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「先人から学ぶ」はもはや古い?

先日、なんとなくネットでアニメーターの現場ドキュメンタリーをみていた。その動画で取材を受けていた、現場の長である作画監督は60代のアニメーターだった。業界では結構有名な人らしい。

インタビューの中でさまざまな質問があったのだが、仕事のコツについての回答が印象的だった。現役でいられるコツは、という問いに対して、「若い人から技術を盗むことだ」という回答をしていた。

作画監督なので、他人の描いたアニメーションをチェックし、手直しすることがメインの仕事になるのだが、そのとき手直しすると同時に、若い人の技術を吸収してしまうらしい。本人曰く、いい意味でプライドがない、ということのようだ。

確かに、アニメーターというのは若い人から学ぶ姿勢がないと、生き残るのは難しいだろう。技術はどんどん進歩していくし、絵柄や流行も変わっていく。30~40年ぐらいまえのアニメの技術や絵のままでいまの業界で生き残るのは不可能だろう。仕事の進め方すら、全然違うのではないだろうか。

「自分よりも若い人からどれだけ学べるか」というのは、これからの時代は必須の能力になるのではないか、という気がする。先人から学ぶのはもちろんだが、自分よりもキャリアの浅い人間を手本とすることができるか、そこがキーポイントになりそうな気がしている。

おそらく、昔の職人の世界のように、「親方の背中を見て、それを目指していればよい時代」というのはとっくに終わっているのだろう。

仕事人として現役である40年程度のあいだ、世の中に何も変化が生じなければ可能かもしれない。たとえば江戸時代、生まれてから死ぬまでに多少の情勢の変化はあれど、技術的に特別な変化が起きないのであれば、それで構わないのだろう。

いまの時代は、10年もすると風景が激変するし、場合によっては1~2年で劇的な変化が起きることもある。いまでも60代ぐらいで現役の人は、これまでの人生で劇的な変化を何度も経験してきたのだろう。もはや現役の感覚についていけず、「仕事人生あがり」みたいな人をたまに見かけるが、若い人の感覚についていけなくなると、急速に老害化が進むような気がする。

新しいインプットをやめた瞬間から、考え方の硬直化がはじまるようだ。

若い人は、確かに経験が浅くて未熟ではあるが、ある意味では「未来人」である。「昔の人類」としての自分たちよりも、新しい感覚をもっている。そこから何か学ぶことはできないか、常に目を光らせる努力は必要なのだろう。

もちろん、経験を重ねたベテランが完全に無用になるわけではない。培われた知識や経験は役に立つのだろう。しかし、時代の変化を学ばないと正しい判断ができないということである。

そういえば、数年前に動画でみたのだが、Abemaを展開するサイバーエージェント社長の藤田晋は、Abemaに関する企画などはすべてチェックしているらしい。「企業トップが個々の番組の判断に関わるというのは効率的ではないのではないか」という声もあるようだが、藤田社長は一日の大半をコンテンツ視聴に費やし、感覚を磨いているという。

「最も裁量権のある自分がコンテンツに精通するのが一番効率がいい」という考え方のようだ。日本企業では珍しい考え方だと思う。しかし確かに、大赤字の新規事業をドライブさせるには、それが一番効率がいいのかもしれない。

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