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ゴーゴリを思い出す。父を葬る映画。アレクサンドル・ソクーロフ監督『セカンド・サークル』

まず、壊れたかと見えたVHSが完全復活。なんという部品かは知らないけど、回転する円筒状のゴムの部分の回転がブレていたようだ。

テスト再生のために本作を再生してみたら、そのまま見てしまう。
前に見た『ストーン』と同じく、このまま90分近く見続けられるだろうかと不安になるくらい、冒頭が暗い。おまけにほとんど動きがない。

だが例によってじわじわと面白くなってくる。
この映画は、しばらくぶりに故郷に戻ってきた若い息子が、死んだ父親の葬るためにあれこれ手続きをする。それだけの映画だ。

葬儀の手続きをするこの息子は、どうやらちゃんと父を葬りたいという気持ちはあるのだが、何をしてよいのかわからずに途方に暮れること多々。

おまけに、バスの中で葬儀に充てるお金を盗まれてしまったらしく、葬儀屋の女性と見積もりを出し、いざ契約成立、という段になり、そのことに気が付くという体たらく。

とはいえ、葬儀代は前借りするとして、不機嫌な葬儀屋が準備をしにやってくる。ここが見どころだ。
この葬儀屋の女性、明らかに青年にブチ切れている。彼がぼんやりしているので、高圧的にいろいろと指示を出す。「こんちくしょう」などと毒づいたりもする。

遺体にスリッパをはかせろと女性はいう。しかし息子は、父に靴を履かせて葬りたりという希望がある。果てにはそれでモメて、掴み合いになったりもするので、見ているこちらはハラハラする。葬儀屋の圧勝。

棺桶に入った父親は踏んだり蹴ったりである。もし本作がスラップスティック・コメディなら、このほとんど物扱いの父親の遺体が笑いの源泉になるところだが、本作ではいたってみな真剣だ。

とてもゴーゴリの小説っぽい。まるで彼の短編を読んでいるみたいだと思った。絶望の底で鈍く輝き出す、もっともっと黒いユーモアだ。真顔のユーモア。

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