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抵抗枢軸とは何か--イランの代理人は実際には代理人ではない

今回のガザに対するイスラエルの「戦争」ウォッチングでは、これまでのガザ「戦争」時とは比較にならないほど多くの事柄をソーシャルメディアを通して学んでいる。その一つが西アジアの抵抗枢軸(Axis of Resistance)の存在だ。

抵抗枢軸は非国家主体の軍事組織のネットワークで、主としてイランに経済的・軍事的支援を受けている。ガザのカッサム旅団(ハマスの軍事部門)、レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アッラー(フーシ派)、イラクのカタエブ・ヒズボラ(イラク政府傘下にある人民動員軍の一部)などが含まれ、実際には北アフリカまで広がっているらしいが今のところ自分では確認できていない。グループのほとんどはシーア派だが、スンニ派のパレスチナの軍事組織が混じっていることからわかるように、宗派のみでつながっているわけではない。イラクのカタエブ・ヒズボラが参加している人民動員軍(PMF/PMU)にはスンニもクリスチャンもヤジディもいる。ソーシャルメディア投稿多読の過程で、シーア対スンニという対立の構図は、ムスリムを弱体化させるために外から持ち込まれたものだという意見を何度も見た。実際、抵抗枢軸を応援するソーシャルメディアのネットワークにはシーア対スンニという色分けは全くない。

抵抗枢軸について最も興味深いことは、西側の政治やメディアで広く信じられ、定義づけられているのとは裏腹に、彼らがイランの手下ではないことだ。それぞれがそれぞれの属する社会の利益を代表し、独立した方針の元に決断し行動している。共通するのは彼らがみなその土地の先住民の子孫であり、自国外で活動する武装勢力(例えばアルカイダやISIS)のように外から来た勢力ではないことだ。先住民の子孫が武装し、それぞれの土地への侵入者に抵抗している。なんと表現していいのかよくわからないが、成り立ちはきわめて土着的であり、かつ、相互の結びつき方はとても新しい。

カッサム旅団(ハマス)及びクッズ旅団(パレスチナ・イスラム聖戦)を中心とするガザの抵抗勢力は、10月7日の越境攻撃のタイミングをガザの外の他の誰にも知らせずに決定し実行したと言われている。同時に、もし自分たちが戦いを開始すれば、地域の抵抗枢軸がそれぞれに適した方法やタイミングで加勢してくれることを当てにすることができたとも言われている。そしてそれは起こった。ヒズボラは10月8日から国境を挟んで北イスラエルへの攻撃を開始した。イラク及びシリアの抵抗勢力の参加は、米国がイスラエルに対しガザ地上侵攻の許可を与えた直後に始まった。アンサール・アッラーの参加のタイミングは覚えていないが、その中間ぐらいだったと思う。当初は海上封鎖ではなくイスラエルをミサイルやドローンで攻撃していた。

方法はそれぞれ異なるが目的は一つで、ガザのジェノサイドを止めることだ。11月末にあった一時停戦の1週間、抵抗枢軸の活動も止まったことが、今回の彼らの攻撃の目的の中枢がそこにあることをよく表している。現在、米国はこれら抵抗枢軸の攻撃を止めるためとして、英軍と共にイエメンを空爆し、単独でイラクとシリアの抵抗勢力を攻撃している。イスラエルのガザ・ジェノサイドを止めれば彼らの活動は止まるにもかかわらず。

タイトルの図版は @AryJeay 氏の投稿から借りしました。

抵抗枢軸とは何かを、その起源や特色を合わせて解説する『TIME』2024年2月7日号に掲載されたアマル・サード氏の原稿を全訳し共有する。サード氏はカーディフ大学で政治と国際関係の講師を務めており、特にヒズボラと抵抗枢軸の政治研究を専門としている。

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イランの代理人は実際には代理人ではない
Iran’s Proxies Aren’t Really Proxies

アマル・サード 2024年2月7日

金曜日[2024年2月2日]に実施されたイラクとシリアの85カ所を標的とする米国の空爆と、土曜日[2024年2月3日]にあったイエメンのフーシ派拠点に対する空爆は、ヨルダンで米軍兵士3名を殺害した先月末の無人機攻撃への「我々の対応の終わりではなく始まり」を示したと、国家安全保障問題担当補佐官のジェイク・サリバンは日曜日にNBCに語った。バイデン政権の高官はイラン領土内への空爆の可能性も除外しなかった。
U.S. airstrikes against 85 targets in Iraq and Syria on Friday and Houthi positions in Yemen on Saturday marked the “beginning, not the end of our response” to a drone attack late last month that killed three American troops in Jordan, national security advisor Jake Sullivan told NBC on Sunday. The top Biden Administration official also refused to rule out airstrikes on Iranian soil.

