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年間ベストアルバム TOP50 2022

早いもので、もう12月中旬。1月にThe Weekend、C.O.S.A、宇多田の新譜がいきなり出たかと思いきや、12月の現在に至るまでもRM、SZAとLittle Simsらが新作を発表し、1年を通して勢いは衰えることがなかった。2022年は音楽業界全体として豊作な1年だったと言えるのではないだろうか。

毎年備忘録的につけている良かった作品群を今年はNOTEに記しておこうと思う。あまりにも良い作品が多くて絞ることは難しかったが、12月13日現在に至るまで発表されているアルバムから50作品を選び、うち15作品ほどにコメントを付した(目次の*印はコメント付き)。

50. Sam Gendel - Superstore

49. UMI - Forest in the City *

「ヒーリング・ネオソウル」のシンガーソングライターUMIのデビューアルバム。シアトル生まれのLA在住だが、日本人の母親がおり、日米のアイデンティティの中で揺れ動く心情を、SZAやFrank Oceanに影響された穏やかなサウンドと温かい歌詞で紡ぎ出している。
12月の来日時にはダンスレッスンなども行い、若い世代と交流を深める様子がInstagramにてシェアされていた。
星野源も注目中の彼女がこれからどのような作品を作っていくのかに期待。特にeverything will be alright と100daysがお気に入り。

48. Phoenix - ALPHA ZULU

47. Jacques - LIMPORTANCEDUIVIDE *

特徴的なヘアスタイルがアイコニックなジャケットからわかるように、世界観全体がダークポップなフランス映画を見ているよう。特に3曲目ça se voit(見ればわかる、一目瞭然である)のサビのリズムと音の作り込みによる中毒性に今年抜け出すことはできそうもない。

46. Conor Albert - Collage 2

45. Amber Mark - Three Dimensions Deep

44. Alvvays - Blue Rev

43. Xenia Franca - Em Nome de Estrela

42. Reuben James - Tunnel Vision *

宇多田ヒカルのライブセッションにゲストピアニストとして参加していたことをきっかけに知る。ジャズピアニストとしてロンドンの名門トリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックへの奨学金を獲得するほどの腕前で、今年12月にはジャズピアニストとして初のピアノアルバムも発表している。とにかく、スタイリッシュなアーバンUKジャズが魅力。 前述したConar Albert との共作Ruby Smiles、先行タイトル曲Pic Wilson, Gareth LockraneとのWhat U needがお気に入り。 また、話は変わるが「Closer」という曲で迎えていCARRTOONS、彼のアルバムHomegrownも非常に良かった。

41. The Weekend - Dawn FM

40. Kaho Nakamura - NIA

39. C.O.S.A - COOL KIDS

38. Aldous Harding - Warm Chris *

ニュージーランドのフォーク・シンガー・ソングライターオルダス・ハーディング(本名Hannah Sian Topp)の新譜。とにかくボーカルが素晴らしい。Tick Tockでのイノセントな子供じみた歌声は、次のFeverで一転、Adeleのようにぴりっとスパイシーな声色で歌い上げかと思いきや、タイトル曲Warm Chirisで暖かい春の日差しのように柔らかな声へと変化してゆく。さまざまなペルソナが混じり合うような彼女の複雑性から新たな音楽体験へと誘われるのだ。

37. RM - INDIGO *

BTSのリーダー、RMことキム・ナムジュン初のソロアルバム。 20代最後のアーカイブ(ちなみにRMのインスタグラムのユーザー名はRkive)と銘打った本作のIndigoのトラックリストを見た際の衝撃は忘れられない。アメリカ音楽界の伝説的ミュージシャンから、韓国のインディ・ミュージシャンに至るまで参加しているではないか。東洋から西洋へ、大御所から若手へ、彼のルーツであるヒップホップからインディーロックまで、そして音楽から絵画へと縦横無尽に駆け抜けるのだ。
 BTSのメインプロデューサーPdoggとの「Lonley」、Don’tでコラボを果たしているEAeonとの共作「Change pt. 2」の完成度は言わずもがな、ネオソウルの女王Erykah Baduとの「Yun」、アンダーソン・パークを迎えた「Still Life(静物)」も素晴らしい。
本作は自宅にロニ・ホーンを置きアート・バーゼルにまで足を運ぶ蒐集家、美術愛好家としてのキム・ナムジュンが色濃く投影された作品だといえるため、このアルバムについてはまた別の機会に彼のアートと音楽の関係性から考察したい。

