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熊野古道の大雲取越で、無事に妖怪ダルから逃げ切ったの巻

私が歩いた熊野古道の中辺路(なかへち)ルートの中で一番ハードなのが、那智から熊野本宮大社へと山を越える大雲取越と小雲取越と呼ばれる道。雲を掴むくらい高い山というネーミングから険しさを想像してもらえると思う。
できれば避けたい道だったりするけど、今回は減量合宿目的と自分の体力を知りたかったから、久しぶりに3回目の挑戦をすることにした。

和歌山の地図と熊野古道の位置

何がしんどいって、高度800メートルを一気に登って下るところ。
熊野古道の好きなところの一つに、森の中の平坦な道、緩いアップダウンの道を歩けるのがいいのに、このルートはめちゃくちゃ山である。山や森の中をのんびり歩くのが好きだが、山に登るのはそんなに好きではない。
本日は減量合宿の一環として、ゆるいハイキングの熊野古道ではなく山登りだと心得て気合いを入れまくって進むことにした。

下のマップは紙の冊子を持っているのだが、最近は便利になってPDF化したものをiPhoneに入れてそれを頼りに歩く。
トイレの場所や休憩所、ポイントなどが載っているから、私の知っている旅で使う地図の中で最も親切でわかりやすい地図だと思っている。

はい。初日は小口まで275分。
朝は涼しくて良かったが、登りなので一気に汗が噴き出す。
絵になる切り株といつものメンツ。
信じられないが野菜メイン。(豚骨醤油スープではあるが)
半額まぐろカツは買って正解だった!

歩き始めて3時間後くらいに「舟見茶屋跡」に到着。ちょうどいいのでお昼ごはんを食べることにした。
減量合宿なので、珍しく(!)野菜のスープごはんを持ってきた。
「野菜」を前面に出している商品を初めて買った。
減量への本気度が垣間見える。
いつものセットでお湯を沸かす。
東野幸治の幻ボトルは倒れているが、今日も連れてきたゲバラマグで温かいお茶と昨日のまぐろカツの残りと一緒にいただきますをした。
1人で静かに食べる少し早めのお昼ごはん。
出発の1番初めのところで南米のカップルが歩いていてすれ違って以来、人間とは誰とも会っていない。
誰とも会わなすぎて、日本沈没してないか心配になったが、舟見茶屋から下を見る限り、大丈夫らしい。

舟見茶屋は、その名の通り船が見える場所。
那智勝浦の海がはっきりと見えた。
昨日レンタサイクルで走り回った勝浦湾
忘帰洞温泉のあるホテル浦島が2.0の視力ではっきりと見えて感動した。
それよりも、3時間前に桜餅のような桜の木を見てトイレをした那智高原公園があんなに向こうに見えるとは。
そっちの方が驚きが強かった。
黙って黙々と足を前に動かせば進むというのは本当だなあと実感する。
ギリギリ午前中ですでに汗だくになっていたが、まだ半分も歩いていないから、頑張ってまた足を動かそうと思う。

向こうに見えるは那智高原公園
野暮な解説入り写真はこちら


登りの道がずっと続く。
木々が陽射しを遮ってくれるのでそれほど暑くはないが、汗でびっしょりではある。
舟見茶屋跡を通り過ぎた後あたりから、とある伝説があるゾーンに入る。
餓鬼である「ダル」という妖怪がこの場所にいて、南方熊楠はダルに取り憑かれて倒れて意識を失ったことがあるらしい。
「亡者との出会い」の場所とも言われ、あの世に足を引っ張られやすい場所なのである。
亡者と出会うのはむしろ大歓迎なのだけど、意識を失うのは嫌だ。
ダルに取り憑かれたくはないという思いで必死に登り続ける。

