きしめて)を観始めて浮かんだのは、まずその疑問だった。 マチュー・アマルリックといえば、皮肉屋でコミカルで、ちょっと間抜けな男性の役が板についているフランスの俳優というイメージがある。 そのマチュー・アマルリックが監督を務めているというのは本当なのか。 というのも、冒頭、黒の背景に浮かぶ、氷を砕いたような光の繊細な映像に早くも魅了されたからだ。

          物語は人生を救うのか、それとも殺すのか。マチュー・アマルリック監督『彼女のいない部屋』

          「ゆうぐれ」を借りに

          クリスマスでよろしかったですか? 汗ばむほどの日曜日の昼、必要があってユリ・シュルヴィッツの『ゆうぐれ』という絵本を図書館へ借りに行った。 でもなかなか探し当てられなかった。 近くでいそがしそうにしている司書の方にお願いすることにした。とてもまじめそうな方だった。 さすがに慣れたもので、彼女は最短距離で目的の書棚にむかって速足で歩いていく。私はそのうしろからついていく。 (場合によっては司書の方もなかなか見つけられないことがある。そんな時は2人してドラクエみたいに一列にな

          「ゆうぐれ」を借りに

          老いつつあるヨーロッパが主人公の映画『リスボンに誘われて』

          思いのほかいろいろと思うところがあった1本だ。 監督を務めるのはデンマーク出身のビレ・アウグスト。『ペレ』と『愛の風景』で、カンヌ国際映画祭で2度のパルム・ドールを受賞している。 原作はパスカル・メルシエ著『リスボンへの夜行列車』。こちらも和訳が出ているがまだ読めていない。 リスボン、リスボン ポルトガルにも、リスボンという街にも、一度も行ったことがない。 でも不思議と惹かれる。映画の舞台がリスボンだと分かるやとにかく見たくなる。たぶんヴィム・ヴェンダースの『リスボン物

          老いつつあるヨーロッパが主人公の映画『リスボンに誘われて』

          ゴーゴリを思い出す。父を葬る映画。アレクサンドル・ソクーロフ監督『セカンド・サークル』

          まず、壊れたかと見えたVHSが完全復活。なんという部品かは知らないけど、回転する円筒状のゴムの部分の回転がブレていたようだ。 テスト再生のために本作を再生してみたら、そのまま見てしまう。 前に見た『ストーン』と同じく、このまま90分近く見続けられるだろうかと不安になるくらい、冒頭が暗い。おまけにほとんど動きがない。 だが例によってじわじわと面白くなってくる。 この映画は、しばらくぶりに故郷に戻ってきた若い息子が、死んだ父親の葬るためにあれこれ手続きをする。それだけの映画だ

          ゴーゴリを思い出す。父を葬る映画。アレクサンドル・ソクーロフ監督『セカンド・サークル』

          『平家物語』雑感

          古川日出男訳の『平家物語』を読了。 なんとなくこの、源平が鎬(しのぎ)を削った時期というのが気になっていた。 というのも、時は武士が台頭し始めた時代。 I HATE BUSHIDO.私は「武士」なるものが大の苦手で、嫌いだからかえって気になる存在なのだ。というか、嫌悪の核はいわゆる「武士道」かもしれない。 もう少し正確にいうと、新渡戸稲造なんかが海外向けに"BUSHIDO"を書いて、それが逆輸入されてきた形でのアレだ。あと三島由紀夫の武士道観も。 ところで、本書の舞台と

          『平家物語』雑感