見出し画像

【第1回】有価証券報告書から読み取れる上場訪問看護事業者の経営戦略 ~N・フィールド編~

ご覧いただきありがとうございます。
のどか会計事務所です。

 上場企業には有価証券報告書という書類の提出義務があります。有価証券報告書には経理の状況という企業の財政状態や経営成績などの財務情報のほか、企業の概況、事業の状況、設備の状況、提出会社の状況などの情報が記載されています。
 これら有価証券報告書の記載内容から読み取ることが出来る、上場訪問看護事業者の経営戦略を解説させていただきます。資本力に乏しい中小企業でも十分模倣可能なものもあるかと思いますので、ご参考になりましたら幸いです。
 N・フィールドとリカバリーインターナショナルの全2回を予定しております。今回は第1回目として株式会社N・フィールドについて解説いたします。


株式会社N・フィールドとは

概要(2020年12月31日時点)

会社名:株式会社N・フィールド
代表者:代表取締役社長 久保 明
本店所在地:大阪市北区堂島浜一丁目4番4号アクア堂島東館
資本金:731,950千円

沿革

2003年2月:介護保険法に基づく居宅サービス、居宅介護支援、介護予防サービス及びそれらに付随する業務を事業目的とした、株式会社N・フィールド(資本金1,000万円)を大阪市中央区に設立。
2008年6月:自立支援を促す目的のために、住宅販売・賃貸部門を本社に不動産事業部として新設。
2010年12月:不動産事業の住宅販売部門から撤退。2010年12月に、不動産事業部門(住宅販売)を廃止し、賃貸部門については、2011年1月に新設した医療連携推進部((現)住宅支援部)が引き継ぎ。
2013年8月:東京証券取引所マザーズに上場。
2015年4月:東京証券取引所第一部へ市場変更。
2017年4月:全47都道府県開設達成。
2019年5月: 相談支援事業を開始、特定相談支援事業所「Social work office D&Life」(現「Social work office D&Life福岡」)を福岡支店に開設。
2021年3月:株式会社CHCP-HNによるN・フィールド株式の公開買付け完了。
2021年6月:上記公開買付けを起因とする上場廃止(業績や管理体制に問題があったわけではありません)。

業績

(2020年12月期)
売上高:117億3,510万円
営業利益:7億6,958万円
経常利益:7億7,325万円
税引前当期純利益:7億7,261万円
当期純利益:4億635万円

 5か年の推移は以下の通り、利益を確保しつつ、売上を順調に伸ばしています。優良企業といって良いでしょう。
 投資活動によるキャッシュ・フローが、2017年12月期を除いてマイナスとなっていることから、積極的な投資による事業拡大が伺えます。しかも、2017年12月期以降は借入金残高ゼロで目立った増資もしていないことから、稼いだ利益を原資に次々と投資をしていたことになります。とんでもない企業です。
 ちなみに、財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなっていますが、主な内容は配当金の支出となります。

