沼色もず

両親の地方移住をきっかけに家族のことを書きはじめました。時々、自分のことも。

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両親の地方移住をきっかけに家族のことを書きはじめました。時々、自分のことも。

マガジン

  • 親の移住と、家族の記録。

    60代両親が地方移住の夢をかなえるまでの紆余曲折。パソコンデビュー、物件探し、断捨離などの家族の記録。

最近の記事

「名手」と打ちたいのに「銘酒」「名酒」が先に出てくる我がスマホ。「札幌」よりも「サッポロ」、「朝日」よりも「アサヒ」、「び」の予測変換は「ビール」。私の人生このままでいいのだろうかと心が一瞬ぐらついた、そんな休日の朝。

    • いくら暑くても十月下旬に半袖はおかしいかと思い直し長袖に着替える。秒で後悔、暑いものは暑い。固定観念ごとエイッと脱ぎ捨て、拾いあげた半袖を再び着て、長袖をしまう。この動作だけで体温が上がる四十代、信じるべきは季節感よりも己の体感。十月までは夏、すれ違うギャルが革ジャンだとしても。

      • 二年目の幸福論。

        「家に帰ればおでん」の魔法を知ったのは、去年の冬。 週末に鍋いっぱいのおでんを仕込んでおいて平日の夕食には毎日それを食べる、というルーティン生活をやってみたところ、これが想像以上に良かった。 献立に悩まなくていい、温めるだけですぐに食べられる、といったラクさはもちろんなのだが、それ以上に、精神的な安定感が高まるという予想外の効果がわかり、おかげで毎日をだいぶおだやかな気持ちで過ごすことができたのだ。 あの日々が忘れられず、さらに今年は冬まで待ちきれず、9月の終わりごろから始

        • ふたたび、秋は来て。

          祖母が体調を崩した。 すでに猛暑日が連続していた七月中旬のことだった。 百歳を超えても元気で、なんでもよく食べ、よくしゃべる健康な人だから、弱った姿が想像できず、すぐには信じられなかった。 最初は、ちょっと風邪気味かな、くらいの軽い症状で、本人もまわりもすぐに治ると思っていた。しかしなかなか良くならず、次第に食欲が落ち、体がだるいと言って横になる時間が増えていった。いくら元気とはいえ歳も歳だし、一度落ちた体力が回復するには時間がかかるだろうと親族みんなが心配し、そして、

        「名手」と打ちたいのに「銘酒」「名酒」が先に出てくる我がスマホ。「札幌」よりも「サッポロ」、「朝日」よりも「アサヒ」、「び」の予測変換は「ビール」。私の人生このままでいいのだろうかと心が一瞬ぐらついた、そんな休日の朝。

        • いくら暑くても十月下旬に半袖はおかしいかと思い直し長袖に着替える。秒で後悔、暑いものは暑い。固定観念ごとエイッと脱ぎ捨て、拾いあげた半袖を再び着て、長袖をしまう。この動作だけで体温が上がる四十代、信じるべきは季節感よりも己の体感。十月までは夏、すれ違うギャルが革ジャンだとしても。

        • 二年目の幸福論。

        • ふたたび、秋は来て。

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        • 親の移住と、家族の記録。
          21本

        記事

          夏はまだ、新しい。

          この夏、我が家に大きなニュースがあった。 なんと、両親の暮らす田舎町に、ついにコンビニができたのだ。 しかも天下のセブンイレブン! この令和の時代に信じられないことだが、コンビニが一軒もない町で両親は暮らしてきた。地元の食品スーパーや雑貨を売る個人商店はあるが、いわゆる全国チェーンのコンビニはずっと無かったのだ。 豊かな自然とのんびりした空気、訪れるたびに癒やされる場所ではあるけれど、「でも私はここには住めない」と思ってしまう理由のひとつが、それだった。気の利いたおつまみ

          夏はまだ、新しい。

          夏へ帰る。

          夏の帰省は、チケット予約のタイミングが難しい。 早めに確保しておけば安心なのだが、あまり早く取りすぎると、台風とぶつからないか、災害などで運休にならないか、心配しながら過ごす時間が長くなって、落ち着かない。7月半ばから始まるこのソワソワは、たいてい仕事の忙しさと重なることになっていて、疲労や眠気、あるいは変な高揚感がピークに達した瞬間、「そうだ、予約しよう」と急に解決することが多い。わかりやすすぎる現実逃避。ちなみに今年は、どうしようもない悔しさに歯を食いしばりながらの帰宅途

          夏へ帰る。

          夏の本

          「読んで楽しいか」と聞かれたら、首を横に振るだろう。 「何度も読みたいか」と聞かれたら、少し考えこんでしまうかもしれない。 なぜなら、この読書体験には「痛み」がともなうから。「ぜひ読んでみて!」なんて気やすい薦め方はできない。 ただ、「読むべきだ」とだけは、はっきり言える。 1985年8月12日に起きた日航機墜落事故は、すべての遺体の身元が確認されるまで127日間を要した。この本は、長く過酷な状況下で検死作業にあたった2800人以上もの医師、看護師、歯科医たちが、現場でなに

          網戸と板チョコだった頃。

          エアコンが壊れた。 先日のガスコンロにつづき、今度はおまえもか。。さすがに今回は、たたいて直るとは思えない。 お風呂上がり、なかなか冷えないなーと思いながら晩酌をしていた。 ビールが終わってハイボールに入っても、まだ部屋が暑い。エアコンの前に手をのばしてみると、風は出ているが冷たくない。外気よりはやや低温のぼんやりした風が吐き出され、それを扇風機がかきまわしているだけ。どうりで涼しくならないわけだ。 連日の酷暑、炎暑、熱帯夜にクーラー無しで立ち向かうのはキツい。命の危険

