【エッセイ】春、遠からじ。されど僕は憂う。
ベランダにアウトドアチェアを出して、僕は手に持ったマグカップの置き場を思案した。開いたドアの向こう側、部屋の奥からオペラ歌劇が聞こえる。ホフマン物語、第2幕オリンピア。主人公の詩人ホフマンが過去の失恋話を語り、ついには現在の恋にも破れる物語。第2幕オリンピアでは、精巧な自動人形オリンピアにホフマンは恋する。それがロボットだとも気づかずに。ドイツ出身のスロバキア人歌手パトリツィア・ヤネチコヴァのソプラノが、風に膨らんだカーテンをやわく裂いて届く。結局、僕はマグカップを床に置き、