36. redveil - learn 2 swim

35. lyrical school - L.S. *

lyrical schoolは、日本の女性ヒップホップアイドルユニット。略称はリリスク。 2022年7月日比谷野外音楽堂での公演を最後に、hime、hinako、risano、yuu4名の卒業による5名体制での活動を終了した。現在はminan を中心とした新メンバーとの体制を整えており、来年2月に新体制でのライブが行われる予定とのこと。アイドルのアルバムという概念を覆す名盤と納得のソングクレジットの豪華さ。 特に「Bounce」は何度聞いたか分からないほどリズムとリリックに中毒性がある。

34. Gretel Hänlyn - Slugeye

33. Kendrick Lamar - Mr. Morale & The Big steppers

32. Yumi Zouma - Present tense

31. Wet Leg - Wet Leg

30. 岡田拓郎 - Betsu No Jikan

29. New Jeans - New Jeans 

28. Michelle -  After dinner we talk dreams

27. Ego Apartment - Ego Apartment

26. Denzel Curry - Melt my eyes see your future

25. Billy Woods - Aethipes

24. Danger Mouse, Black Thoughts - Cheat Codes

23. Snarky Puppy - Empire Central

22. SAULT - Earth *

Little Simz、Michael Kiwanuka、Cleo Sol との協働でよく知られる音楽プロデューサー、Inflo=ディーン・ジョサイアによるUK音楽集団。"我々は神への捧げ物として11月1日に5枚のアルバムをリリースする "という文言のもとアルバム5作全56曲が発表された。それぞれ異なるスタイルを持っており、Fight For Loveの収録されている11と悩むところだが、スピリチュアルで民族音楽的要素を含むEarthのコンセプトがとても良かったのでこちらを選出。God is in Controlがお気に入り。

21. Little Sims - NO THANK YOU

20. Cisco Swank - some things take time

19. Kaelin Ellis - The Funk will Prevail

18. 羊文学 - Our hope

17. Nilüfer Yanya - Painless 

16. Harry Styles - Harry’s House

15. Charlotte Adigéry, Bolis Pupul - Topical Dancer  *

Soulwax主催レーベル〈DeeWee〉より、ベルギーのCharlotte Adigéryとパートナーでマカオ出身のBolis Pupulのデビュー・アルバム。近未来感とノスタルジアを同時に感じさせる不思議な質感を持つサウンド。そこにEU圏内に生まれたアフリカ系としてのマイノリティ性をユーモアを交えた形で載せ、アフロ・オリエンタルなダンス・グルーヴへと昇華さてゆく。エレクトロポップの新時代を感じさせるアルバムであった。特にBlendaとHahaがお気に入り。

14. Robert Glasper - Black Radio III

2012年に発表した『Black Radio』プロジェクトの3作目。ジャンルレス且つタイムレスなスタイルは、本作でも健在。Black Superheroのラジオ感満載の音作りもワクワクしたし、Herのボーカル、アイコニックなメロディーライン、ミシェル・ンデゲオチェロのスポークンワードが心に沁み渡るBetter than I Imaginedもお気に入り。 今年5月のジャズフェスLove Supremeではドラマーのジャスティン・タイソンとともについに生演奏を聴くことができ、1日かけて様々な日本のジャズジャンルを中心としたアーティストを聴いた後に別次元で総括していくグラスパーの演奏は格別であったことが思い出される。

