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じぶんに必要なものくらい。

ひさしぶりに「モノ」にお金を使った。
見つけた瞬間に欲しい、連れて帰りたい、と心動かされ、ときめいてしまった。
この出会いはもう運命。何度も手にとって、いったん思案して、また手にとって。

これが無くても生きてはいける。
でも、これがあったら毎日はきっと楽しくなる。

無駄遣いだろうか。贅沢だろうか。
いやいや、こういう時のために働いているんじゃないのか。

よし、買おう。私は決断して、大事に大事に、我が家へ連れて帰った。


食品や日用品などの必需品を買うことは日常のルーティンになりすぎていて、「お金を使う」というよりも「生活を維持する」という感覚のほうが近い。
服や靴は、気に入ったものを色違いでそろえて、セールでさらに買い足しておけば事足りる。化粧品も、長年使っているもので満足しているので、特にあれこれ試し買いする必要はない。家具も食器も家電もこれといって不足はなし。本を買うことは昔から日常的にしているので、これも割とルーティンに近い。
「なにを買おうか」と迷うのは、晩酌のメニューを考えながらスーパーをまわるときくらいなものだ。

そんな淡々とした私の消費活動を大きく揺さぶった、ときめきの正体が、こちら。



ゆるくて遊び心のあるデザインと、使い方を一方的に強制してくる押しの強さ。そのアンバランスさが妙に魅力的で、店頭で見つけた瞬間、心を奪われてしまった。ふざけているのか、それとも大まじめなのか、とにかく目が離せなくなり、たまらなく欲しくなってしまったのだ。

直径およそ10cm。このサイズの小皿ならすでに何枚か持っている。数的には買い足す必要はない。
それに、イメージしていた値段よりもちょっと高い。
使う料理がただひとつに限られるという点では、コスパは最悪だ。

買わない理由がいくつも浮かんでくる。うーん、どうしよう。欲しいけど、即決しかねるな。。。気持ちにブレーキがかかりかけた私の背中を押したのが、こちら。

中華料理屋さんでよく見る、辛子やラー油をとるためのミニミニスプーン。
えっ、これって売ってるの? 家で使ったらめちゃくちゃテンション上がりそう!


このセットで使うのを想像したら、楽しくなって思わず笑ってしまった。
フフっ、もう無理、降参だ。購入決定!

小さなお皿とスプーンを一点ずつ丁寧に包んでもらいながら、気分はさらに高揚していく。ひとりぶんだけを選ぶことにも、もうすっかり慣れたものだ。

いい買い物をした。店を出て、ほくほく顔で街を歩いた。
ときめいて、楽しくなって、とてもいいお金の使いかたをした気がする。形ある物にこんなに惹かれたのは、ずいぶんひさしぶりだ。物質的な欲を満たしたら精神的なほうも満たされて、衝動買いもたまにはいいかも、なんて思った。
お金で買える価値がある。この気持ちはプライスレス。散財、万歳!

朝ドラの主人公が「紙切れ一枚でこんなに状況が良くなるなんて」と言っていたけれど、私の場合は「小皿一枚でこんなにウキウキするなんて」といったところだろうか。

誰かにとってはまったく必要ないものでも、私にとっては価値あるものかもしれない。それを決められるのは自分だけ。
損得勘定ではなく、楽しそうかどうかで決める、そんな基準を持っていてもいいはず。迷ったときは、自分が機嫌よくいられるほうを選べばいいのだ。
くだらなくても、ばかばかしくても、自分にとっては価値のあるもの、好きなものを、私はずっと大切にしていきたい。自分に必要なものくらい、自分で決められる人間でいたいと思う。


食器棚を開けるたびに目に入る、愛しの相手。ちょこんと出番を待っている姿がいじらしい。本当はすぐにでも使いたいけれど、このときめきをもうちょっと味わってからでも遅くない気がしてきた。
フフっ、楽しみだな。餃子はどこのを買ってこようかな。雰囲気出すならビールは瓶だろうな。

女ひとりと、皿ひとつ。
誰も知らない、誰にも邪魔されない、幸福な関係がここにある。


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