しかし、この報復攻撃は失敗する運命にある。とりわけ、バイデン政権が以下に述べる明白な事実を把握していないようであるために。抵抗枢軸を構成するさまざまな、そのほとんどがシーア派の武装グループは、イランの絶対命令下の気まぐれで活動するような単なるイランの代理ではない。イランがこれらのグループに与える支援(通常は武器やそれをどう使うかについてのアドバイス)は、スポンサーが代理人に対して通常持つような権力や統制には結びついていないからだ。イランのアミール・サイード・イラヴァニ国連大使は最近NBCに以下のように説明した。イランは同国と同盟するグループに武器を供与し、資金を提供しているが(フーシ派を除く)、「私たちは彼らに指示を出しているわけではありません。命令しているわけでもありません。私たちは互いに共通する相談をしています」。イラヴァニ氏は、イランとこれらの行為者との関係を「防衛協定」と表現し、NATOに例えた。
Yet the retaliatory strikes are destined to fail, not least because the Biden Administration appears to not grasp an obvious fact: the various and mostly Shia militant groups that make up the Axis of Resistance are far from simply being Iranian proxies that operate at the whim of Iran’s diktat. The support that Iran gives these groups—typically weapons, and advice on how to use them—doesn’t translate into the kind of power and control sponsors typically have over their proxies. Iran’s ambassador to the U.N., Amir Saied Iravani, made that case recently to NBC—saying that while Iran arms and funds its allies (except the Houthis), “We are not directing them. We are not commanding them. We have a common consultation with each other.” Iravani described Iran’s relationship with these actors as a “defense pact,” likening it to NATO.

ほとんどの防衛同盟と同様、枢軸の各メンバーは大幅な自治権を維持している。枢軸で最も強力な非国家主体であるヒズボラを例に挙げてみよう。イスラム革命防衛隊の故ホセイン・ハメダニ司令官は、回想録の中で、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスラッラーは、2013年のシリア内戦への介入後、「シリアにおける抵抗枢軸の全政策を担当していた」と書いている。ハマスはスンニ派のグループで、常にイランからの自治を維持しており、ある時点では、同盟に支援されているシリアのアサド政権との対立を理由に枢軸から離反したことさえあった。 (ハマスは10月7日の攻撃をイランの同意を得ることも知らせることもなく実行したと示唆する報道もある。) 一方、フーシ派は2014年にイエメンの首都サナアを占領した時、当時のイランの助言を無視して早い段階から独立性を披露した。 一方、人民動員軍(PMF)のうちで最も強力なグループであるカタエブ・ヒズボラは最近、イラク政府からの圧力で、イラク駐留米軍に対する軍事作戦を一時停止した。PMFの他のメンバーがあいかわらずイラクとシリアの米軍を標的にし続けているという事実は、たとえ同じ組織内のグループであっても、これらの主体が独立した意思決定を行っていることを示している。
As with most defensive alliances, each Axis member maintains a large margin of autonomy. Take, for example, Hezbollah, the most powerful non-state actor in the Axis. The late Islamic Revolutionary Guard Corps general, Hossein Hamedani, wrote in his memoirs that Hezbollah leader Hassan Nasrallah was “in charge of all the policies of the resistance axis in Syria” following its intervention in the country’s civil war in 2013. Hamas, a Sunni group, has always maintained its autonomy from Iran, at one point even defecting from the Axis over its opposition to the Assad regime in Syria, which was backed by the alliance. (Some reports suggest that Hamas carried out the Oct. 7 attack without Iran’s consent or knowledge.) For their part, the Houthis showcased their independence early on, when they took over the Yemeni capital of Sanaa in 2014, disregarding Iran’s advice at the time. Meanwhile, Kataeb Hezbollah, the Popular Mobilization Forces’s (PMF) most powerful group, recently suspended its military operations against U.S. forces in Iraq because of pressure from the Iraqi government. The fact that other PMF groups have continued targeting U.S. forces in Iraq and Syria demonstrates the independent decision-making of these actors, even those within the same organization.

