岩村 亮

自称小説家です。気楽に読めて面白い短編小説を目指して、投稿しています! もしよかったら…

岩村 亮

自称小説家です。気楽に読めて面白い短編小説を目指して、投稿しています! もしよかったら、ご覧ください!

最近の記事

[短編小説]狂って、想って

 ***  都会の町並みから少しだけ離れた閑静な住宅街の、とある家。  その家は一見すると、普通の一軒家だ。広めの庭があることから子供が自由に遊び、たまの休日にはその庭でBBQを行なって、家の中でも常に談笑が絶えず、優雅な音楽を空間に響かせながら一日を過ごすような、そんな絵に描いたような幸せそうな家族が暮らしている――、この家の外観を見ると誰もがそう連想するだろう。  だけど、実際は違う。  ――この家には幽霊が住んでいる。  そう噂されることが多かった。  その理

    • [短編小説]光出づる小さき国

       *** 『小さき場所から平和への兆しが出づる。  兆しは光、光は闇のしがらみを解き放つ。  しかし、その光は当の光さえも分からず。  もたらされる災禍を贖うは、三回りした後。  その後、針が動くよりも遅き速さで、世界に光がもたらされる』  それが、関心を抱かなければ誰からも存在を認知されないほど小さき国である、チナエルに三百年伝わる伝説だ。  チナエルは、人口も少なく、物資も少なく、領土も一望できる範囲だけと狭く、それ故に貧困が蔓延している国だった。  しかし、それで

      • [短編小説]満月鉄道

         *** 「ねぇ、あの噂知ってる?」 「あー、あれな! あれ絶対嘘だろ」 「え、何? 噂って?」 「もしかして知らないの? ネット発の噂だけど、今巷で話題だよ」 「胡散臭くて、信憑性ないけどな」 「もったいぶらずに早く教えてよぉ」 「満月の夜、空を見上げて夢を描きながら眠るとね、夢が叶うんだって」 「ん、どういうこと?」 「なんかその想いに導かれた鉄道がやって来るらしんだけど、その鉄道に乗れば夢が叶えられるらしいんだよ。その名も――、満月鉄道。安直過ぎて笑っちゃうだろ?」

        • [短編小説]手紙の行方

           *** 「なに、これ」  届くはずのない手紙が、私がいる家に届いた。宛先も差出人も不明で、この手紙に関する情報は一切分からなかった。 「おばさんさん宛、なのかな……」  小さな田舎町の外れにあるこの家は、元々おばさんのものだ。だから、順当に考えればおばさん宛の手紙だろう。  しかし、おばさんが最後にここを利用していたのは、半年ほど前。病気を発症してしまったため、都内の病院に入院しているところだ。入院してから一週間とか一か月ならまだ分かるけれど、半年経った

        [短編小説]狂って、想って

          [短編小説]居場所を守れ

           ***  その噂は突然やってきた。 「――この部活、もしかしたら潰れるかもしれない」 「は?」  部室に入るや否やタカオが放った言葉に、『総合文化部』のメンバー四人――、二年女子のメグミ、一年男子のシロウ、一年女子のカナエ、そして俺ことジンは混乱に陥ってしまう。  暦の上では秋なのに、残暑がまだまだ厳しいような九月半ばのことだった。 「おい、潰れるってどういうことだ。おい、タカオ。ちゃんと説明しろ!」  中でも一番動揺していたのは、最年長兼部長でもある俺だろう。腐

          [短編小説]居場所を守れ

          [短編小説]変わるためのミッション

          〈挨拶! ことよろです!〉  あけましておめでとうございます!  新年が始まりましたね! 本当は元旦と同時に投稿したかったのですが、まぁまだ三が日の内なのでセーフということで笑    さて、今年はどんな年になるか、すごいワクワクです!  去年は今まで出来なかったことを、たくさんやることが出来ました。  勉強もたくさんして、色んなところに旅行に出掛けたり、たくさん本も読んだし、友達ともめっちゃ美味いものも食いました! お気に入りのお洒落なカフェも出来ましたね!  自己啓発、っ

          [短編小説]変わるためのミッション

          [短編小説]Leave the Truth

           A案  ――虎の子も、また虎だ。  彼以上にこの言葉が相応しい人を、知らない。  誰もが知るような有名企業を最前線で率いていた社長が、ある日辞任した。その後を引き継いだのは、彼の息子だった。  初めての経験というものは、誰だって四苦八苦するものだ。特に大企業の社長という立場になって、多くの従業員の人生を背負うことを考えれば、常人であれば気が触れてもおかしくはない。しかし、彼はまるで日常の延長線かの如く、難なく社長業をこなした。しかも、特筆すべきは、就任一年目から業績

          [短編小説]Leave the Truth

          [短編小説]いつかふたり

           ***  一枚の写真を見ると、否が応でも思い出される過去がある。  それは想い出と呼ぶには甘くもなく、胸中に痛みと切なさを過らせるほど苦々しいもので、もう一年ほど前だというのに刻銘に記憶を辿ることが出来る。  あの日の私は、バドミントンクラブに所属していて、物心ついた時から知っている美月と一緒にダブルスを組んでいた。美月と涼花の名前から一文字ずつ取って、『涼月ペア』とよく称されて、世間の一部からも認識されるくらいには少しだけ名が知れ渡っていた。他を圧倒する実力から、周

