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命のスケール



イタチの出産、

わが家の庭の倉庫の下でイタチが仔を産んだ。見たところ4匹はいる。小鳥のような声で鳴いている。さあ、食べてくれと言わんばかりに。

そんなに騒いだら敵に狙われるだろうとも思うのだが、一方でそれは哺乳類として、生きるために親に食べ物を要求する叫びでもあるのだろう。

人間の私は、このまま増殖されても困るから、カラスにでも食べられればいいのに、とちょっと思っている。自分で駆除する勇気はないから。

アリだったら平気でつぶせる。でも、イタチの赤ちゃんを殺せないのは、単にアリよりも身体が大きいというただそれだけの理由からだろうか。
じゃあネズミならどうか。
ゴキブリならどうか。
ダンゴムシならどうか。

命のスケールについてちょっと考えてしまう。というのも、その境界を決めるのは、単なる習慣にすぎないとうすうす感じるから。いい加減なことだ。

夢にも見た、にっくきアオダイショウ現る、

そこへ数日後、長々としたアオダイショウが現れた。
おそらく、あの騒々しいイタチの赤ちゃんを狙ってやってきたのだと思う。
しかし私は蛇が大嫌いだ。一刻も早く退治したい。
しかししかし、イタチの赤ちゃんを食べてくれたら好都合だとも思う。
もどかしい。

ちょうどその2日ほど前に、不思議なことに私は蛇が家に入ってくる夢を見たばかりだった。蛇の夢はときどき見る。たぶん、嫌いだからだろうか。

ともあれけっきょく嫌悪感に駆られて、いてもたってもいられず、アオダイショウを棒で引っ掛けて追っ払おうとすると、たくみなもので、蛇は近くの枝を伝ってオリーヴの木を這い登っていくのだった。

頭上に蛇が潜んでいるという状態がたまらないので、2階にあがって木をじっと観察した。アオダイショウが視界から姿を消すまでの10分ほどの間に、私は自分が見た夢をみずから実現させようと奮闘している自分に気がつき、その滑稽さを噛み締めていた。屋根の上に追いやってどうする。

このままでは屋根にあがって、樋や、私が気づきもしない隙間を伝って、家の中に入りこんでくるのではないかと心配した。

蛇がイタチの子を何匹か食べ、満足して去っていく理想的な結末を思い浮かべていたのだが、それどころか、アオダイショウまで家に居付かれたらたまったものではない。

食物連鎖の乏しい知識からすると、このままイタチが増殖し、それをエサとするアオダイショウが増殖し、アオダイショウを食べにくるカラスが増殖するという最悪の事態を考えてしまうーーー

その後、

しばらく庭の観察を続けたけれど、しかし今のところそうなってはいない。
あれから、イタチの赤ちゃんも、アオダイショウも見かけていない。

その代わり、新たに、何という鳥だろう、薄灰色の鳥が現れ、毎日、私が育てている鉢植えのイチゴブルーベリーの実を狙いにくるようになった。

もう少し小さなスケールの世界に目を転じてみると、いつのまにか、ハグロトンボが異常発生している。美しくて、しかも無害で、毎日妖精みたいに飛んでいるから放置しているが、これがもしももう少しスケールの巨きなイタチのような動物だったら困るわけだ。

さらに小さなスケールの世界に目を転じてみると、ライトグリーンのイモムシに室外に出したばかりの箱入り娘のハイビスカスが侵略されている。どうやら、葉を幾重にも巻いて、卵を産む習性があるらしい。さらには、レモンの木の葉に、アリが大量発生している。しばらく観察していると、レモンの葉についた何か別の虫の卵のようなものが付着しているために、それを餌食としてアリが増えているらしい。しかも、根元にアリのコロニーができあがっている。

いま、次々と登場する生き物たちを前に、すっかり命のスケールを持て余し、圧倒されている。


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