ハマス、ヒズボラ、フーシ派、あるいは枢軸グループのその他のどれであれ、それぞれが準国家としての重要な統治機能や、それぞれの地域社会や国に特有の役割を果たしている。他の大衆社会運動と同様、これらのハイブリッド主体はそれぞれの国民を犠牲にしてイランの好みに応えることはできない。たまたま起きていることは、これらのグループの正当性の主な源泉が自国内での武装抵抗の役割に由来しており、その目標が、常にではないものの、しばしばイランの戦略的利益と重なることだ。
Whether it’s Hamas, Hezbollah, the Houthis, or other Axis groups, each also perform key governance functions as quasi-states and are specific to their local communities and countries. As with other popular social movements, these hybrid actors cannot cater to Iran’s preferences at the expense of their publics. It just so happens that the main source of these groups’ legitimacy stems from their armed resistance roles within their own countries—and those goals often overlap, though not always, with Iran’s strategic interests.

枢軸内の各メンバーの起源は、それぞれの国家に残された安全保障の空白に遡ることができる。ガザでは、1993年のオスロ和平協定にパレスチナ解放機構が参加した(そしてパレスチナ国家の実現に失敗した)ことに対する反応として、ハマスのアル・カッサム旅団が結成された。レバノンでは、繰り返し起きたイスラエルの侵攻に対してレバノン軍が歴史的に無力だったことにより、1982年にヒズボラが生まれた。イエメンでは、2013年から2014年にかけて起きたアラブの春の後の移行期に残された権力の空白をフーシ派が埋めた。イラクのPMFは、 2014年にイラク軍が主要都市モスルとファルージャをイスラム国(ISIS)に奪われたことに応じて台頭した。
The origins of the various members within the Axis can be traced back to security voids left by their respective states. In Gaza, Hamas’s Al-Qassam Brigades arose as a response to the Palestine Liberation Organization’s participation in the Oslo peace accords in 1993 that failed to deliver a Palestinian state. The Lebanese Armed Forces were historically powerless against multiple Israeli invasions, which gave birth to Hezbollah in 1982. In Yemen, the Houthis filled the power vacuum left during the post-Arab Spring transitional phase that lasted from 2013 to 2014. Iraq’s PMF emerged in response to the Iraqi Armed Forces’s loss of the key cities of Mosul and Fallujah to the Islamic State in 2014.

したがって、米国にしろイスラエルにしろ、または他の誰にしろ、これらのグループとその領土を標的にすると、彼らのレーゾンデートル(存在意義)が復活し、抵抗の資格が強化される。この傾向は最近も見られ、パレスチナ政策・調査研究センターによる12月の世論調査によると、ガザではハマスの支持率が22%から43%に倍増した。イエメンでは、サウジアラビアとUAEの支援を受けた多数の民兵組織の離反によって、フーシ派の正当性の高まりが実証された。サウジとUAEはフーシ派に対抗してイエメン内戦に加わったが、イスラエルへの船舶の航行阻止を目的とした紅海での攻撃を理由に、かつて同二国が支援した民兵組織は現在フーシ派側についている。ヒズボラも、10月8日にイスラエルに対して、ガザへの「連帯戦線」を開始して以来、同様の国民の支持の急増を経験し、以前はシーア派組織に反対していたレバノンの多くのスンニ派さえ結集した。これらと同様に、金曜日の米国によるイラク攻撃で数名の隊員が死亡したことを受けて、イラク政府が「殉教者たち」に対する3日間の服喪期間を発表したことで、PMFグループの正当性は大きく高まった。
So when the U.S.,Israel, or anyone else targets these groups and their territories, this revives their raison d’etre and shores up their resistance credentials. This was most recently seen in Gaza by a doubling of support from 22% to 43% for Hamas, according to a December poll by the Palestinian Center for Policy and Survey Research. In Yemen, the Houthis’s elevated legitimacy was demonstrated by the defection of a number of militias backed by Saudi Arabia and the UAE. Both countries entered Yemen’s civil war against the Houthis, but militias they backed have now sided with the Houthis on account of their attacks in the Red Sea aimed at blocking ships from sailing to Israel. Hezbollah has also experienced a similar surge in popular support since it opened a “solidarity front” with Gaza against Israel on Oct. 8, rallying even many Sunnis who had previously opposed the Lebanese Shia group. Likewise, PMF groups received a major boost of legitimacy in the wake of the U.S. strikes on Iraq on Friday that killed several of their forces, with the Iraqi government announcing a three-day mourning period for the “martyrs.”

