Midori Fujisawa

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ガザ、ジェノサイドと民族浄化の200日、抵抗の200日--生きることが抵抗だ

ガザ地区南端のラファに近い地中海岸で日光浴を楽しむガザの人々の動画に「Palestinians who love life and insist on it」とキャプションが付いていた。「insist on」とは「こだわる」とか「強情を張る」とか「言い張る」とかいった意味だ。「あくまでもそれを欲し、他のなにものでも妥協しない」ぐらいの強い含みがある。この一文を訳しつつ自分の考えを足して投稿した(4月18日)。 「生きること/命を愛し、より生きようとするパレスチナ人」  パ

    • 国際法の彼岸--ガザで起きている事はみなイエメンでも起きた(イエメンの9年)

      3月26日はサウジアラビアがイエメンに侵略を開始した日で、今年その日が来るとサウジとの戦いは10年目に入るという事を知った。サウジとアンサララは一時停戦を延長している最中で、(ほぼ形は整っているらしい)停戦協定はまだ調印されておらず、この点から見ると公式にはいまだに交戦状態にある。 これほど長い戦争であるにもかかわらず伝えられる情報は非常に少なかったと記憶している。イエメンの戦況は、例えばサウジ軍による結婚式への大規模な攻撃(ダブルタップで被害を意図的に増大させた)とか、あ

      • 紅海におけるアンサール・アッラーの戦いの意味---ブハイティ氏のテレビ討論

        イエメンのアンサール・アッラー運動(いわゆるフーシ派)政治局のモハンマド・アル・ブハイティ氏が、アメリカ中東民主主義連合の調整官トム・ハーブ氏とTV討論を行った。アンサララが2014年からこれまでどんな内戦を戦って来たか(現在休戦中)の一端がわかる興味深い内容だったので共有する。 トム・ハーブ:国際航行路がテロリスト・グループから攻撃を受けている。このグループはイエメン内で脚光を浴びようとしており、これはイランが望んでいることでもある。影響を受けた国々が国際航行を守るために

        • 抵抗枢軸とは何か--イランの代理人は実際には代理人ではない

          今回のガザに対するイスラエルの「戦争」ウォッチングでは、これまでのガザ「戦争」時とは比較にならないほど多くの事柄をソーシャルメディアを通して学んでいる。その一つが西アジアの抵抗枢軸(Axis of Resistance)の存在だ。 抵抗枢軸は非国家主体の軍事組織のネットワークで、主としてイランに経済的・軍事的支援を受けている。ガザのカッサム旅団(ハマスの軍事部門)、レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アッラー(フーシ派)、イラクのカタエブ・ヒズボラ(イラク政府傘下にあ

        ガザ、ジェノサイドと民族浄化の200日、抵抗の200日--生きることが抵抗だ

          アンサール・アッラーの司令官サイード・アブドゥル・マリクの演説(2月1日)

          イスラエル軍のガザへの攻撃が思いのほか長くなったので、ずいぶん前のことのように感じる。「フーシ派」として知られるイエメンのアンサール・アッラー運動(アンサララ)の軍隊が、紅海を航行するギャラクシー・リーダー号の甲板にヘリコプターで降り立ち、イエメンの港に船舶を航行させた時に、それまでの事情を知らない大多数の人々が「フーシが海賊行為」と驚いたり憤慨したりしたのは去年(2023年)11月19日のことだ。 アンサララはイスラエル軍のガザ攻撃当初から、イスラエルがジェノサイドを実施

          アンサール・アッラーの司令官サイード・アブドゥル・マリクの演説(2月1日)

          抵抗勢力のロケット弾に込められた意味-先住民と入植者

          ガザ地区からイスラエルに向けて発射されるロケット弾について、いったいどういう意味があるのかとずっとずっと気になっていた。今でこそずいぶん性能が上がったけれど以前はほんとにヘナチョコで、運良くアイアンドームに迎撃されずに何かに命中したとしても破壊力は低く、どんな効果を狙っているのか皆目わからなかった。イスラエル軍の戦車や巨大な軍用ブルドーザーに向かってパレスチナの子どもたちが投げる石礫と同じように見えた。その意味を学んだので共有する。 これまでもガザ地区に住んでいる人のアカウ

          抵抗勢力のロケット弾に込められた意味-先住民と入植者

          英国総選挙2019(3)すべての花を刈ることはできても、春が来るのは止められない

          岩波書店『世界』2020年1月号への寄稿(初稿)を期間限定で公開します。12月初頭発売の同誌が店頭に並んでいるので実はルール違反なんですが、今日の選挙が英国にとってどういう意味をもつかを理解する参考にしていただきたく。校正後の原稿は『世界』で読んでね。 →次号が出版されたので公開解禁になりました。 <校正前の初稿ここから> 二〇一九年労働党マニフェストの発表演説を、コービン党首は「これは希望のマニフェストだ」と誇らしげな宣誓から始め、ネルーダの詩の一節で結んだ。「すべて

          英国総選挙2019(3)すべての花を刈ることはできても、春が来るのは止められない

          英国総選挙2019ーーリセット資本主義ーー階級政治vs文化戦争(2)

          2019年英下院総選挙の争点は「ブレグジット」と「公共投資(社会保障拡充とインフラ整備)」の二つだ。後者は「NHS(国民保健サービス制度)」と言い換えてもいい。この二つはそれぞれ文化戦争と階級政治を象徴するものでもある。 ブレグジットは英国にとり、最も先鋭化した文化戦争ーーEUという連合体の一部であることを望むか否かを決する投票ーーの結果だ。EU懐疑派の政治的スペクトラムは極右から極左まで多岐にわたり、階級は貴族から最下層までの幅がある。EUの規制を嫌い、完全な自由貿易を指

