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続・両親の夢を聞きに行く。状況把握と意思確認 〜親の移住と、家族の記録#04〜

背中を押す、その前に。
実家の現状把握と、両親の意思確認をした時の話、今回は2回目です。
1回目はこちら

実家に帰って父と母に話を聞いたところ、
●あと数年で父は仕事から引退
●年金支給はまだもう少し先
●無収入になる期間が来るが、夫婦ふたりで暮らせるくらいの蓄えはある
ということがわかった。

次は、移住の意思の確認だ。本当に移り住みたいと思っているのか、どれほどの熱意があるのか、「できる・できない」はいったん置いておいて、「どうしたいと思っているのか」本音が聞きたい。父の晩酌が進みすぎないうちに核心までたどりつかなければ。こういう時、夕食中はテレビを消すという我が家の習慣は非常に助かる。

「お父さんが定年した後もここに住むの? 家もだいぶ古くなってきてるみたいだけど・・・」と聞く私に、
「この家を直して住み続けるつもりはないのよ」と母が答え、ね?と父に振る。「ふたり暮らしにちょうどいい広さと間取りの家を見つけて、そこで最後まで住めたらいいねって話してるの」
お金をかけて修繕やリフォームをするくらいなら、売って、終の棲家を探す資金にしたいという。私やきょうだいが戻ってきて住む可能性がないこともわかりきっているのだろう。もちろん私たち子どもに異論はない。この家に未練がないとわかれば、次は場所の話だ。

「引っ越すならどこがいいとかイメージあるの? 前に○○○に住みたいって言ってたよね?」
具体的な場所の名前を出すと、父が手酌をしながら口を開いた。
「○○○に住めたら幸せだね。あそこで海を見ながら暮らせたら一番いいよ」
父と母にとって特別なあの町への想いはまだ強いようだ。

父:「でも空き物件がなかなかないんだよね。あっても元ペンションとか、バカ高い別荘とかで」
私:「えっ?! 物件探したことあるの?」
父:「探すっていうか、売地とか売物件の看板が出てるのを見て、ちょっと問い合わせたりしたことはあるよ」
私:「いつ?」
父:「この前お母さんと行った時。その前にも一回あったかな」
私:「・・・?!?!」(絶句)

びっくりした。なんてことだ。目の前で静かに飲んでいる父にそんな行動力があったとは。もしかしたら移住への熱意が下がっているパターンも想像もしていたが、とんでもなかった。「いつか住みたい」というのは本気だったのだ。

詳しく聞いたところ、本格的な物件探しというよりは、下見に近い感じで行動していたことがわかった。きっかけは、新しくオープンした道の駅で車中泊しようと走っていた途中、「売地」の立て看板を見つけたことだった。ふだん通らない道を入っていくと、こじんまりとした角地で、海まで歩いて行けそうな好立地。気になって翌日もまた見に行き、連絡先を書き留めて帰路についた。あれくらいの土地いいね、平屋が住みやすいね、などと車中の会話は弾んだという。

しかし、帰宅後に電話で問い合わせて判明した価格は、ふたりが想像していたよりもずっと高かった。地方の小さな町とはいえ、自然が豊かで気候もおだやか、条件が良い土地には高値が付くと説明されたそうだ。
なんとか土地を買えたとしても、そこに家を建てるにはさらにお金がかかる。早々に諦めるしかなかった。がっかりしたであろう父の姿を想像すると、胸が少し苦しくなった。私にもっと貯金があればどうにかできたかも・・・と悔しくなり、とりあえず宝くじを買おうと誓った。

両親が突きつけられた現実は厳しいものだったが、その不動産屋からは現地の具体的な情報を仕入れることもできた。まず、海の近くは住宅用地が少なく、売りに出たとしても高額になる。問い合わせをした土地もまさにそれで、商売を辞めた人が建物を壊し、更地にしたものだった。
逆に少し陸側へ入れば、一般住宅用地が増え、価格も抑えめになる。海からは離れるが、静かな住宅街なので暮らしやすさの面から見ればおすすめとのこと。高齢になった住人が子ども世帯と同居するため引っ越していくケースも時々あり、中古の一戸建てもチェックしてみたらどうかとも言われたそうだ。
窓を開ければ海が見える、なんて新居はどうやら難しそうだが、海の近くにこだわらなければ可能性はあると考えることもできる。そこで、次にふたりで訪れた時に、言われたとおりやや陸側に入った集落エリアを車で走ってみたところ、元ペンションだった建物や、セカンドハウス的に建てられた戸建てなどが点在していて、売りに出されている物件もいくつかあったという。これといった物件には出会えなかったが、その時間をふたりは楽しみ、町に対する視線も「いつか住めたらいい」から「いい物件がないか」へと変わった。両親の心のギアが上がったのだ。

今度行った時もまた車でまわってみるつもりだと話す父の横で、母もニコニコしている。そこに温度差はなさそうで、私は安心した。移住したいという父の想いに、はたして母はどこまで賛同しているのか、それも今回確かめたいと思っていたからだ。「いつか」と話しているうちはよくても、実際に行動に移すとなるといろいろリアルな問題や心配事も出てくるはずで、そこで夫婦のどちらかが「やっぱり無理」と立ち止まることだって十分あり得る。

私:「お母さんも本当に行きたいと思ってる?」
念押しで聞いてみた。

私:「今より不便になることも多いかもよ?」

母:「そうかもね。でもお父さんと一緒なら、楽しく暮らせるかなと思って」

この一言が聞ければ、もうほかに確認することはなかった。これで迷いなく、背中を押すことができる。父と母の夢がかなうように、協力できることはなんでもしよう。うまくいくかどうかは、わからない。でもやるのだ。私は全力でサポートすることを決めた。

この時点で確認できていたこと
●あと数年で父は仕事から引退
●新たな仕事を探す予定は今のところなし
●年金支給まで数年あるが、夫婦ふたりなんとか暮らしていけるだけの蓄えはある
●今住んでいる家や地域に執着や未練はなし
●できれば移住して老後を過ごしたい
●移住したい場所は決まっている
●現地で家探し的なことを始めようとしている
●移住したい気持ちは父も母も同じ

次回、両親のサポートに向けて、娘の私が動き始めます。

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