枢軸が消えてなくなることも望めない。ヒズボラとPMFはいずれもそれぞれの議会や政府において国家の代表の座を享受しており、その武装部隊には国家の法的保護が認められている。ハマスは、EUによって公正とみなされた2006年の選挙に勝利したあと政府を樹立したが、2007年にパレスチナのマフムード・アッバス大統領により追放された。その後ハマスはガザ地区の統治権を掌握し、それ以来ガザ地区を管理する事実上の政府としての地位を確立した。一方、イエメンのフーシ派は、国の大部分を統治する事実上の政府であるだけでなく、2014年末にイエメン軍を掌握してからは事実上の国家となった。これと言って他に替わる権力の存在しないこれらの主体に対して軍事作戦を行うことは、そもそも彼らを生み出した政治上の、また、安全保障上の状況を再現するだけである。
Nor can the Axis be wished away. Both Hezbollah and the PMF enjoy state representation in their respective parliaments and governments, and their armed wings are granted legal cover by the state. Hamas, after winning elections in 2006 deemed fair by the E.U., formed a government that was subsequently ousted by Palestinian President Mahmoud Abbas in 2007. Hamas then seized control of Gaza and established itself as the de facto government that has administered the Strip since. Meanwhile, Yemen’s Houthis aren’t just the de facto government that rule over the majority of the country, but they have also become the de facto state after taking control of the Yemeni armed forces in late 2014. Given the absence of viable state alternatives to these actors, waging military campaigns against them only recreates the political and security conditions that gave rise to them in the first place.

パレスチナの大義は長い間、枢軸の各メンバーにとって中心的なイデオロギーの柱であるだけでなく、中核的なグループと国益を構成してきた。ヒズボラは、ガザでの停戦はイスラエルによるレバノンへの戦争拡大を阻止するので、レバノンの国益にかなうと定義している。米国がイスラエルのガザ戦争を支持していることが、フーシ派とPMFがイエメンとイラクの国益をパレスチナ人と結びつけて認識するよう駆り立てている。 PMFグループはこの紛争前から米軍基地や車列を攻撃していたが、ガザでの戦争により、イラクとシリアから米軍を追放する理由にさらなる弾みがついた。一方、フーシ派は、この紛争への参加の結果、サウジアラビアおよび米国との交渉において、イエメンの将来に関して大幅に強化された交渉上の立場を獲得する用意ができている。
The Palestinian cause has long constituted not just a central ideological pillar, but a core group and national interest, for each of the Axis members. Hezbollah has defined a ceasefire in Gaza as serving Lebanon’s national interest by preventing Israel from expanding its war into Lebanon. The U.S.’s backing of Israel’s war on Gaza has also prompted the Houthis and PMF to identify Yemen and Iraq’s national interests with Palestinians. Although PMF groups were attacking U.S. bases and convoys before this conflict, the war in Gaza has given them added impetus to expel U.S. troops from Iraq and Syria. For their part, the Houthis are poised to gain a significantly strengthened negotiating position concerning Yemen’s future in their talks with Saudi Arabia and the U.S. as a result of their participation in this conflict.

これら地域に深く根を張る準国家主体を単なるイランの手先であると主張することは、彼らに対する米国の悲惨な戦略の土台となる。米国がこの戦争の拡大を本当に阻止したいのであれば、米国は、イランに「代理」の抑制を要求するのではなく、イスラエルの抑制から始めるべきだ。
Claiming that these deeply rooted, quasi-state actors are simply Iranian stooges sets the groundwork for a disastrous U.S. strategy in response to them. Instead of demanding that Iran rein in its “proxies,” the U.S. should start by reining in Israel, if it is indeed keen on preventing a widening of this war.

以上

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