【主要な経営指標等の推移】

経営戦略

事業内容について

事業内容について、有価証券報告書の【事業の内容】において、以下の様に説明されています。

①訪問看護事業
 訪問看護とは、精神疾患等の疾病を抱えながら生活している方で本人が希望し、主治医が訪問看護を必要と認め、主治医から指示書が処方された人に対して、国家資格若しくは都道府県知事資格免許をもった看護師・准看護師及び保健師等が在宅で療養上の世話または必要な診療の補助を行なう行為であり、いかにその人らしい生活、人生を送れるかということをサポートしていくものであります。当社は、サポートを行うことにより、訪問看護料を得ております。訪問看護料は、国民健康保険団体連合会、社会保険診療報酬支払基金より支払われる診療報酬及び利用者からの自己負担金で構成されております。
②賃貸事業(住宅支援)
 当社の賃貸事業は、精神疾患を持つ方が地域で安全に、安心して暮らすことができることを目的として、自立するための住居の紹介を行うとともに、当社の訪問看護と連携し、地域で快適に生活できるよう支援するサービスを行っております。一般の賃貸会社が行っている賃貸仲介業とは違い、当社が入居者に対する住居検索を行い、借主となって物件オーナーと賃貸借契約を結び、その上で入居者に対して当社が貸主となって賃貸借契約を結ぶサブリース形式となっており、入居後も当社が相談窓口となって病院やクリニック等の医療機関と連携し、安心して住める物件を提供しております。
 また、北海道、岡山県及び福岡県において住宅セーフティネット法に基づく住宅支援法人の指定を受けております。
③相談支援事業(計画相談)
 計画相談とは、障害者総合支援法に位置づけられる福祉サービスです。地域で暮らす障害者が自立した日常生活、社会生活を営めるよう自宅を訪問してヒアリングし、保健、医療、福祉、就労支援などの社会資源を総合的、効率的に提供されるようコーディネートします。計画相談支援を実施できるのは、5年以上の実務経験を基に定められた研修を修了した、相談支援専門員という有資格者に限られています。
 ヒアリングからコーディネートまで一連の手続きと、定期的な振り返りの面談に対して計画相談給付費が得られ、全額が国民健康保険団体連合会から支給されるため、利用者の自己負担はありません。
 当事業年度末において、特定相談事業所「Social work office D&Life」を東大阪市と福岡市の2ヶ所で運営しております。

 まず、メインの訪問看護事業ですが、精神科専門で展開しています。精神科訪問看護は医療保険が優先されるため報酬単価が高いです。また、高齢者以外も対象となることから、高齢者向けの訪問看護よりも、相対的に利用者の利用期間が長くなる傾向があります。このことから、精神科専門とすることで、利益率の確保と収益の安定化を図ったビジネスモデルといえるでしょう。

 次に、賃貸事業(住宅支援)ですが、2008年6月から始めた事業となります。内容としては、N・フィールドがアパートなどのオーナーと賃貸借契約を締結し、それをN・フィールドから精神疾患を持つ方へ転貸するものとなります。
 N・フィールドが安定した利益を確保しつつ、急速に事業展開できたのは、この賃貸事業があったからと捉えて良いでしょう。精神疾患を持つ方へ住居を提供しつつ、そこに訪問看護サービスを提供しているものと考えられます。
 訪問看護経営には、①利用者の確保と②看護師の確保という2つの大きな課題がありますが、賃貸事業を抱き合わせで展開することによって、顔が利かない地域に事業展開しても、一定の利用者を確保することが可能となります。
 なお、地域で実績を積めば、住宅セーフティネット法に基づく住宅支援法人の指定を受けることができ、公費の支給も受けることも可能となります。
 ちなみにですが、N・フィールドは宅地建物取引業の免許を取得しています。宅地建物取引業の免許を持っていると、レインズ(REINS)というシステムから全国の物件を検索することができるようになります。レインズを利用することで、自社内で住居用の物件や事業所用の物件の検索やオーナーとの交渉を行えるようになるため、効率的かつスピーディーな事業展開を下支えしていた要因の一つと言えるでしょう。

 次に、相談支援事業ですが、2019年5月から始めた事業となります。こちらも利用者確保を目的として始めたと考えられます。
 賃貸事業だけでも急速に事業展開できていたにも関わらず、何故後発で始めたのか詳細は不明ですが、もしかすると地域的に賃貸事業だけだと困難な状況があったのかもしれません。

