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北極冒険家が考える「人はなぜ冒険するのか?」

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#読書

知的情熱を体で表現する。読書と冒険の関わり

知的情熱を体で表現する。読書と冒険の関わり

岩波書店「図書」2023年1月号に寄稿した文章です。
読書との出会い、冒険との出会い。そこに関わる本の思い出。

知的情熱を体で表現する

まだ私が極地冒険と出会う前のこと。自分には何かできるはずだという根拠のない自信だけを抱えながら、自分がいる場所から一歩も動けずにいた大学生の私は、本の中に未知の世界を求めていた。

思えば、活字を積極的に読むようになったのは中学生の頃。三年生の時の担任で国語を

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冒険と読書の同一性。主体性の話し

冒険と読書の同一性。主体性の話し

探検とは何か

 今から100年以上前の1911年12月。ノルウェーの偉大な探検家、ロアルト・アムンセン率いるノルウェー隊が南極点に人類初到達をした。
 しかしこの時、南極点初到達を目指したもう一隊が存在した。それが、イギリスの海軍大佐ロバート・スコットが率いるイギリス隊である。
 スコット率いるイギリス隊が南極点に到達したのは1912年1月。アムンセンたちに遅れること一ヶ月。スコット一行が苦難の

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冒険研究所書店は「不自由の牢獄」

冒険研究所書店は「不自由の牢獄」

ミヒャエル・エンデの作品のひとつ「自由の牢獄」は、ある男が無数のドアがあるふしぎな空間に落とされ、どれでもひとつのドアを自由に選ぶことができるが、結局どれを選ぶこともできずに永遠の時間をそこで過ごす、という話。

無限の自由を与えられると人間は不自由になってしまうという、文明批評的な童話だ。

なぜ際限のない自由を与えられると、不自由に陥るのだろうか。その理由の一つは「選んだもの」ではなく「選ばな

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冒険と読書

冒険と読書

昨年5月より「冒険研究所書店」を開設し、おかげさまでたくさんの取材などをしていただいた。

取材となると、インタビューを受ける訳だが、まず100%聞かれるのが「なぜ書店を始めようと思ったんですか?」というものだ。冒険家が書店を始めた、というのが皆さん相当に疑問のようだ。

例えば、私がもともと出版社に勤めていて、会社を辞めて書店を始めました、という人物であれば、おそらくここまで「なぜ書店を始めたん

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冒険クロストークvol.6 画家 諏訪敦「遠ざかる対象、動き続ける絵画」

冒険クロストークvol.6 画家 諏訪敦「遠ざかる対象、動き続ける絵画」

昨年10月から、私の冒険研究所に各分野からゲストを招いての対談トークを行なっている。会場は少人数、オンライン配信主体だ。

後日の録画視聴も可能なので、当日の都合が悪くても後から見ることができます。

次回の申し込みはこちらから
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

いま私はかなりこのクロストークに力を入れて取り組んでいる。色々な分野も方と話すことで知る、広い世界に触れると、自分の世界が広がっていく感覚があ

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「勇気ある撤退」は誰のための言葉か

「勇気ある撤退」は誰のための言葉か

冒険家なんて肩書きで活動していると、よく言われる言葉として「勇気ある撤退」というものがある。

かつて、私も北極点無補給単独徒歩というかなり難しい課題に臨み、途中で撤退して帰ってきた時も「素晴らしい、勇気ある撤退ですね」なんて言われることがあった。

そう言われる度に、その返答に困る。大抵は、間抜けな顔をしながら「はぁ」とか「へぇ」と気の抜けた返事でお茶を濁すしかない。真面目に答えようとすれば面倒

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「自己責任」と発することで「自己責任」から逃げる心理

「自己責任」と発することで「自己責任」から逃げる心理

責任とは英語では responsibility。response + abilityである。つまり応答能力。何に対する応答であるか?それは、自らの内から沸き起こる「内なる声」である「意思」への応答だと言える。

責任とは意思への応答能力を示す。

ところが日本には責任に「自己」をくっつけた「自己責任」という言葉がある。あまり疑問を持たずに使われることが多いが、この言葉には大きな矛盾がある。責任の「

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日本人の意識構造

日本人の意識構造

ここ最近は、本ばかり読んでいる。2月下旬から、イベント事や講演などがことごとくキャンセルとなり、仕事がほぼ全て飛んでいる。果たして減収額がいくらになるかは計算したくないが、おかげで時間だけはたっぷりできている。

ルース・ベネディクト著「菊と刀」

太平洋戦争中に敵国である日本人を深く考察したアメリカ人の人類学者による記録。

この本は、アメリカ人の人類学者であるベネディクトが、太平洋戦争中に敵国

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人はなぜ冒険するのか?を考えていく

人はなぜ冒険するのか?を考えていく

noteを始めてみようと思う。

テーマというか、大きな流れとしては「人はなぜ冒険するのか?」ということを、毎日考えを巡らす中で思うこと、気付いたこと、印象に残る本の一節、それらをピックアップしながら、とりあえず思いついたことを書いていきたい。

最近は本をたくさん読むようにしている。

なんとなく、この大きなテーマの回答へのヒントとなりそうな、そんな本だ。

都度の思いついたことを書いていくので

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冒険で生活って、どうやって成り立つんですか?

時々「私も冒険をしたいんですが、話を聞かせてください」という連絡をもらうことがある。

そんな時は、できる限り会うようにしている。

そういう相談に来るのは、概して若い人が多いのだが、どうにも話をしていて今まで「ハマる」感じの人が少ない気がする。

私も若い頃は、いろんな人のところに話を聞きに行った。なので、話を聞きに行く気持ちは分かる。若い頃に自分が何を聞きに行ったかと言うと、北極や冒険の具体的

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冒険家の存在意義とは何か?

冒険家の存在意義とは何か?

冒険の意味?冒険や探検に対して、「意味」「価値」というものを付随させて考えることが多くある。

「そんなことやって何になるの?」

「今さら未知の場所なんてないでしょ。時代遅れ」

冒険や探検をしない人からしてみれば、あえて危険(に見える行為)を望んで行うことが理解できないため、きっとそこには特別な理由があるからに違いない、その理由とは何なんだろう?そこにどんな意味を持っているのだろう?という疑問

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