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#エッセイ 記事まとめ

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noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
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#エッセイ

空を見上げて、飛んでいるものを追っかけて笑顔になれる。それが尊い日常ってやつだ。(宮城県石巻市 石巻市民球場)|旅と野球(4)

「日常の尊さって、なくなってはじめて分かるんですよ」  そうなんでしょうね。畳店の主人の言葉に頷きながら、僕は少し前に名古屋の住処のそばにある公園で見た草野球のことを思い出していた。  巷の正月休みもそろそろ終わりを迎える休日だった。  大柄な少年が打席に入り、ユニフォームを着た子どもたちが守備についていた。地域の少年野球チームの練習試合なのだろう。審判はコーチらしき男性で、周りにはベンチコートを羽織った母親たちが見守っている。  公園の隅っこには、孫との凧揚げを楽し

人間関係のストレスは、身近な人の死より辛い

お知らせ 林さんが書いた新しい小説が上梓されました。ぜひお読みください。 前回の記事はこちら 人類は嗜好品を克服できないいらっしゃいませ。 bar bossaへようこそ。 先日、松井博さんのVoicyに出演していたときのこと、こんな質問をされました。「林さん、お酒ってこのままずっとあると思いますか?」 お酒って、どうやってできるかご存じですか? 糖分に酵母がつくと、酵母が糖分を食べて、アルコールと炭酸ガスにするんです。酵母は空気中にふわふわと浮いているので、例えば、蜂

タイガースじいちゃん

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! というのは『ジョジョの奇妙な冒険・第3部』のポルナレフさんの台詞だそうですね、引用したけれど実のところ未履修なんですよ、ジョジョを読まないままに大人になった私であるもので。 で、ありのままに今起こったことを。 うちの5歳、職業幼稚園児、学年年長さんは毎朝私の送迎で幼稚園に通っている。 雨の日も風の日もときに雪の日も。雪の日に自転車というのは嘘でも偽りでも誇張でもなく、雪深い北陸の山村に育った私は都会の降雪程度では自転車を降りない、

ミニマリストの団地暮らし|我が家の冬支度〜住まい編

こんにちは。ソフ子と申します。 オットと4歳息子と3人で、レトロ団地の3DKでミニマルに暮らしています。 急に寒い日が続くようになりました。 今回は、我が家の冬支度、寒さ対策について書いてみようと思います。 1.団地の冬は寒い団地の冬は寒い! と話には聞いていましたが、どんなものかな? とドキドキしながら冬を迎えました。 ひとくちに団地と言ってもいろいろあると思いますが、我が家は築30年超えのザ・レトロ団地です。 建物の造りはしっかりしていますが、やはり、寒い! でき

大人の友達

 私には友達が3人いる。  そのうちの1人がMちゃんだ。  Mちゃんとは15年来の付き合いになる。人の仄暗さを吹き飛ばすような光量が彼女にはあって、だからそうでない私と話が噛み合わないこともある。でも、Mちゃんと話していると笑いが止まらない。何に笑っているのかもよくわからない。よく見ると、Mちゃんは赤ちゃんに似てる。見るとうっかり微笑んでしまう、そんな感じの人なのだ。  たとえば、Mちゃんと出かけたとする。  待ち合わせ場所、横断歩道を渡った先にMちゃんの姿が見える。ベタだ

ランニング教

ずっと、ランニングをしたいと思っている。 とあるブログを私は長く愛読していて、その管理人の彼女が1年ほど前からランニングをしているのだ。 私は彼女が第2子、第3子にあたる双子を産んでからの読者で、彼女がまさかの4人目を妊娠した時も、めでたく出産した時も、仕事を始めた時も、陰ながら応援させていただいている。 その彼女が、長い長い幼児期の子育てが少しずつ楽になって、ランニングを始めた時の衝撃といったらもう。 4人もお子さんがいて、しかしどうやら配偶者は子育てにあまり積極的ではなく

夜の喫茶店で、ただ本を読む。そんな贅沢を知っていますか?

夜の喫茶店で本を読む。スマホの電源をオフにして、コーヒーとケーキをいただきながら、ただひたすらに目の前の本と向き合う。途中で時計を見たりもしない。流れる時間に身をゆだねて、本の世界に入り込む。気づけばあっというまに3時間。お店を出て駅へと向かう夜道を歩いているとき、私はまだ本の世界にいるのだろうか、と不思議な余韻に浸っていた。 こんな時間を、私はシンプルに「贅沢だな」と感じる。豊かな時間の流れ、とも思う。「贅沢」「豊か」の定義は人それぞれだけれど、私は夜の喫茶店で本を読んで

「先人から学ぶ」はもはや古い?

