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川崎クニハル
2021年2月13日 14:32
二、出会い暫く曇天や雨天が続いていたので心配したが、『双葉荘』への入居当日、横浜の空は朝から晴れ渡っていた。3月の年度末時期を控えて、私も美江も仕事が立て込んでおり、週末はほぼ塞がっていたので、初旬の平日に二人合わせて休みを取った。ほんの一駅の距離だ。運送屋の手伝いを借りて荷物の運び込みも午前中にはほぼ片付いた。美江と二人駅前で昼食を済ませると、まずは挨拶に隣を訪ねる…扉横の呼び鈴を押すと、3
2021年2月11日 09:21
一、 百葉今朝、妻と二人で実家近くの区役所に離婚届を提出してきた。2年もの別居生活中、幾度も二人で話し合ってきたが、やはりお互い別々の人生を歩もうという結論に達したのだ。二人には子供もいなかったし、特に憎しみ合っていた訳ではないので、円満な結論と言えるだろう。今や妻はコラムライターである私の担当編集者。夫婦としては紆余曲折あったが、仕事上では良き仲間である。届け出の後、もう妻でなくなった美江と
秋谷りんこ
2021年2月16日 09:22
カンカンカンカン 私は急いでいた。山矢探偵事務所に就職してから、こんなに走って出勤したことはないかもしれない。 探偵事務所の階段が長く感じる。早く、早く山矢さんに伝えなきゃ。 ドン!「はぁ、はぁ、はぁ」「なんだ、田橋。朝からずいぶんと慌ただしいな」 山矢さんはいつも通り、窓辺のデスクでコーヒーを飲みながら、無表情で煙草を吸っている。「山矢さん、これ、見ました?!」「これ
2021年2月1日 08:52
「私、バリアが張れます」 思い切って宣言した。自分からカミングアウトするのは初めてだ。「バリア?」 男は無表情のまま少し首をかしげた。「はい。バリアです。この力は、きっとここで働く上で、力になると思います。だから、働かせて下さい」 目の前の男、この探偵事務所の探偵、山矢は目つきの悪い男だった。黒いジャケットに黒いネクタイ。「お葬式のときみたいな恰好」第一印象でそう思った。あと、
2021年2月1日 14:54
金木犀の香りを乗せた微風がすっかり秋めいてきた十月。薄汚れたアルミ製のドアの前で私はまだ逡巡していた。 もうここしかないのか。 就職面接99件連続不採用。100件目が、このドアの向こう。ドアにかけられた看板には【山矢探偵事務所】 一人暮らしのアパートから近い、というだけで選んだ就職先の100件目候補。まさか、本当に100件目まで就職が決まらないとは思っていなかった。 ドアの前に立
2021年2月1日 14:56
それは、突然訪れた。 高校の授業が終わってから直行して働いているコンビニバイトの帰り、21時を過ぎた頃。沙理は、妹の理奈のお弁当用のパンをバイト先でもらい、急いで店を後にした。21時までのシフトの日は、帰りが遅くなるからお腹がすくし、帰り道が暗いからちょっと怖い。 速足で帰路を急ぐ。自宅まであと100mほどの直線道路。昼まで降っていた雨のせいで、濡れたアスファルトや車や電柱は、つややかに