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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
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かぐや姫、月に帰る途中で【400字小説】

かぐや姫、月に帰る途中で【400字小説】

満月に吸い込まれて行くわたし。無重力に包まれて不自由だった。ただ導かれるようにやさしく引っ張られた。おじいさん、おばあさんの声が聞こえて、帰りたくはなかった。満月がまぶしい。月ってどんな生活だったか、忘れてしまって不安。だから、途中なのにやっぱりこの星に留まりたいと願った。胸の膨らみにチクッと痛みを感じたのはなんだったのか。郷愁かな、絶望かな。月で姫なんてやっていられない。好きでもない男の人と暮ら

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しらゆきひめ、新婚生活【400字小説】

しらゆきひめ、新婚生活【400字小説】

幸せとはこのこと。掴むものでもなく感じるものでもない。ただあって、ただ寄り添うの。触れないし目にも見えない。食べられるものじゃないから味も想像できない。薔薇の匂いがするのは気のせいだな、無臭です。どこかへ行かなくても平気。おいしいものよりもウキウキ。充足してる、満ちている。抱き合ってキスして眠るだけで良い。お酒もちょっとでいい。豪華な料理は嫌い。わたしが作れるので十分なのよ。家庭的が一番。あまり壮

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【400字小説】@塾々

【400字小説】@塾々

沼の浅瀬で半魚人が待ってて。
わたしは抱き締めたかったけれど、
魚臭くならないか期待して、手が出なかった。

「ぎょぎょぎょ」としか
逝ってなかった半魚人の
言葉がなぜかわかった。

「人生二度きりだよ」と言ってたので、
人間の次は半魚人で
生きることを覚悟できなかった。
講師を辞めることは易々と越えられたのに。

寺があった沼の池で
蓮の上に仁王立ちできない。
仏様なんてきっといる。

イルな人

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【400字小説】微妙に通じ合えない

【400字小説】微妙に通じ合えない

はちみつではなく、水だった。
キッスを朝死んだら聴きたい。
ニュ~トラルに生きてえええって長渕剛とは
真逆で、やさしいあなた。
わたしのすべてを伝えたら、あの人とは疎遠になった。

キーボードを叩く音がうるさくて、
隣のお姉さんに睨まれている。
Winkするほど寂しい熱帯魚ではない。
金が必要で最低な男。
借りた金は返さない友永、
パチンコで勝った時だけおごってくれた田川、
貸したギターをメルカリ

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【400字小説】熊谷で会いたくない

【400字小説】熊谷で会いたくない

アフロディーテギャングになりたいって、
一行のLINEを送りつけてきた
雲の彼方のお前に返す言葉はない。
犯罪者であることに間違いない。
一ヶ月、ずっと舐達麻を聴いてるくらいだから
沼ったと言っていいけれど、
だからって移住するには早すぎないかい?

ありがとうの数だけ別れはある。
お前には世話になりっぱなしで、
礼のひとつも返せてない。
俺も俺なりにお前に尽くした。
スタバしょっちゅうおごってや

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【400字小説】ビリが一番bang

【400字小説】ビリが一番bang

小学校の時にさ、リレーの選手に
なれなかったんだよね、6年生の時。
その上、運動会当日のかけっこでは
死のグループに入っちゃって、予定調和のようにビリ。

悔しくて泣いたのは、あれからないな。
高校野球部、最後の夏に負けた時も泣いたけれど、
あれは悔しかったのではなく、演出でした。
泣くのが美しかった。
あの時はね、そう思ってたんだよね。

ほかの野球部のメンバーは何で泣いたんだろうか。
めっちゃ

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【400字小説】無題と見せかけて、、、

【400字小説】無題と見せかけて、、、

カネコアヤノのパーカー、まだ着られる季節。
貯金しておいて良かった、新作パーカー気に入って。
カネコアヤノに会えたらって妄想。
絶対握手してもらう、強要。
それは何ハラスメントっていうのかしらね。
サインはもらわない。
吉野さんにも向井さんにも
要求しなかった、個人的には。
吉野さんに握手してもらったことは覚えてる、
向井さんとはしたっけ?