          [短編小説]いつかふたり

          [短編小説]夕立の合間に、僕と淑女と黒猫

           ***  滝のように降り注ぐ雨に打たれながら、自分の行動に対して後悔を抱いていた。  僕が暮らす場所は田舎と呼ぶに相応しい場所で、どこへ行くにも時間と体力と根気が必要だった。毎日通わなければいけない高校でさえも、修練かと間違うくらいに歩かされてしまう。普段であれば近所の幼馴染と一緒に帰るのに、僕は今、遠い道のりをたった一人で帰っていた。  そして、いつもよりどこか寂しい想いを抱えながら一人で歩いていたところ――、これだ。  最近は暑く晴れ渡った日が続いていたから、夕立

          [短編小説]夕立の合間に、僕と淑女と黒猫

          [短編小説]旅の果て

           *** 「どこか旅行へ出掛けてみないかい?」  ベッドに座りながら問いかけられた主治医の先生の言葉に、「は?」と僕は思わず間の抜けた声を漏らした。  先生は口ひげに触れながら、僕のことを眺めていた。 「君はずっとこのベッドの上で時間を過ごしているだろう? ここでない場所に出掛けてみれば、きっといい気分転換になると思うんだ」  病気のせいで、僕は昔から体が弱かった。物心ついた時から、僕の居場所はずっと病院のベッドだった。  代わり映えすることのない、無機質で白い部屋。

          [短編小説]旅の果て

          [短編小説]創作料理店えん

           ――Menu1――  東京のビル街から外れた細道にひっそりと佇み、ほんのりと淡い照明でもって客を出迎えてくれる、創作料理店『えん』。  ビル街や駅前に行けば、多くの仕事終わりの会社員たちによって賑わっているけれど、『えん』はそういうチェーン店のような場所とは違って、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。なんと言えばいいのだろう、実家に帰った時の安心感と言えば伝わるだろうか。店内に足を踏み入れた瞬間、都会の喧騒とは異なる空気感を敏感に察した。  この独特な雰囲気は、恐らく立地

          [短編小説]創作料理店えん

          [短編小説]振り返り、桜

           ***  過ぎ去ったはずの、あの日のことを思い出した。  電車の中で、私が手離した物と似た物を持っていた女性をふと目にした時だ。  もう七年近くも前の出来事だというのに、よくも憶えていたものだと我ながら関心する。そして、同時に当たり前のようになりつつあったことに、自分自身で気付く。  あの日がなければ、心の中がこんなにも満たされることを知らないまま生きていた。 「――侑希ちゃん、ありがとう」  彼女のこと――帆波先輩のことを思い出す時に浮かぶのは、どんなことにも感

          [短編小説]振り返り、桜

          [短編小説]私の世界を覆す魔法

           *** 「それ、魔法の力ね。菜乃ちゃん」  過去の私が抱き続けた問いに、開口一番で浮世離れした答えを返したのは、真喜叔母さんだった。今から二年ほど前の話になる。  中学二年生に上がったばかりの私に、ある日些細な変化が訪れた。  元々、私は明るい性格をしていた。天真爛漫で、元気いっぱいな子。それが私の人柄に対する評価で、「菜乃がいると空気が良くなるよ」と言われることも多々あった。それがある日を境にして、どうにもその現象が顕著に現れるようになったのだ。暗かった空気のところ

          [短編小説]私の世界を覆す魔法

          [短編小説]encore -アンコール-

           ***  劇団セカイズは、今最も勢いのある劇団だった。  セカイズが設立されたのは、今から八年ほど前。設立当初は知る人ぞ知る劇団だったのが、今では多くの人が知る劇団と化していた。  人々の琴線に触れるような脚本、生き写しのように鬼気迫る演技を見せる役者、演劇の世界に引き込むような演出、まるで座った瞬間に吸い込まれるようなふかふかとした座席。セカイズのステージは、全て舞台を盛り上げるためにあった。  セカイズの舞台を見た人々は、まるで別世界に導かれた気分だ、と口を揃えて

          [短編小説]encore -アンコール-

          [短編小説]指先に宿るは

           ***  美しい、と問われて思い浮かぶ姿は、いつも師匠が舞う姿だった。  師匠の舞は、見る者の瞳を縛り、見る者の呼吸を奪い、見る者の心を掴んで離さない。  師匠が舞っている空間は、全て師匠の独壇場と化す。  それは、その場にいる誰もが、師匠の舞は唯一無二で美しいと本能で悟っているからだ。きっと師匠の舞を見た人は、この世の舞とは一線を画すものだと認めることだろう。  俺もそうだ。師匠の舞は、師匠にしか表現できない芸術だと心の中で分かっていた。  師匠のように舞うことは

          [短編小説]指先に宿るは

          [短編小説]問イカケル

           ***  ある日を境に、私たちが通う高校の空気は、居心地の悪い異質なものとなった。  その変化の渦中にいるのが、一週間ほど前まで生徒会長を務めていたアキラだ。  原因は、先週起こった事件。  校長先生がアキラとヤマダ先生から聞いた話をまとめたものを、事件が発覚した当日の朝には、全校生徒の前で共有された。  事件の内容としては、誰かが夜の校舎に窓を割って忍び込み、職員室にあるはずのテストの模範解答を盗もうとしたらしい、というものだ。らしい、というのは、窓ガラスを割っただ

          [短編小説]問イカケル