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終末感ただようブレグジットUK

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「終末もの小説は、時事問題の棚に移しました」

こう書かれた貼り紙の写真がツイッターに流れて来た。イングランド南西部コーンウォールにある書店のショーウィンドーに貼り出されたものだという。ツイートしたのはBBC地方局のジャーナリストで、ブレグジットで混迷を深める(特に「合意なき離脱(ノー・ディール・ブレグジット)」が現実味をおびてきた今の)英国を、これほど適確に表した一文もないだろう。もはやパンチの効いた風刺ですらない。現実だ。(*文末)

議会休会中の8月28日、ボリス・ジョンソン首相は、10月14日に新議会の開始を告げる施政方針演説をすると公表した。

慣例として、この演説は女王が上院で代読し(そのため「女王の演説」と呼ばれる)、それを上下両院の議員が承る形をとるため、日程の決定には女王の了承が必要である。慣例として、この日程は下院(庶民院)院内総務が首相の代理として女王に進言する。慣例として、女王の演説前には一定の準備期間が取られ、この間、議会は停止(Prorogation)される。停止期間は、通常4、5日、最大2週間程度である。女王は政治的に無色透明であることが憲法に定められているため、慣例として、女王が首相の進言を拒むことはない。これらはすべて議会のプロトコルである。

よく知られているように、英国には明文化された憲法がない。「慣例として」と繰り返したように、全て、これまでと同様に「紳士協定」が守られることが前提になっている。

施政方針演説は新議会の開会を告げるもので、年に1度、通常は春に行われる。テリーザ・メイ前首相は、ブレグジットのために会期1年では足りないほど数多くの法制化が必要であるとして、2017年総選挙後の6月に「女王の演説」を行って以来、一議会を継続して来た(総選挙で議会過半数を失ったため、施政方針が否決される可能性を考慮したとも言われている)。そのため前回の演説から2年以上たっている。議会は(特に2018年末からは)ブレグジットでいっぱいいっぱいで、議論と法制化の必要な諸問題が置き去りにされてきた。新しい施政方針が必要である、というジョンソンの主張はその通りだ。

でもなぜ今?

ジョンソンは、新政府として新たな施政方針を発表し、大胆かつ意欲的な政策を実現していきたいとしている。素晴しい。

問題は、誰もそれを信じていないことだ。

ジョンソンは下院院内総務のジェイコブ・リース=モグ(保守党の強硬離脱派ERGのリーダー)を、休暇でバルモラル城(スコットランド)にいた女王のもとに派遣、同日中に女王から、首相の進言に基づく「議会停止勅令」が発布された。勅令によれば、議会停止は9月9日月曜よりあと、12日木曜より前に始まるとされる。つまり、10月14日月曜の「女王の演説」まで1ヵ月以上も議会が停止されることになるのだ。

もともと9月13日から3週間、議会は休会(Recess)の予定だった。自民党、労働党、保守党の党大会が順繰りに開催されるためである。どうせ休会になるのだから議会停止(Prorogation)をそのタイミングから始めても支障はない、議会停止のために失われるのは4、5日間に過ぎない、というのが政府の言い分である。ほんとうにそうだろうか。

休会と議会停止はどう違うのか。

休会は、いわば学年の途中の休みのようなもので、休会前の審議は休会後に継続するし、急な審議や採決が必要なら議員を議会に呼び戻すこともできる。議会は休みでも、各種委員会などは開かれ、担当閣僚が呼び出されて委員に絞られることもある。議会で可決されれば休会そのもののキャンセルも可能だ。休会をどう使うかを議員がコントロールできる。

これに対し、議会停止はその議会の終了を意味する。いわば学年末休みか、小学校から中学校に移る前の春休みのようなものだ。それまで審議されていた法案は、与野党の合意がない限り全てキャンセルになり、議員はあいかわらず議員のままだが、一切の議会行事が停止する。議員はコントロールできない。

10月末にEU離脱期限が迫る今、9月3日火曜に始まる議会では「合意なき離脱」を阻止しようとする野党に、与党保守党の穏健派が加わり、ジョンソン政権との攻防が行われると考えられていた。議会停止によってこれらがごく短期間に押し込められ、議会の主権が著しく損なわれることになる。

ジョンソンは議会のプロトコルにしたがって議会停止を決定した。しかし、それが意図するものは、表向きの理由とは異なるのは誰の目にも明らかだ。これを見事な采配と取るか、議会への侮辱と取るかは立場によって変わってくるだろうが、女王に議会閉会の理由を正しく伝えなかった、政治とは無関係でなければならない女王を政治問題のコマとして使ったとして批判もされてもしかたがない。

ジョンソンのこの動きは、この前日、8月27日に行われた野党党首ミーティングでの決定が関わっていると思われる。

コービン労働党党首が主宰したこのミーティングで、野党党首たちは、内閣不信任に続く一連の方法による合意なき離脱阻止は最後の手段とし、それ以前に、議会での法制化によって止める方向で合意した(議会の承認のないノー・ディールによる離脱を不可能にし、離脱期限延長を求めるよう首相に要求するこの方法は、3月にテリーザ・メイ前首相に対して用いられたもので、メイ首相はこれを受けて離脱期限の延長をEUに申し入れることになった)。このミーティングでは同時に、決定には至らなかったが、議会の時間が不十分であるとして、党大会による休会のキャンセルも一定の合意を得ていた。

とりあえずここまで、議会停止決定以降の駆け引き(どっさりある)はのちほど(書くかも)。


* 2019年8月18日、合意なき離脱(ノー・ディール・ブレグジット)によって何が起きるかを想定し、それに備える汎省庁の戦略を記した文書が『サンデイタイムス』紙にリークした。「オペレーション・イエローハンマー(鳥の名前)」のコードネームで知られるこの戦略は、メイ首相の合意案が議会で可決しないまま「うっかり」ノーディールで離脱した場合に備え、当初の離脱期限(2019年3月29日午前11時)に向けて構築され、数千人の職員が各省庁から出向して任にあたっていた。しかし離脱期限が延長されたので解散、職員は元の職場に戻ったとされていた。このリークにより、それが再稼働していることがわかった。ジョンソン政権はノーディール離脱を想定している。

この頃、ジョンソン首相は党首選中の公約である「10月末にEU離脱」を繰り返す一方で、期限までに、メイ首相より良いディール(端的には、北アイルランドとアイルランド共和国の間にフィジカルな国境を設けることを避けるためのバックストップ((保険))を外したディール)をEUから得るとしていた。リークによってノーディール離脱による混乱の詳細が露見すると、閣僚たちは「現政権に悪意を持つ前閣僚による恐怖作戦」「最悪の場合の想定」あるいは「情報が古い」と一蹴したが、前財相フィリップ・ハモンドなどが「最悪の事態ではなく現実的な想定」であり、この「文書は8月初旬(ジョンソン政権樹立後)のもの」と反論。(『タイムス』紙はペイフォールがあるので、代わりに『ガーディアン』紙の報道


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