緊張して。

「写真撮ってください」とも言えなかったな

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【400字小説】犯罪に足を染める

【400字小説】犯罪に足を染める

「駅前で強盗だって。白昼堂々入店して
乱暴に金目のものを奪っていったみたいだよ、
たったの105秒でさ」

「そんなの捕まるだけじゃん」

「捕まりたいんだよ。舐達麻になりたいんだよ」

「なに、なめだるま?」

午後2時のわたしたちの2LDKでの会話。
ゴウくんはやはり舐達麻を知らなかった、
善良な市民だからな。
わたしはどちらかといえば悪い女なので、知ってた。

てゆうか大好き。
そのまっすぐ

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【400字小説】ポテンヒットも狙えない

【400字小説】ポテンヒットも狙えない

ヒットは偶然。
わたしは計算して作品を仕上げるタイプではない。
バズった小説は偶然によって書けてしまった。
だが、それが芸術ってものだし、
人間の深みがあるというもの。
緻密に考えられて作る小説は
AIに任せておけばいいと思っていた。
ラッキーだった、一発屋と揶揄されても構わない。
それで満足。

でも業界人は違った。
次作もヒットさせてくれと懇願。
それまで楽しく書いていただけの小説は
瞬く間に

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【400字小説】聴いたことあるナイフ

【400字小説】聴いたことあるナイフ

メタリカのメロディアスな演奏に酔っていたら、刺された。
ベースがごりごり、ドラムがドンドン。
シュガードーナツ食べたい。
電車のなかで満員。
立って松本駅に向かっていた、最中。
ズブズブと入刀。
鈍い痛みだった。
でも声も出ないくらいの鋭い痛みでもあった。
アドレナリンか何かが脳から放出されたみたい、
原発処理水を垂れ流したあの海のようだ。
わたしは当然のことながら
その場にうずくまってしまって、

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【400字小説】なんとなく感想文

【400字小説】なんとなく感想文

舐めてた、ジューダス・プリース卜『ペインキラー』に
ド*頭をカチ割られて。
古着屋のバイトの同僚Sさんから借りた
4枚のCDのなかではダークホース的存在。
高校野球部時代の最後の夏の新聞に、
我がチームはダークホースと書かれていて悔しかったなあ。

だからジューダス・プリーストに申し訳なくて。
アルバムが発売されたのは1990年。
ちょうど最後の高3の野球部だった年、9月発売。

もっと驚いたのは

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【400字小説】そろそろ夕日も

【400字小説】そろそろ夕日も

ド*平日の午後3時過ぎに車の点検でzoomzoomに。
この間、あの人とこの店の前をトボトボ歩いていた。
夜だった閉店間際で、
担当の顔見知り・ディーラーさんの姿はなかった。
見られても別にやましい関係ではないから、あの人と。

なので、堂々と手を繋がずに歩いた、あの夜。
雨が降りそうで、実際、県民文化会館に
集合したときはひどい雨だった。

今日は青い空が広がっている。
目の前にお山が見える、緑

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【400字小説】フラメンコ・ジャスティス

【400字小説】フラメンコ・ジャスティス

ビセンテ・アミーゴのギターが郷愁を誘ってる店内。
洋食屋『Hola!』はヨーロピアン・テイストのカレーが人気で、
でも、あえてわたしはシーフードパスタを注文。
ビセンテのそれは情熱を増して演奏され、
そこへ人間のものとは思えないほど、
悲しみを帯びた熱い歌声が割り込んできた。

わたしはかなり上機嫌で今日を過ごしていたけれど、
懐かしい思い出に浸ってしまうような
ポジティブでもネガティブでもない気

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【400字小説】過去から感じる世界線

【400字小説】過去から感じる世界線

《今》なんてないんダヨ。
過去と未来しかない。
今を捕まえようとしても、
思考が追い付いていかないじゃん。

あの人と家族のことを思う
過去と未来。
死んだらやっと《今になれる》
のかもしれない、知らんけど。

「過去と未来の間にわたしの宇宙があるの」
「体とか精神じゃなくて?」
「精神なんてないんだよ。脳があるだけ。
ただの物質という体」
「だったら、きみのなかに
宇宙はあるって矛盾じゃない?」

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