てもちぶたさん

60代主婦です。趣味で素人臭い小説書いてます。 5年前、地方の小さな文学賞をいただきま…

てもちぶたさん

60代主婦です。趣味で素人臭い小説書いてます。 5年前、地方の小さな文学賞をいただきました。 なんだかもうそれで満足しちゃったみたいな数年が過ぎて、今また、なんか書きたくなってきてしまいました。 よろしくお願いします。

最近の記事

買い物ブギ

今日は少し遠いところにあるスーパーまで足を伸ばす。 なぜなら、キャベツひと玉85円に惹かれて。 85円は魅力よね。でも1人1個まで。(ま、3人家族で欲張って2個買っても腐らせてしまうのがオチ。だけど、1個は絶対欲しい) そんな心意気で洗濯も早めに終わらせ、鼻息荒く勇んで出かけた。 開店時間前だというのにすでに売り場にお客がなだれ込んでいた。 もしかしたら私が開店時間を間違えてるだけなのかもしれないが。 浮き足立ってしまう。 別の特売品(エリンギ2パックで100円とか白菜ハーフ

    • 連載小説「電話」 第8回(最終回)

       阪急の河原町駅へ降りる階段の前で別れ際、「僕も結婚するかもしれへん」と吉本は唐突に言った。ずいぶん前に看護婦の彼女がいるという話を聞いたような気がして、  「看護婦さんと?」と言ったら、ちょっとびっくりしたような顔をして「うん」と言った。二人でなぜか笑った。  大学のキャンパスで、他愛ない悩みにうなだれていた日々の、なんと甘美であったことか。この街で過ごした青春の日々が完全に幕を閉じたことをあのときの短い笑いの中で私たちは二人ともが気がついたのかもしれない。誰とでもなく私は

      • 連載小説 「電話」 第7回

         クリスマスに難波の近くの教会で男の劇団の公演があったけど、私は行かなかった。濃厚なラブシーンがあるから見に来るな、と男が冗談めいて言っていたけど、そのこととは別の気持ちで行かなかった。  年が明けて私は芝居男に手紙を書いた。思っていることを率直に書いた。  一週間ほど何の返事もなく、電話がかかってきて明日からしばらく東京へ行く、とだけ言って電話が切れた。ゼミにも出てこなくなり、そのまま卒業式にも現れなかった。宙ぶらりんのまま私には社会人としての新しい生活が始まった。  葉桜

        • 連載小説「電話」  第6回

           次の週の教育心理の授業で吉本にあったとき、私はそのことを彼に話した。うまくいかなかった話と男のことばと、それはどういう意味のことばなのかを吉本に訊いた。  「どういう意味で言うてるのかは僕にもわからへんなぁ。おまえが処女やというのは知ってたけど」と吉本は言った。「なんで?」と聞いたら、「なんでかなぁ、でも分かった」と言い、私はなぜかその言葉にほっとした。なぜそういう気持ちになるのか自分でもわからなかった。私は処女性などを全然大事に思ってはいないつもりだったから。大事に思って

          連載小説 「電話」 第5回

           吉本とは次の週のその授業でまた会って、飲みに誘われて、セックスフレンドにならへん?と持ちかけられ、あほちゃうん、と私が笑って聞き流し、吉本もなぜかすごく笑って、会うたびに、「ホテル行こか」、「あほちゃうん」が挨拶代わりの関係になった。  そのまま卒業まで同じ距離にいるボーイフレンドだった。お互いが全く恋愛の対象にならないヤツと認め合いつつ、同性の友人とは違う不思議な距離感のある関係をお互いが快く思っていたのだろう。ある時は同性の友人よりも率直な態度を見せてくれたり、あるいは

          連載小説 「電話」 第5回

          連載小説 「電話」  第4回

           教職課程の教育心理学という授業で、空席がたくさんあるのに私の隣に座って、いきなり、先週のノートある?と聞いてきたのがきっかけだった。 その授業は出欠も取らないし単位も取りやすいという評判で、履修登録している学生は多いのだろうがいつも講義室は閑散としていた。私はその前の授業には絶対出たかったので、ついでに出席の習慣がついて教育心理もほぼ皆勤状態。せっかくだから熱心に聞いている授業だった。    大学の授業というのは熱心に聞けば面白いものなのだ。けれど受験勉強から解放されたばか

          連載小説 「電話」  第4回

          連載小説「電話」 第3回

          吉本とは大学の授業で一緒になり、ノートを貸し借りするうちに親しくなった。 経済学部の学生で自分ではプレイボーイを気取っていた。ちょっと親しい女の子を見かけると誰にでもすぐに「今時間ある?ホテル行かへん?」と声をかけるのが癖で、そのことで露骨に嫌がられたりもするくせに、その癖をやめない。 軽佻浮薄を絵に描いたような言動の影でときどき垣間見える生真面目さを私は見逃さなかったけれど、きっと本人が嫌がるのがわかっていたから、軽佻浮薄を適度にバカにし、適度に楽しむふりですごしていた。

          連載小説「電話」 第3回

          連載小説 「電話」 第2回

          「わ・た・し、分かる?」といきなり聞いてみる。ちょっと笑いを含んでいたかもしれない。 「誰?えぇと、聞き覚えある声やで…」  なかなかいい声。そうだった、吉本は声自慢の男だった。 「フフ、マリリン・モンロー貰った女」 「ああ、おまえか」受話器の向こうでもホッとしたような懐かしげな気配が立つのがわかった。 「名前忘れたんと違う?」 「覚えてるわ、カーコやろ?カーコやんな。忘れてへんで。おまえのあのときの声も」 「あほっ」二人で笑う。  吉本とは一度寝たことがある。23歳の時。私