13. Omar Apollo - Evergreen

12. Immanuel Wilkins - The 7th Hand

11. Beyoncé - Renaissance

10. Kan Sano - Tokyo State of Mind

9. Arctic Monkeys - The Car

8. Rosalía - Motomami *

スペインの歌姫ロザリアの新譜。カタロニア出身の彼女といえば自身のルーツであるフラメンコからラテンミュージックを基軸に、ヒップホップ、R&B、ポップス、エレクトロが融合する唯一無二の音楽だろう。本作でもその魅力が遺憾無く発揮されており、ジャンルレスにそのエキゾチシズムが感じられる。 興味深いのは所々に日本のカルチャーの影響が散りばめらている点。Chicken TeriyakiはNYCでの体験が元となっているようだが、chicken teriyaki、maki(海苔巻き)、kawasaki(カワサキバイク)で韻を踏むリリックがある。さらにはHentaiという日本語タイトル曲、SAKURAというフラメンコと演歌(というか外国人がイメージする日本文化を体現したような音楽)の中間のような曲のほか、CandyのMVでのLost in Translationパロディまで行っており、悉く日本愛が溢れている。このような日本文化への関心は本作以前よりも発信されており、A Paléでも歌詞に「Mi kawasaki (私のKawasakiのバイク)」が含まれている他、2019年にはTwitterでもTempura、Mochiをはじめとした日本食ワードを放っている。
来年こそ来日公演を実現し、実際に日本カルチャーを体験してもらいたい。あと個人的にはファレル辺りのプロデュースで是非カミラ・カベロとコラボを実現して欲しい(シャキーラとJLOのスーパーボウル2020のような)。CamilaのBamBamとRosalíaのdespecháから二人の相性は抜群だと思うので。

(2022年12月27日追記; クリスマス休暇を利用して来日していた模様。恋人と京都を満喫するキュートな姿がInstagramにポストされた。)

7. Makaya McCraven - In these times *

個人的に思い入れの深いマカヤ・マクレイヴンの新譜。彼はプレーヤーとしてはビート・サイエンティストの異名をもつドラマーであり、一方でプロデューサーでもある。
本作を聞くと、独特のポリテンポや擬似セッションの繋ぎ目に翻弄されながら、時空間を越境する感覚へ陥る。特にLullabyのストリングスがお気に入りなのだが、ローリングストーン紙のインタビューではこのパートが、ハンガリーのフォークミュージックを歌っていたシンガーである母親が作曲した楽譜のアレンジであることが明かされていて大変興味深い。他にもIn These TimesやHigh Fiveなど挙げたらキリがないが、本作が現代ジャズの金字塔となってゆくことは間違いないだろう。

6. The 1975 - Being funny in the foreign languages

5. SZA - SOS

4. Charli XCX - Crush *

ポップアイコンの歌姫Charli XCXの新譜。扇状的なアルバムワークではAriana GrandeがPositionsで見せたようなハーフアップスタイルに、レトロでスモーキーで俗っぽい怪しげなビジュアルをたえている。ただアリアナが60sだったのに対し、Charliは80sの音楽シーンに影響を受けており、それはRina SawayamaをフィーチャリングしたBeg For youがセプテンバーの2006年作「Cry for you」(ブロンスキ・ビートによる80年代のクラシック「Smalltown Boy」の模倣曲)をサンプリングしていることからもわかる。内省的だった前作『how i’m feeling now』とは対照的に本作では題名通りCrash、自己破壊願望が投影されたものであり、彼女にとっては苦しい創作活動だったのかもしれない。しかし己と向き合いながら真摯に音楽を作り続ける彼女のパッションの詰まった本作は、アフターコロナの世界に未だ漂う閉塞感を打破するエネルギーを与えてくれるのだ。ロザリア同様日本のポップカルチャーと親和性が高いと思うので、今年のTONAL TOKYOでの来日以上に、来年はぜひ単独来日公演や日本人アーティストとのコラボを果たしてもらいたい。

3. Bialystocks - Quicksand *

気鋭の映像作家、甫木元空(Vo&Gt)とジャズシーンを中心に活動するの菊池剛(Key)によるバンドで、2019年に甫木が監督を務めた映画『はるねこ』の生演奏上映をきっかけに結成された。ビアリストックス(2021)やTide Poolを経てSportifyのRADERに選出されるなど度々インディーズ界で注目されてきたが、晴れて10月にIRORI Recordsからメジャーデビュー。映像と音楽を行き来する彼らだからこそ、曲を聴いくと脳内の映像イメージにダイレクトにリンクする。思い浮かばれる季節、絵画、映画はそれぞれ違えど、アルバム全体を通して大地に根ざしたような生命感のあるサウンドに心地よく包まれる。「差し色」と「日々の手触り」など、ソウルフルな歌声とジャジーな美しい旋律のハーモニーが温かい日差しを感じさせる本作で、今年の冬は越せそうだ。