開設・展開に係る方針について

開設・展開に係る方針について、有価証券報告書の【事業の内容】において、以下の様に説明されています。

 開設・展開に係る方針といたしましては、厚生労働省が調査した、地域保健医療基礎統計を中心にニーズのある地域で、精神障がいの総患者数の総数の上位の都道府県は開設することを前提としております。エリア別・ターゲット別(国勢調査データ)のデータ集積を行い、以下のような具体的な条件を参考に事業所等の開設候補地域の選定を行っております。

a.都道府県-指定都市-中核市別にみた保険指標総覧、病院数、および看護師就業人数

b.精神障害者数、精神科医療機関数、病床数、精神科入院期間比較、および措置入院数等を比較して、精神患者数が多く、入院期間が短いエリア。

 要するに、闇雲に展開するのではなく、統計から精神科訪問看護の需要と供給状況を把握し、相対的に供給が不足しているエリアに対し、優先的に展開していっていると捉えて良いでしょう。この展開方針と賃貸事業との合わせ技で、利用者を確保できないリスクを、相当程度抑えることができると考えられます。
 ちなみに、事業所の推移は以下の通り急速に拡大。先述した通り、2017年12月期以降は無借金経営ですから驚かされます。

【事業の内容】

KPIについて

KPIについて、有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において、以下の様に説明されています。

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な経営指標等
(中略)
 なお当社は、その業態から労務費が費用の構成の主要な項目となります。今後も積極的な事業所及び営業所の開設を実施していく中、看護師採用も通年で行ってまいります。このように拠点開設・人員採用により費用負担が増加するため、売上の確保が企業業績に大きな影響を及ぼします。このため当社では、訪問における移動効率及び稼働率の向上を図り、売上を継続的に伸長させることを重視しております。この稼働効率を測定する業績指標として看護師一人当たりの月間訪問件数(以下、稼働と表記)を採用しており、当事業年度における稼働は90件(前事業年度比3件、3.4%増加)となりました。

 利益率の確保するために稼働率を高めることを課題としており、その稼働率の指標として、「常勤換算一人当たり月間訪問件数(管理者とOT含む)」を採用。具体的な目標値は有価証券報告書には示されていませんでしたが、決算説明資料にて計画値が公表されていました。
 計画値は年間85~91件、年平均で88件。品質や看護師の負担を考慮した適度な件数と言えるのではないでしょうか。

決算説明資料

人員確保について

 急速に事業拡大をしたN・フィールドですが、人員確保についてはどうでしょうか。有価証券報告書の【事業等のリスク】に以下の記載がありました。

 当社は精神疾患を持つ方への訪問看護を展開するにあたり、事業所及び営業所(出張所含む)数の拡大に伴う看護師の積極的な採用を行い、組織体制の強化及び利用者ニーズの高い住居提供サービス等を充実させ、地域周辺のコミュニケーションを進めていくことで、事業間の相乗効果を図っていく方針であります。
 求職している看護師の中で、精神科に従事した経験を有する看護師を見出すことには限界があると考えられます。当社では、精神科が初めての看護師でも安心して働けるようにOJT制度による木目細かい育成を行い、管理職に対するマネジメント研修を行うなど社内教育体制等を整えて、安定した看護師の人員確保に努めております。

 事業拡大に併せて積極的な採用活動をするとともに、精神科経験のない人材も採用。OJTによる教育体制を整備することによって、人材の確保を図っているものと思われます。

まとめ

如何だったでしょうか。
N・フィールドは以下の特徴を持ったビジネスモデルといえるでしょう。
・ 精神科を専門にすることによる収益性の確保
・ 賃貸事業や相談支援事業を抱き合わせで展開することによる利用者の確保
・ 精神科訪問看護ニーズの高い地域への展開
・ 適度な目標値
・ 積極的な採用活動とOJT体制の整備による人員の確保

なお、有価証券報告書は以下のURLから閲覧することができます。
http://www.kabupro.jp/yuho/6077.htm

以上、ご参考になりましたら幸いです。
のどか会計事務所でした。

#N・フィールド #リカバリーインターナショナル #IPO #上場準備 #上場準備 #上場企業
#介護 #障害福祉 #訪問看護 #税理士 #看護師 #公認会計士 #会計士
#士業 #起業 #開業 #ビジネス #マーケティング #SNS


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?