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断片小説

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箸にも棒にもかからんかもしれん短い小説です。
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#箸にも棒にも掛からぬ小説

【断片小説】ラプソディー・インコ・ブルー

【断片小説】ラプソディー・インコ・ブルー

 インターホンを押してしばらくした後に、玄関の扉は開いた。中から顔を覗かせたのは白髪交じりの男性だった。額は広く、豊かではあるがひどく軋んでいそうな髪の毛をオールバックにしていた。眉毛は太めに揃えられ、フチなし眼鏡の奥の、いささか大きすぎる瞳には光はなく、深い暗闇を宿していた。ひどく痩せていて、普段から日に当たっていないのか肌は青白かった。その姿は祐作にくたびれた猛禽類を連想させる。夏の日、アスフ

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【断片小説】八重歯、すきっ歯と笑う

【断片小説】八重歯、すきっ歯と笑う

▽△「先生、この問題、男と女しか出てこないの間違ってない? 今どき性別が2つしか出てこないのナンセンスでしょ」チャイムが鳴ってまもなく、ユウキは教壇ですでに教材を整え帰り支度をしている数学教師の川田に強く詰め寄った。黒縁メガネをかけたその若い教師は彼女の勢いに気圧されたが、それでも彼女の目の前に人差し指を示しながら冷たく言った。
「いいや、間違っているのは君が導き出した答えだ。いいかい。順列・組み

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【断片小説】レタスを食べる女

【断片小説】レタスを食べる女

うめき声が聞こえたので台所に向かう。スーツ姿の彼女は、霜のついたジップロックをプラプラと振りながら言った。
「ねぇ、レタス冷凍したでしょ」
「したよ。だってたしかもう3日くらい放置されてたじゃない?」
「いいえ。このレタスは昨日買ったの。ねぇ、レタスは水分を多く含んでいるんだよ。そんなの解凍したときに本来のシャキシャキ感が失われちゃうじゃんか」
いや、そうじゃない。確かに3日前くらいに一緒に買い物

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【断片小説】Almost Nobody is here! 駆け抜けろ! ワイルドアットハート!

【断片小説】Almost Nobody is here! 駆け抜けろ! ワイルドアットハート!

渋谷駅前、スクランブル交差点。人影もまばらなこの街でひっそりと蠢く二つの影がある。信号は点滅し、灰色のアスファルトを赤と緑に交互に照らしている。
二つの影は駅前の広場を駆け抜ける。今日もハチ公は凛とした顔で帰らない主人の帰りを待っている。
「…だけど兄ちゃん、街は自粛ムードで誰もいないってのにこれじゃフェアじゃないよ。僕らの仲間がこれを知ったらなんて言われるか」弟は眉間に皺をよせて兄に問うた。

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【断片小説】フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

【断片小説】フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン

キッチンの上で、朽ち果てつつある古代の塔のように積み重なった、そのインスタントコーヒーのカスを見るにつけ、私はほとほと嫌になりつつあった。決まって一日に二つか三つずつ、そびえ立っていくインスタントコーヒーの塔を解体しごみ箱に捨てるのは、いまではすっかり私の朝の役目になっている。雨上がりの洗い立ての朝に(とはいってもすでに昼前だが)、彼の家に来てまずやることと言えばこれだ。おはよう、も言っていないの

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【断片小説】ベティ、マイク、それからキャシー

【断片小説】ベティ、マイク、それからキャシー

幾人もの東の寡黙な読書家から、幾人もの西の雄弁な研究者の手にまで渡り歩いてきた、数多の古書が、独特のにおいを路地に放っていた。町は古本市場で賑わっている。ここは日本の真ん中、東京都心から少しはずれ、神保町。
 今日は良く晴れた日だ。空には雲一つなく、太陽は熱心に地球を暖めようと懸命に努力していた。溶けかけの板チョコのような気だるさが、黒々とした照り返しのアスファルトから漂っている。そして時折、針の

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【断片小説】眠れない夜に数えるのがやぎで、大事なお手紙を食べてしまうのがひつじだ

【断片小説】眠れない夜に数えるのがやぎで、大事なお手紙を食べてしまうのがひつじだ

 とても嫌な予感がした。
 気だるい身体をベッドからべりっと引きはがし、すぐにベランダへと向かわせた。立った瞬間身体がぐらりとする。血液がぐるぐる身体を駆け巡っている。そして脳みそは乾いていて水を求めていた。深く眠りすぎたのだ。うまく身体をコントロールできていない。ガラス戸を開けた瞬間、強烈な時化が襲ってきた。急いで洗濯物を取り込む。
 とても酷い気分だった。宇崎の天気予想の通り雨は降った。それも

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