2. DOMi& JD BECK - NOT TiGHT *

超絶技巧と可愛らしいルックスでSNSから人気の火種が生まれたキーボーディスト、ドミ (DOMi LOUNA) と、テキサス州ダラス出身のドラマー、JD ベック (JD BECK) によるZ世代の新星デュオの鮮烈なデビュー作。特に二人と最初にレーベル契約を交わしたAnderson .PaakとのTake a Chanceと二人のセッションに聞き惚れられるSmileがお気に入り。他にもスヌープ・ドッグ、サンダーキャット、フライング・ロータス、ルイス・コール、ザ・ルーツら錚々たるメンツとのコラボ曲が目白押しのボリューミーな作品。

1. 宇多田ヒカル - BADモード *

Sportifyの年間ベストでも一番聞いたことが統計的に示された本アルバム(「キレイな人」を121回聞いたらしい)。1月から聴きまくってから、今年1年を通して寄り添ってくれたアルバム。2022年を振り返ったときに脳内で再生される音楽は間違いなく「BADモード」だろう。
彼女の音楽を通して描かれる愛は、Fantomeで母へ、初恋で息子へ、そして今作で自分へ(ここでの愛は自己愛ではなくむしろ自己受容の方がしっくりくる気がする)と辿り着く。音楽制作においても、今作ではFloating PointsやA. G. Cook迎えており、以前の孤高の天才が一人で音楽制作を最初から最後まで完結させるスタイルから、より他者へと開かれた音楽づくりへと変化していった様子が窺える。それが三部作(便宜的にFantome以降を三部作と呼ぶ)に通底する音の深みや温かみにつながっているのだろうか。
またLive Sessionsでも他のミュージシャンたちと輪になって向き合いながら化学反応を起こしていく演奏、「君に夢中」に代表的なヴォーカルの声色の変化を楽しませてもらった。特に生演奏では、「Find Love」での打ち込みでなかったドラムのハイハットの正確さ、リズム感に衝撃を受けたことは未だ記憶に新しい。

また今年を総括してみても、継続的にヒッキーの音楽に支えられた一年だった。1月の新譜、Live Sessions、フィジカル面では3月・4月にFantom以降の3作をアナログ復刻版再発売の中で購入することができ、さらには88risingsとのコーチェラ出演、伝説のインスタライブ、夏にはVOGUE JAPAN 2022年7月号でのインタビュー、『ライブ・エール2022』(NHK総合)『SONGS OF TOKYO』『CDTVライブ』への出演、SportifyのGo Streamシリーズビデオシングル配信、冬にはNetflixシリーズ『First Love 初恋』公開と7インチアナログ「FirstLove/初恋」発売、2022年版のリミックス配信などなど…コンテンツに空くことのない日々が続いた。
BADモードを聞いてからのFantome、初恋、Heart StationやDeep Riverには新たな発見が多くあり、宇多田の音楽に通底するCoachellaでのAutomaticのようなタイムレス性に改めて脱帽。
本音を言うと紅白にも出てもらって今年を締め括って欲しいほど笑、ヒッキーの音楽に彩られた2022年だった。間違いなく今年の私のベストアーティスト。ありがとうヒッキー。

*まとめ 

個人的にはここに挙げただけでもハリースタイルズ、ケンドリック、RM、(宇多田ヒカル)のアルバムカバーの類似が印象的であった。2022年はアーティストたちが自室にこもりながら作った、コロナ禍で制作された作品がまだまだ発表されている段階だと感じる。ゆえに、自身の内的世界へ潜心したような、よりパーソナルで落ち着いた、音に深み・奥行きが増した楽曲が多かったように思う。筆者の好む室内的で、親密的なムードの音楽を多く見つけることができ、充実した1年であった。

また、フェスが配信になったことで新たに知ることができたり、初めてパフォーマンスを見れたアーティストも多くいた。今年のCoachellaやサマソニの収穫としてSteve Lacy、SydらのThe Internetメンバー、Still Wozy、Phoebe Bridhers、The 1975、Joji、Kim Petras、Bishop Briggs、Amber Mark、RINA SAWAYAMAなどが挙げられ、アフターコロナ時代の音楽の楽しみ方が一つ増えたように思う。

来年以降もまた、
今年発表されていたけれど聞き落としいた曲と出会い、
今年から引き続きお世話になる音楽を愛でて、
そしてこれから新しく発表された音楽を聴きながら、
音楽を愛する生活を続けていきたいものだ。

年間ベスト100ソング プレイリスト(シングル含)


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