先日、なんとなくネットでアニメーターの現場ドキュメンタリーをみていた。その動画で取材を受けていた、現場の長である作画監督は60代のアニメーターだった。業界では結構有名な人らしい。 インタビューの中でさまざまな質問があったのだが、仕事のコツについての回答が印象的だった。現役でいられるコツは、という問いに対して、「若い人から技術を盗むことだ」という回答をしていた。 作画監督なので、他人の描いたアニメーションをチェックし、手直しすることがメインの仕事になるのだが、そのとき手直し

朝の教育番組の変な歌と、ろう学校の教育と、恩人の話

前回のお話はこちら 朝は7時前に起きる。iPhoneのアラームは止めたけど、起きてないふりをして布団をかぶる。しばらくすると足音が近づいてくる。まだ寝ていたいよう…….。僕の祈りを破って、在宅勤務の妻が、始業前に起こしてくれる。 半目でふらふらのまま、台所に向かう。食パンを3枚オーブンにつっこんで、つまみを回す。焼きあがる前に長男の部屋に行く。 一朗は僕に輪をかけて朝が弱い。妻の連れ子なので血のつながりはないが、こんなところばかりが似てしまう。揺さぶって起こすのではなく

連想ゲームで会話を転がす

先日、歌人のなべとびすこさんとスペースで雑談配信を行った。 なべとさんとは一度しかお会いしたことがない。しかもその一度も、イベント時だったため挨拶程度しかできなかった。じっくりお話するのはこれが初めてだ。 だから正直、会話が続くかが心配だった。話題が尽きて、気まずい沈黙が流れたらどうしよう。そう思い、あらかじめいくつかの質問を用意して配信に臨んだ。 しかし結果から言うと、私は用意していた質問を使うことがなかった。2時間と少しの配信の間、会話が途切れることがなかったのだ。

英語を好きになったきっかけ「缶 蓋 棒」

「comfortable」は、アメリカの地を踏んで初めて覚えた英単語だ。 もう15年は前になる。 わたしは高2の夏から一年の留学を経験した。滞在したのはアメリカ南西部で、メキシコからの移民が多い地域だ。 飛行機の乗り継ぎアナウンスも、となりに座った横幅1.7倍のおっちゃんが陽気に話しかけてくる内容も、降りた小さな空港で見た案内マップも、なにひとつ頭で日本語に変換されないまま、ホストファミリーに出迎えられた。 高そうなバンの隅っこに乗り込み、縮こまって揺られることしばら

Wow-WowWar-そこに意思はあるんか。

気持ちのいい秋晴れ、平日に休みをとった。 来年から小学生になる長男の就学時検診があり、午後から幼稚園を早退してはじめて小学校にいく。次男もプレスクール。子どものイベントが重なると、どうしてなかなか回らなくなる。フレックスなので在宅でもなんとかなったけれど、思いきって一日有休にした。気持ちが楽である。 朝のバタバタをやり過ごして長男を送り出し、一息つく。次男とパートナーは2階の子ども部屋で遊んでいる。ざっくり片付けを済ませてソファにもたれこんだ。ここのところデスクワーク続き

その燈(ともし火)は燃え続ける

「店を閉めることにしたよ」 マスターは電話口でそう言った。 来るべき日が来たんやなあ・・・。僕は目を閉じ、言葉にならない感情が押し寄せるのを感じた。 先日、僕が30年通ったバーが閉店した。 マスターが大病を患い、カウンターにもう立てなくなったからだ。 僕がこのバーに通い出したのはちょうど20歳の時だった。美味い酒とマスターの厳しくも人情あふれる人柄に惹かれて、当時は3日と空けずに店に通った。 学生の頃は親友や後輩とここでよく飲んだ。若者らしく青臭く語り合った。僕の

【料理エッセイ】七味屋台のおじいさんは渥美清の親友?!

 初詣の楽しみはなんと言っても出店である。参拝の行列に並走し、所狭しと建てられた屋台の量はいつ見ても圧巻。普段、そのお寺や神社を訪れるときと同じ空間と思えないほど見事に領域展開された即興の商店街はもはや芸術だと思う。  そんな中でも、お正月、わたしが欠かさず訪れるのは七味唐辛子の屋台。好みに合わせて調合してくれるのが嬉しいのはもちろん、なんと言っても唄うような口上が気持ちよく、ついつい聞き惚れてしまう。  口上ってなに? って方のために、自分で撮影したものではないけれど、