登り続けているうちに、体に異変を感じた。
少しフラフラしてくる。
ダルか…。

いやどう考えても空腹である。

空腹だとダルに取りつかれやすいらしいが、ダルの正体は「シャリバテ」だという説が強い。米一粒でダルを撃退できるとか。
ここにきて、オートミール生活が命取りになるのか。
ここはきっと古から現在に至るまで、空腹で意識が飛ぶゾーンだと思われる。
私はチョコレートのプロテインバーを何本も食べて、スポーツドリンクも飲み続けていたが、何しろお腹が空いている。
野菜スープオートミールごはんのチョイスをひどく後悔していた。
減量(食事制限)と山登りは危険な組み合わせだ。
おにぎり3つにするべきだった。
作戦ミスを嘆く。
まぐろカツの食べ歩きも最後の一切れを食べてしまい、フラフラしてきて派手に石畳をこけた。苔がびっしりで滑りやすい道なので、少し気を抜くと足下をすくわれる。
手のひらを擦ってしまい肘を打った。
イテテ…と立ち上がる時に苔の上で何かが芽生えているのがなぜかとても神秘的に見えて写真を撮ってみて、平常心を取り直した。
ダルを振り払うためには、シャリを食うしかない。
魔除けはシャリだ!
糖質制限を少しやっていたが、山登りには炭水化物が必要だ。
それは分かっていたので、いざという時の保険のもう一つの弁当を取り出すタイミングまで自分を奮い立たせて歩いた。


1時間で着くはずの「地蔵茶屋跡」にだいぶ時間をオーバーして到着。

よっしゃ。
牛わっぱ飯弁当オープン。
シャリを食らえ!
この米の美味さを感じるために私は減量生活という名のオートミール飯を食べ続けてきたのだとすると、我ながらドMさがものすごくいい方向に作用している。最高の米の食べ方を心得ている。
昨日のパンダ弁当もそうだったが、
米が美味すぎた。
シャリ攻撃にて、完全にダルを追い払うことができた。
最強飯に感謝し、早食いで6分くらいで完食した。

芽生え
地蔵茶屋跡とよく分からんメーカーのスポーツドリンク
タケノコを一切れ、ダルに奪われたと思ったが、フタの裏に引っ付いていたのを食べ終わってから発見して安心した。
シャリ最高、牛肉最高。


地蔵茶屋から少し登ったら、熊野古道の中辺路最高地点の「越前峠」を越えて一気に標高を下げていく。
下りは本当に膝にくるので、ストックを2本長めにセットしてリズミカルに降りることにした。
ところどころに現れる歌碑を読んで、感想を呟いたり難癖つけたりするのも飽きなくて良い。

それから、胴切坂というしんどすぎて胴が切れるくらいの坂を延々と下る。
胴はちぎれないが、足はちぎれそうになり、2回こけた。
後半に入り、ゴールまでを逆算するようになり、もしかしたら16:10のバスに間に合うかも…と思いついたのがいけなかった。
焦るとこける。

ペースを乱した自分のミスであるが、私はよくこける人なので想定内。
疲れてきて歩き時間が6時間を超えると私は足がもつれてくるということはカミーノの旅で気づいた私の肉体の秘密だったが、久しぶりにそのことを思い出せた。
もつれにもつれて膝も笑うし、メンタル的にも笑けてくるのが歩き旅の後半。
懐かしくて逆に嬉しい現象である。

16時台のバスは諦めて、17時台終バスに乗ろうと決めてからは、足取りも平常運転に戻った。
最後の大雲取越ハイライトの「円座石(わろうだいし)」を通過。
円座石は、ここに3人の仏様(右から阿弥陀仏、薬師仏、観音仏)が座って談笑したらしい場所。こんなところでいったい何を談笑してたのか気になる。辺鄙なところでヤサグレ会でもしていたのだろうか。
もはや人間には想像もつかないけれど。

「紀伊のくに 大雲取の峰越えに 一足ごとにわが汗はをつ」
はおつ!わが汗もはおつまくり!
「輿の中 海の如しと嘆きたり
 石を踏む 丁のことは伝へず」

輿に担がれるのも担ぐのも大変だったろうなとは思う。でも今は担いで欲しい。
「風のゆく 梢の音か 瀬の音か
 下りの道は 心たのしも」

下りの道は全然たのしめねーす。
膝は、よほどたのしかったのか、ずっと笑ってた。
胴切坂(どうぎりざか)
胴がちぎれそうになるくらい辛いという意味の坂。
足はちぎれそうだった。
この坂で2回はこけた。
こういうのがちゃんとあるし、500m毎にサインがあるから迷わないで済む。
円座石(わろうだいし)
巨石に三つの梵字が書かれている。座布団みたいに見えてくる。

