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The Beatles 全曲解説 Vol.141 〜I Am The Walrus

『Magical Mystery Tour』6曲目。
ジョンの作品で、リードボーカルもジョンが務めます。

レノンワールドは海を越え、民謡すらも巻き込んだ!生まれるべくして生まれた音のファンタジー “I Am The Walrus”

映画では中盤、野原でメンバーが様子のおかしいファッションや動物のお面を身に纏って演奏する場面で使用されています。
バックでは女性警官やてるてる坊主のような格好をしたエキストラたちが、これまた様子のおかしい挙動を見せます。

アルバム中、映画本編で登場する楽曲はこの曲が最後ですが、これが作中唯一のジョンによる楽曲でもあります。
それが作中最もインパクトを持つ傑作になるわけですから、67年のジョンと言えど、そのパワーは侮れません。

この曲、とにかくナンセンスで、意味のよく分からない言葉が羅列されているだけの歌詞に見えますが、実は、立派なジョンなりの文学センスに基づいて編み上げられた歌詞なのです。

モチーフになっているのは、 “Lucy In The Sky With Diamonds” でも取り上げられたルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」
幼少期のジョンに強い影響を与えた作品です。
この “I Am The Walrus” は、その中でも「セイウチと大工」という章がインスピレーションになったと言われています。

能天気なセイウチと大工が、牡蠣たちを口車に乗せて騙したあと、泣きながらペロリと平らげてしまうという救いのないお話です。
勝手なイメージですが、ジョンが好みそうなストーリーですよね(笑)

サビに登場する「Eggman」も、同作に登場するキャラクター。
日本版では表紙を飾っていることも多いですね。

さて、土台となっているのはこれらファンタジーの世界ですが、それらを簡単に焼き直ししないのが、我らがジョン・レノン。
それらを自己流に解釈して、エロ・グロすらも取り込んだナンセンス極まりない世界を構築しています。

例えば、有名なサビの「Goo Goo G’Joob」を始め、「Crabalocker」「Semolina pilchards」など、和訳はおろか、英英辞典でも調べられない単語がしばしば登場します。
これらは全てジョンによる造語で、こういった造語作りは、10代の頃からのジョンのお得意技だったのです。

デビュー以前から片鱗を見せていたジョンの言葉遊びのセンスが、「ナンセンス」に結実したのが、この曲の歌詞の世界観であると言えるでしょう。

さらにこの曲には、ジョンが受けた特別なインスピレーションを示す部分がもう一つあります。
それは、サイケな音が飛び交うエンディング。

わざわざプロのコーラス隊を呼んで奇声を上げさせたり、ラジオで流れてきた「リア王」のセリフを取り込んだりと、聴きどころ満載のエンディング。

ですが、ここで注目したいのはリズムです。
この部分はなんと、宮城県民謡である「斎太郎節(さいたらぶし)」をモチーフにしているのだそうです。

聴いてみると、確かに「エンヤートット」というリズムにピッタリ合っているのが分かります。

ジョンはこの民謡と、1966年の来日時に出会っています。
メンバー4人の中でも、特に日本文化への関心が高かったジョンは、ホテルで民謡のレコードを聴き込んでいたのだそう。
その中でもお気に入りだったのが、この「斎太郎節」だったのだそうです。


この時期のジョンの作品は放送禁止になるものも多く、とかくドラッグとの関連性で語られがちです。
ですが、こういったポイントを一つ一つ押さえていくと、決してドラッグが全ての原動力となっていた訳ではないことが分かります。
特にこの曲は正真正銘、ジョンの血と肉となっているものが材料となって、生まれるべくして生まれた作品であると言えます。

ジョンはこの曲について、「100年経っても色褪せない曲」と言い残しています。
この唯一無二のサウンドと世界観は、100年どころか1000年後も、輝きを放っているのではないでしょうか。

補足情報: 本でジョンの言葉遊びの世界を知る

ジョンの残した破天荒でナンセンスな言葉たちは、1964年にジョンの単著という形で世に出ています。

原題は「In His Own Write」
ジョン自身によるイラストと合わせて、 “I Am The Walrus” 以上に意味不明な言葉遊びが続きます。
訳者の片岡義男氏による巻末解説と合わせて読めば、その破天荒さが一層理解できます。

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