          網戸と板チョコだった頃。

          キッチンの向こうから。

          ガスコンロが壊れた。 スイッチを押しても火がつかない。チチチチ・・・の音もしない。 前日までは普通に使えていたのに、うんともすんとも言わなくなってしまった。 電池切れを知らせるランプは点いていない。念のため新しい電池に交換してみたが、やっぱりつかない。故障かなあ。 うちのガスコンロは、栓もホースも外から見えないビルトインタイプ。 この物件に引っ越してきた時から備え付けてあり、十年以上前の当時からすでにベテラン感があった。開栓に来たガス会社の人にも「けっこう古い型式ですねえ

          キッチンの向こうから。

          夢、百三年目の。

          梅雨入り前、初夏の日射しが降り注ぐ暑い日に、祖母に会いに行った。 およそ一年ぶりの再会だが、百歳をこえた人の見た目は一年や二年でそんなに変化しない。相変わらず元気そうで安心する。 デパ地下で調達してきたお昼を広げはじめたら、さっそく興味津々な顔をしている。 マグロとアボガドの巻き寿司、生ハムと新玉ねぎのサラダ、豚肉の黒酢炒め、海鮮焼きそば、スペイン風オムレツ、などなど、喜ぶ顔が見たくてつい買いすぎてしまった料理をテーブルに並べていると、すぐそばに住む叔母が冷えたビールを持っ

          夢、百三年目の。

          じぶんに必要なものくらい。

          ひさしぶりに「モノ」にお金を使った。 見つけた瞬間に欲しい、連れて帰りたい、と心動かされ、ときめいてしまった。 この出会いはもう運命。何度も手にとって、いったん思案して、また手にとって。 これが無くても生きてはいける。 でも、これがあったら毎日はきっと楽しくなる。 無駄遣いだろうか。贅沢だろうか。 いやいや、こういう時のために働いているんじゃないのか。 よし、買おう。私は決断して、大事に大事に、我が家へ連れて帰った。 食品や日用品などの必需品を買うことは日常のルーティ

          じぶんに必要なものくらい。

          謝らないことしかできない。

          私の両親は、六十代で地方移住し、いまは夫婦二人で暮らしている。 田舎暮らしも八年目を迎え、もうすっかり、その町の人になった。ふだんは遠く離れて暮らし、年に何回か、顔を見せに会いに行っている。 五月の連休にも、父と母に会いに行った。静かで小さな町には海があり、山があり、広い空がある。滞在中は、いろんな路地を散歩したり、庭でビールを飲んだり、小さな畑でつくっている野菜の様子をみたり、両親にスマホを教えたりして、のんびり過ごす。母の手料理を味わいながら夫婦のいろいろな話を聞くのも

          謝らないことしかできない。

          連休だもの。

          休日にお酒を飲むのは楽しい。 次の日も休みだと、もっともっと楽しい。 だから私は、連休が好きだ。 さあ、五月の長期連休がはじまった。 あと、写真を撮り忘れたけれど、実家で飲んだスーパードライがおいしくて驚いた。喉ごしだけなイメージがあったけど、ちゃんと味わいも良くて、見直した。どん兵衛と同じで、進化してるんだな。 母と飲んだハイボールも楽しかった。 ひとりで、気ままに。 家族と、まったり。 賑やかな街の中で。 静かで広い空の下で。 おいしいお酒とともに過ごした、今年のゴー

          連休だもの。

          こっち側の景色。

          五月の連休を前に、両親へのお土産を買いに出かけた。 今回の帰省は、二泊三日の予定。顔を見せに行くのはお正月以来だ。 甘いものを食べない父親用に、お煎餅やおかきを何種類か選ぶ。醤油げんこつ、揚げ塩、あとは胡麻や海老もおいしそう。海苔チーズ、マヨ七味なんてのも気になる。思案しながら選んでいると、急に声をかけられた。 「これってすごくカタいかしら?」 顔を上げると、年配のご婦人がこちらに袋を向けている。お煎餅の固さを知りたいようだ。 商品棚の値札にある表示を差して、「5段階中4っ

          こっち側の景色。

          ノスタルジックとエスニック

          ラジオの天気予報が、今日は初夏の陽気になると告げている。 ほんとに? まだ桜もだいぶ残っているのに? 冬のコートをクリーニングに出しに行くために、用心して日焼け止めを塗る。 季節感がごちゃごちゃだなと思いながら外に出た。 吹いてくる風はさわやかだが、下からの照り返しはすでにけっこう強い。 歩いていると、肩や背中にじりっとした陽射しの暑さを感じる。 帽子をかぶってきてよかった。 このままだと、本当に春と秋がなくなってしまうかもしれないな、スプリングコートとか死語になっちゃうの

          ノスタルジックとエスニック

          春になったら。

          なかなかにしびれる忙しさだった三月。 寝ても寝ても眠い、やたらお腹が空く、寒暖差に体がついていけない・・・これら全部が春のせいなのか仕事のせいなのか、よくわからない感じで過ごしていた。 その忙しさが一段落するのと同時に、四月がやってきた。 新しい月、新しい年度、新しい季節。自分自身の環境はなにも変わらないのだが、それでもやっぱり、春というだけでなんだか明るい気分になる。 街で見かける新入社員たちが、ピカピカでまぶしい。まだ少し緊張気味のその背中にそっとエールを送りたくなるの

          春になったら。