石川善一:回覧板 17(心残り)
2023/12/21
石川善一53才です。
これは世界一のネクタイ。
これほど素晴らしいものは、
この世に二つと無いと、私は心から思っている。
何十年も袋に入った新品の状態で保管していたが、
ようやく開封した。
母を連れて父から逃げた18才の頃は、お金がない恐怖を感じていた。
*「夢の続きが始まりました【第三十五章 (主役) 】」参照*
(今は父のことを恨んではいない)
*「夢の続きが始まりました【第七十四章 (父) 】」参照*
元々、贅沢を知らない母。
いや…贅沢とはどのような事か忘れていたんだと思う。
「今、自由だから幸せ」
「あんたも健康だから幸せ\(^O^)/」
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全財産19万円で再スタートした厳しい暮らしも、
徐々に緩和された19才の誕生日。
母は私が好きなポテトチップス3袋と、三ツ矢サイダーをくれた。
暮らしは安定し始めたが、ホッとしたのか、
母は体調を崩す事が増えていた。
「仕事も休みがちで収入も少ないから…」
「こんな誕生日プレゼントでごめんね」…と母は言った。
でも私は心から嬉しいと思った。
自分で買うポテトチップスよりも100倍おいしかった。
自分で買う三ツ矢サイダーよりも100倍おいしかった。
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当時、母は、ユニオンチーズという会社で働いていた。
今、私が務める会社に向かう道路沿いにあるその会社。
休みがちな母を見捨てず雇い続けてくれてありがとう…と、いつもと思う。
母は慰謝料が入っても贅沢しなかった。
寒い冬に履くモコモコ靴下には穴が開いていた。
いつでも自分の事を後回しにするのに、
私にはいいモノを食べさせようとしていた。
私は、母の誕生日にモコモコ靴下と手袋を買った。
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22才の誕生日、
母はネクタイをくれた。
「セール品だけど、あんたに似合うかな…と思って (^o^)」
…………… 私はこの日の事をずっと後悔している。
…………… 31年経った今でも心残りなのだ。
その時、私は学童保育の先生だった。
…悪気はなかったのだが… 私は何も考えずこう言ってしまった。
「学童保育にネクタイなんて必要ないよ」
……………「あぁぁ、そ、そうだよね~ごめ~ん… (^_^;) 」
……………「じゃ、ケイ君(いとこ)にでもあげよっかな… (^_^;) 」
ネクタイを袋にしまう母の後ろ姿を見た時… 私はハッとした。
ほんの一瞬で、母がコレを買った時の気持ちを想像した。
きっとセール品のカートにはたくさんのネクタイがあって…
母は一生懸命に選んだに違いない…ヨシカズの為に…って。
これ…喜ぶかな…ってウキウキした気持ちでレジに向かい、
なけなしのお金で…
…体調を崩しながらも懸命に働いたお金で…
…ヨシカズにあげるんだ~\(^O^)/
…そう思っていたに違いない。
なのに俺…
私は母の好意を踏みにじってしまったのだ。
現実なんてどうだってよかったんだ。
学童保育には使わなくたっていいじゃないか。
「ありがとう」って受け取ればよかったんだ。
…そんな事を考えた私だったが…「ごめん」と言えなかった。
母は笑顔のままだった。
もしかして私に気を使わせまいと、無理していたのかもしれない。
TVを見始めた母の後ろ姿。
その丸めた背中が少し寂しげに見えた。
私は目頭があつくなってしまい…
…「やっぱりちょうだい」って…言えなかった。
… この日の後悔を、何十年も引きずり…
これ程の心残りになるなんて…その時の私は知るよしもなかった。
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若い私はこのエピソードを無かった事にしようとした。
その後、ネクタイの話はお互い、一切しなかった。
数日たてば忘れるが、人生の所々で思い出し、反省していた。
そう思ったまま…後悔したまま…心残りのまま、時は流れた。
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次の年の誕生日。
母は5000円をくれた。
「あんたが欲しいモノ、お母さん分からないからコレで買いなさい (^o^) 」
「本当は10000円あげたいんだけど…ごめんね」
!!!!!…あんたが欲しいモノ…!!!!!