          連載小説 「電話」 第2回

          連載小説 「電話」 第1回 

           テディ・ベアの片方の目玉をつけ終わって時計を見た。もう片方の目玉をつけてしまえば完成なのだけれど、この作業は手が抜けない。最後の目玉を付けたとたんにテディ・ベアが呼吸をし始めるのだ。それまではただの布切れと綿の塊だったものが両方の目がそろったとたん人格を持ち始めるような気がする。そして、二つ目の目玉の位置の微妙な加減でテディ・ベアの表情が決定するのだ。1ミリどころか0.1ミリの違いでも表情が変わってしまう。愛らしくもなったり、どうにも気に食わない子になったりもする。子どもを

          連載小説 「電話」 第1回 

          連載小説 最終回 なつかしい人

          「このまま別れたくない」という千秋のことばにもただ「はい」としか答えられなかった。「はい」というのは自分も同じ気持ちだという意味であり、千秋の気持ちをわかっているという意味でもある。しかし、この先のことは自分でもわからない。 ホテルまで送っていきます。 部屋まで送って。 はい。 終電は何時? 11時45分。 あと40分… 駅の構内を抜け反対側のオフィス街という雰囲気の中にあるホテルを目指して、さてどうなるんだろうこれから…木島は急に酔いが回ったような気がしてく

          連載小説 最終回 なつかしい人

          連載小説第6回 なつかしい人

          一年ぶりの再会。 地下にある小さなスペイン料理の店に落ち着いて。 メールでのやり取りの親密さと、向かい合った二人のぎこちなさに木島は最初戸惑った。 千秋は、そのぎこちなさが楽しかった。 目の前の木島を、中学生のようだと思う。 木島は、メールでのやり取りの親密さにもかかわらず、目の前の千秋に距離を感じる。 13歳の千秋を、目の前の女性に探し出そうとして、見つけられない。でも、見つけ出せなくても全然かまわない、と思う。 千秋は、ずっと自分に片思いだった「木島少年」が、目の

          連載小説第6回 なつかしい人

          連載小説第5回 なつかしい人

          千秋は翌日すぐにメールをした。娘の就職にまつわる話。返信はその日の夜に届いた。木島は東京勤務が長く、今朝始発の新幹線で東京へ戻ったこと、ばたばたしていて返事が遅くなりました、と謝って、既に千葉に家も購入し、昨年両親も呼び寄せて、そこが定住の地になるであろうこと、M社は働き甲斐のある良い職場であることをなんの衒いもなく告げて、お嬢さんの力になれたかどうかはわからないけど、ちょっと残念な気がします。と書いてあった。どういう意味?私の力になりたかったってこと? 木島の気持ちの一端を

          連載小説第5回 なつかしい人

          連載小説第4回 なつかしい人 

          まだ働き盛りの人の通夜は弔問客が後を絶たない。いつまでも長居できるところではないことを察知して、古い友人たちは早々に退席することにしようと、高校時代の友人たちの間でささやき交わして順々に辞去のあいさつを未亡人に伝えていく。 通夜の設えを施された玄関先で何人かの友人たちが立ち話をしている中に千秋も混ざった。 これからどうする?どう時間ある?などと言い合っているのが聞こえる。 高校で同級だった佐々木達也に「さおりは?」と千秋が一緒に来た友人のことを聞かれた。 さおりと千秋、佐々

          連載小説第4回 なつかしい人 

          連載小説第3回 なつかしい人

          第3回 友人の通夜でその千秋に30数年ぶりに会った。少し驚いた。千秋は木島を見て、「あっ」というような表情を一瞬したが、軽く会釈をするとそのまま別室へ姿を消した。 千秋は30数年ぶりに会った木島に驚いた。 千秋の中で木島は自分に思いを寄せながら告白できないでいるちょっと可哀想な男の子、という印象があった。いや、本当は少し違っている。 千秋は高校時代に数人の男の子と付き合ったけれど、そのときそのときときめいたり、胸をいためたりと年齢に相応しい恋愛感情を抱きはしたが、それは恋の

          連載小説第3回 なつかしい人

          連載小説第2回 なつかしい人

          第2回 中学、高校と同じ学校で学んだ千秋と木島が、同学年だった友人の早川の通夜の席で再会したのは一年前のことだった。 その友人は高校時代のクラスメート同士で結婚しており、木島は死者の友人として、千秋は未亡人の友人として通夜に赴いた。 木島と千秋は中学1年で一度同じクラスになったことはあったが、それはたった一度のことだった。その一年間にも多分直接二人は言葉を交わしたことはないと思う。少なくとも千秋には記憶はない。しかし、別の記憶がある。木島が千秋を好きらしいという、友人た

          連載小説第2回 なつかしい人

          連載小説第1回 なつかしい人

          連載① このまま私を帰してもいいと思っているの、そんなに簡単には会えない二人なのに。 千秋はそのことばを口に出したかった。本当はそんなことを口に出したりするのは苦手だし、口にしないで過ぎてしまうことの正当性を自分に言い訳して、結局は言わないで良かったと納得させてしまえるタイプの人間なのだ。 もう50年もこういう自分と付き合ってるのだからよくわかっている。身の丈に合わないことをしたら疲れるだけ。あとから赤面してしまうようなことだけはもうこの年齢になった自分にはさせたくなかった

          連載小説第1回 なつかしい人