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両親の夢を聞きに行く。状況把握と意思確認 〜親の移住と、家族の記録#03〜

父の定年が近づいている。家も老朽化してきた。両親の老後は、意外とすぐそこまできているのかもしれない。もし本当に移住したいと考えているなら準備し始めるのは早いほうがいいだろうし、それによっては私たち子どもにも影響が出てくる。手伝うべきこともたくさんあるだろう。両親の気持ちを改めて聞いてみたくなり、私は実家に向かった。

二十代前半で一人暮らしを始めてから、私が実家に帰るのはお正月やお盆を含めて年に数回程度。電車とバスで一時間ちょっとの距離にしては少ないほうかもしれないが、これくらいがちょうどいいペースだと思っている。もともとベタベタした親子関係ではなかったし、「もっと帰って来い」とも言われないし。元気にやっているかお互いに案じながら、それぞれの場所でそれぞれの毎日を生きる、うちはそんな家族なのだ。

バスに揺られながら、生まれ育った街を眺める。仕事帰りの母が、保育園から私と手を繋いで歩いた道。虫捕りをした森。父が仕事用の車を停めていたことのある駐車場。学校までの通学路。私たち家族のいろんな記憶が残っている。窓の外を見ながら、両親には幸せでいてほしいと強く思った。
移住したい気持ちが強いなら、背中を押してあげたい。うまくいくかはわからないけれど、移住を考えることでワクワクする時間が増えるなら、それだけでもいいではないか。いや、もしかしたら、歳をとったことで、移住に対しての熱意は下がっているかもしれない。好きな時にふたりで訪れる今の楽しみ方で満足だと言う可能性もある。父と母がこれからのことをどう考えているのか、まずは聞いてみよう。特に父は自分から多くを語る人ではないので、今回はじっくり、一歩踏み込んで気持ちを聞いてみたい。

家に着くと、台所からいい匂いがしていた。父も母も変わりなく元気で、お茶を飲みながら近況報告をする。「仕事はどんな感じ?」と聞くと、「今週は三日出た。来週は今のところ二日かな」と父。

私:「暇していない?」
父:「そうでもないよ。ゆっくりはしてるけど」
私:「他の会社を探すことは考えていないの?」
父:「うーん、今から別のところでってのは難しいだろうねえ」

もともとおだやかな性格の父は、焦りや不満は口にせず、淡々と状況を受け入れているように見えた。「仕事が好きだから、あるうちはやりたい」という言葉は、これまで誠実に働いてきた父の本音だろう。

ただ、いくら誠実に務めても、勤務日数が減れば収入も減る。数年前に母がパートを辞めて以降、父一人の「一馬力」となっている家計への影響は大きいはずだ。そのあたりの経済状況について、父の入浴中を見計らって母に聞いてみたが、娘に心配をかけまいという配慮なのか、「なんとかなってるから大丈夫よ」と軽い返事。

私:「今は大丈夫でも、年金もらえるようになるまでまだ何年もあるんでしょ?」
母:「貯金も少しはあるし、そんなに贅沢しなければやっていけるから」

確かにうちの両親は、趣味や旅行にお金を使うタイプではないし、外食もほとんどしない。とはいえ、「大丈夫」と言われてそのまま安心できるほど私は鈍くない。自分の家の経済レベルが決して余裕があるほうではないことは割と早いうちから感じていたし、今はそこからさらに減っているのだから、心配せずにはいられない。

納得できない顔でいる私に母は、毎月の支出は食費・光熱費・ガソリン代くらいでそんなにかからないこと、家のローンをすべて払い終わって精神的にもラクになっていることを話してくれた。そして、こう言った。

「お父さんには今までずっと働いてもらって本当に感謝してるの。家族みんなで楽しく暮らせたのはお父さんのおかげ。お父さんがやり切ったと思うならゆっくりしてもらいたいし、今から違う仕事を見つけてなんて言うつもりはないの」

母の中にあるのは、この先の心配ではなく、父への感謝だった。どうりで、父が家に居る時間が増えてもずっと機嫌よく過ごせるわけだ。夫婦ってすごいぜ。

その後もう少し具体的な話もして、とりあえず強がりだけで「大丈夫」と言っているわけでもないことがわかったので、お金の話はそこで終わりにした。ただし、なにか金銭的な不安が出てきたら早めに相談してほしいことだけは念押ししてお願いした。

実家の状況の整理
●父のサラリーマン人生は、あと数年で確実にゴールを迎える
●新たな仕事を探す予定は今のところない
●年金支給はまだもう少し先
●すぐに生活費に困るような状況ではない

ここまで確認できたので、いよいよ移住の意思確認へと進みます。次回へつづく。

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