母は………"自分で選べば間違いないよね"………
きっとそんな気持ちで5000円をくれたのだろう。
私はまたあのネクタイを思い出した。
いらなかった訳ではないのだ。
私が変な事を言ったせいで気まずくなって…
受け取るタイミングを逃しただけなのに…。
私はそのお金でシャンデリアを買って母に見せた。
「わぁ~素晴らしいね~綺麗だね~」と母は笑った。
5000円では足りなかったが、そんな事は関係ない。
シャンデリアは紛れもなく、母から貰ったプレゼントなのだ。
今も大事に使っている。
次の年の5000円では、ネコのジグソーパズルを買った。
次の年、母は初めて入院した。
一週間ほどの入院だったが、それが年に数回あり、
亡くなるまで、毎年、繰り返した。
母のパート先のユニオンチーズ株式会社は、
母に、「無理しないようにね」と優しく接してくれたという。
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母の入院中、私は【母よ】という曲を作ったが、
照れくさくて、
2003年のライブに母を招待するまで8年も聴かせられなかった。
そのライブのわずか2ヶ月後…母は天国に逝ってしまったのだ。
ダメだよ…まだだ…俺…ネクタイの事あやまってないじゃん。
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遺品の整理をしていた時、
引き出しの奥を探ると…紙袋があった。
中から出てきたのは ……………… あのネクタイだった。
あれ…?…ケイ君(いとこ)にあげたんじゃなかったの…?
私は涙が止まらなくなった。
ずっと…ずっと心残りだったあのネクタイ。
新品のまま。
母はきっと、コレはヨシカズの為に…と思っていたのだろう。
ヨシカズに似合うかな…
母はネクタイをつけた私の姿を見ないまま旅立ってしまったのだ。
私はネクタイと再会した2003年12月から今日まで、
袋に入れた新品のまま、20年、宝物として大事に保管していた。
……………………………………………
今から7ヶ月前、
私は今書いているこのブログの本編…【夢の続きが始まりました】を、
出版社の自伝小説コンクールに送った。
受賞が決まれば東京の会場で授賞式がある。
私はその晴れ舞台であのネクタイをしめようと思いついた。
セール品…安物…違う…宝物なんだ。
自分にとっての最高のステージで、あのネクタイをしめるんだ!!!
だが…………
コンクールに落選してしまい、その夢は叶わなかった。
ごめんね母さん。
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小説コンクール応募を決めた時、
私は【夢の続きが始まりました】を完結させた。
その後はきっと本が出版され、
夢の続きは、きっと…きっと…夢の達成に変化すると信じていたからだ。
今書いている投稿はただのブログ…?
だが読者は今も読みに来てくれている。
完結させた後も【夢の続きが始まりました】は続いているのだ。
私は出版にこだわりすぎていた。
本にならなくても、有名じゃなくても、あなたが読んでくれる。
夢に辿り着かなくたって今の私のステージはココなんだ。
……………………………………………
私は今、このステージで、ネクタイを自慢したいと思った。
ずっと心残りだった思い。
母が買ってくれた世界一の贈り物。
皆に見てもらうんだ!!!!!
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母さん…
あのネクタイ…袋から出して、ビニルから出したよ。
宝物…皆に見てもらったよ。
ずっと「ごめんね」って思っていた。
でもね…もうこれからは「ごめんね」って思わない。
今日、皆に見てもらう事で…宝物って自慢する事で…
俺、ようやくこのネクタイを受け取る事ができたって思うんだ。
母さん…
「ごめんね」って思い続けた日々は…あの日の後悔は…心残りは…
今、「ありがとう」って言葉に上書き(うわがき)したよ。
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出勤する時の道路沿いに見えるユニオンチーズ株式会社。
もう数十年前になりますが、母がお世話になりました。
母を見捨てず、私たちの生活を支えて下さりありがとうございました。
このネクタイは当時、母が御社で働いたお金で買ってくれたモノです。
今、正式に母から受け取る事ができました。
母は生前、ありがたい会社だ…と言っていました。
息子からもお礼を言わせて下さい。
「本当にありがとうございました」
母さん…俺、母さんの代わりにお礼を言っておいたよ。
皆にも会社にも知ってもらったネクタイだからね…
ずっと大事にするよ\(^O^)/
そして…来週…
12月27日の命日には、ネクタイ姿でお祈りするからね。
●母よ
● 【石川善一オリジナル曲BEST】はこちら↓
https://www.youtube.com/@user-gs4zl5wc5y
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