円座石を過ぎ、川や車や町の生活音が聞こえ始めると集落が近い証拠。
カツカツカツカツ。歩く足音も早まった。
ゴールが見えると不思議と足はもつれない。

ようやく今日のゴール地点の「小口」に到着。
村に入ってすぐの商店に寄ってポカリスウェットを買ってがぶ飲み。
商店の人たちが駐車場でバーベキューを始めようとしていた。久しぶりの人間であった。
「お疲れさんやったねぇ。天気も良くて最高やったでしょう。」と気さくに話しかけてくれたので少しお話しし、「バスの時間までビールと焼肉食べてく?」という魅力的な誘いを受ける。
バスまで30分くらいの待ち時間があったし、肉の焼けた匂いが私を誘惑したが、感染対策を最優先して、丁重にお断りした。
あーあ。
コロナ前だったらなあ。
遠慮なく肉を食べたのにな。
いや、減量中だった。
たっぷりと匂いだけ食べて、さわやかに感謝の言葉を述べて、バス停へ向かう。
バスを待つ間、葉桜になった色んなタイプの桜を撮影したりした。
不思議と疲労感はあまりない。
達成感と心地よさがほとんど。
バスに乗ってから気づいたのだが、逃した16時台のバスは宿のすぐそばに停まる路線だったが、終バスは宿の近くには停まらない路線だった。
降りてから40分ほど川沿いを歩く羽目になった。
予想外の歩き延長に、もう日も暮れそうなのに、なぜかワクワクしている。
スペインのカミーノで30km以上歩いた後に、オランダ人の友達と夕方から晩ごはんまでの時間を、町の教会やスーパーマーケットなどあちこちを一緒にうろうろ歩き回っては、「You like extra walking!」と言われて笑った記憶が蘇る。
Extra walkingは確かに嫌いじゃない。
メンタル面でのスタミナは意外とあると思う。寄り道もついついしたくなるタイプで、疲れを忘れて半年前にお尻の骨を折ったキャンプ場の前をわざわざ通ってみたりして。
大雲取越ではあんなにヘロヘロのふらふらだったが、不思議と元気に寄り道をしまくり、すっかり日は暮れてしまった…。
早く温泉に入ろう。


小口の村
こけてからカメラの調子が悪いような気がして桜をとりまくってチェックしていた。
どの温泉も好きだが、今回は川湯温泉
半年前にお尻の骨を折った思い出のキャンプ場
向こうに見える宿が本日のお宿と温泉。


立山で知り合った山のお兄さんたちから勧められて使い始めたYAMAPというアプリのデータによると、以下のような感じだった。
いつもそうだけど、時間がかかる割に休憩時間が短くて大丈夫なタイプ。
2回もご飯を食べたのに休憩がトイレタイムも入れて52分。
そもそも早食いガールなのでご飯の時間もいつもどこでも短い。
だけどかかった時間はむちゃくちゃ長い。
275分はきっと8時間38分ではないはずである。歩みが遅すぎるし、休憩があまり必要ないタイプだから、人と旅すると誰ともペースが合わないはずである。困った人だ。


さて、明日は小雲取越。
今日よりも楽な道のりなので、温泉でしっかり温まって体をほぐしてリラックスし、しっかり寝て臨もうと思う。

続く…


リュックは今回はできるだけ軽くするためにこちらにした。
軽いし、チェストベルトとウエストベルトで固定するとめちゃくちゃ軽く感じるから不思議。デュアルピルグリムのピンバッチもちゃんと刺せる場所があって親切。それに背中の所に入ってるマットが背負いやすくしてくれているが、実は座布団にもなるってのも良いのでおすすめ。


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