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コービン党首の「合意なきEU離脱阻止戦略」書簡と反応

4月に岩波書店から出版された拙共訳書『候補者ジェレミー・コービン』を書評してくださったジャーナリストの小林恭子さんによるインタビュー記事で、「労働党ウォッチャー」の呼称をいただいたので、調子に乗って観察記録をつけることにした。(記事はこれ「来月頭にも内閣不信任決議案提出か、次期首相はコービン氏?労働党ウォッチャーに聞く」)以下は、状況を説明するため、8月15日に複数名宛に送った電子メールの文面。

8月14日夜、コービン労働党党首が下院の各野党党首(及び下院でのリーダー)と、保守党の反ジョンソン議員3人及び保守党離党無所属議員1人宛に書簡を送った。この書簡でコービンは、ボリス・ジョンソン首相が突き進む「合意なきEU離脱」を止めるために、9月3日に始まる議会で以下を提案。

①過半数が得られる見通しが立ち次第、内閣不信任議案を提出。*
②不信任が可決したら、コービンを首相とする暫定内閣樹立を議会にはかる。議会過半数の信任で成立。**
③暫定労働党内閣は、EUから離脱期限延長を取り付け、
④解散総選挙を議会にはかる。議会の3分の2の賛同で可決。
⑤この選挙で労働党は、同党がEUと再交渉する離脱合意の賛否を問う国民投票実施を公約。この国民投票には「残留」の選択肢を含む。***

* 内閣不信任、首相不信任は、議員なら誰でも提議できるが、法的な拘束力を持つのは公式野党党首が提議した場合のみ。
** 現在、保守党は超少数与党で、閣外協力のDUPを含めても過半数を1名超えるのみ。
*** コービンのポジションは、国民投票の結果を尊重し離脱は実施、ただし英国経済に最もダメージの小さい方法で、というもの。2016年国民投票実施後の過去3年間に、他党および党首のほとんどは何度か立場を替えており、この中でコービンは、微調整はあったものの(離脱合意の賛否を問う国民投票の実施など)同じポジションをキープしている。

上記書簡に対し、

①議会第三党のSNPは前向きに検討、交渉に応ずると回答。
②緑の党、プライドカムリ(ウェールズの地域政党)は前向きに検討、ただし、総選挙より国民投票を先行させるべきとの立場。*
③他の議員4名は前向きに検討、交渉に応ずると回答。うち1名は内閣不信任はさておき、コービンを首班とする暫定政権には賛同しかねると回答。
④議会第四党の自民党は速攻で却下。**
⑤保守・労働を離党した議員による議員団はコービンの提案を却下。***

* 再国民投票の実施については、すでに何度か議会で審議・投票されており、労働党は各投票に党議拘束をかけにもかかわらず過半数を得られていない。したがって、現況の議会では可決の見込みはなく、可決させるためには総選挙が必要。
** 自民党は党首が交替したばかりで、新党首は就任第一日からコービンが党首のうちは労働党とは組まないと宣言、この立場を維持している。
*** 2月に労働党・保守党を離党し、紆余曲折の末に新党チェンジUK(この党名に、市民運動グループの大手「チェンジ」からクレームがあり、後に名前を「チェンジのための無所属議員団」に変更)を結成した議員は11名。セレブ候補などを揃えて挑戦した欧州議会戦に惨敗し、分裂。うち2名(元労働党1、元保守党1)が相次いで自民党に入党、5名は同議員団に残留、残りは個別の無所属議員に。

これらの動きによって、「合意なき離脱」を止めるための、きわめて合理的な提案に反対しているのは、最も強く「残留」を求める自民党とチェンジ無所属議員団という形に。

続きはまた。


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