          英国総選挙2019ーーリセット資本主義ーー階級政治vs文化戦争(2)

          英国総選挙2019ーー国民の物語をどう描くかーー階級政治vs文化戦争(1)

          2019年英下院総選挙の争点は何か。国内外(特に国外)のマスメディアが、今選挙の争点と想定しているのはブレグジットだろう。ボリス・ジョンソン首相はもちろんそれで戦うつもりだ。自分が取り付けたEU離脱合意を議会が承認しないので(*1 文末参照)やむなく離脱期限を延長し、期日前選挙で議会過半数を得てブレグジットを完遂する、と有権者に売り込む戦略だ。スローガンは「ブレグジットを片付けちまおう!」だ。 公式野党労働党の支持率は低迷している。コービン党首は「離脱か残留か」の態度を明ら

          英国総選挙2019ーー国民の物語をどう描くかーー階級政治vs文化戦争(1)

          労働党のブレグジット---労組vs党員

          2019年労働党党大会3日目(9月23日月曜日)ーー党のブレグジット戦略(近々あると想定されている総選挙における方針)が今日決まる。これは同時に、コービンが2015年党首選に立候補したとき以来の誓約ーー党を党員の手に委ねるーーを守れるか否かも決する。 ブレグジット戦略をめぐって、労働党におけるコービンの二つのパワーセンターである「労組」と「党員」が割れているのだ。労組は、コービンが打ち出したブレグジット戦略を支持しており(*1 文末を参照のこと)、党員の多くは(たとえコービ

          労働党のブレグジット---労組vs党員

          労働党副党首「トム・ワトソンの失脚」未遂

          労働党の年次党大会開始を翌日に控えた金曜(9月20日)夜、ウェストミンスター担当のジャーナリストたちが一斉に「労働党で内戦勃発」のニュースをツイートした。 党の最高意志決定機関である全国執行委員会(NEC)で、副党首のポスト廃止が提議され、賛成17票、反対10票で否決されたというのだ(この動議の可決には出席者の2/3の賛同が必要)。可決まで1票差。この提議は翌日午前中のNECで再度投票され、可決した場合は、全国の代表が集まる党大会で投票にかけられることも決まっていた。動議は

          労働党副党首「トム・ワトソンの失脚」未遂

          コービンの「どっちつかず」は悪いことか(「強いリーダー」とは何か)

          コービン労働党党首の呼びかけで野党党首の会合がもたれて以降の展開を記録しておこうと何本か書きかけているのだけど、いつまとまるかわからず、今日は別のことを書く。テクニカルな話になる。 ブレグジットをめぐる議論は下院に議席をもつほぼ全部の政党を分裂させている。全議員が1つになっているように見えるのはスコットランド国民党(SNP)ぐらいで、他の党には何かしら意見の対立があるようだ。特に立場の違いが大きいのは最も多くの議員を抱える保守党と労働党だ。 EU国民投票は、数十年来続く保

          コービンの「どっちつかず」は悪いことか(「強いリーダー」とは何か)

          ボリス・ジョンソンという生き物

          *日本の知人に一昨日送ったメールをポストします。いま時間がないのでママで。あとで修正・追加する可能性が非常に高いので、また読んでね。 (本文ここから) 今のイギリスの政治状況を読むのは、国外にいてはほとんど不可能かもしれません。国内にいてもわからないぐらいなので。ボリス・ジョンソンは、ナイジェル・ファラージュと同様に、メディア(特にBBC)が作ったオバケです。意識的にか、無意識にかはわかりませんが、政治番組のイロモノ枠で重用しているうちに国の顔になってしまった。 ジョン

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          終末感ただようブレグジットUK

          ーーお客様へのお知らせーー 「終末もの小説は、時事問題の棚に移しました」 こう書かれた貼り紙の写真がツイッターに流れて来た。イングランド南西部コーンウォールにある書店のショーウィンドーに貼り出されたものだという。ツイートしたのはBBC地方局のジャーナリストで、ブレグジットで混迷を深める(特に「合意なき離脱(ノー・ディール・ブレグジット)」が現実味をおびてきた今の)英国を、これほど適確に表した一文もないだろう。もはやパンチの効いた風刺ですらない。現実だ。(*文末) 議会休

          終末感ただようブレグジットUK

          EU残留至上主義者は、100%以外は全部NO

          先週水曜日(2019年8月21日)、コービン労働党党首は2通目の書簡を野党党首(と野党下院リーダー)および、与党保守党の反ジョンソン議員数名宛に送った。これは、合意なき離脱阻止のための結集を呼びかけた14日付け書簡(詳細は前回のnote)に続くもので、夏の最後のバンクホリデイ(公休日)明けの火曜日(8月27日)に、9月3日から始まる秋の議会での戦略を合議しようと呼びかけるものだ。 1通目の書簡が送られたあと、議会第四党の自民党と、労働党・保守党を離党した議員団(チェンジのた

          EU残留至上主義者は、100%以外は全部NO

          コービン党首の「合意なきEU離脱阻止戦略」書簡と反応

          4月に岩波書店から出版された拙共訳書『候補者ジェレミー・コービン』を書評してくださったジャーナリストの小林恭子さんによるインタビュー記事で、「労働党ウォッチャー」の呼称をいただいたので、調子に乗って観察記録をつけることにした。(記事はこれ「来月頭にも内閣不信任決議案提出か、次期首相はコービン氏?労働党ウォッチャーに聞く」)以下は、状況を説明するため、8月15日に複数名宛に送った電子メールの文面。 8月14日夜、コービン労働党党首が下院の各野党党首(及び下院でのリーダー)と、

          コービン党首の「合意なきEU離脱阻止戦略」書簡と反応