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特許法93条 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(公益裁定)☆3

記事を更新しています。過去の記事へのリンクは、記事の一番下に書いてあります。

1.制度趣旨

 特許法93条は、特許発明の実施が公共の利益の為に特に必要である場合に経済産業大臣の裁定により強制的に通常実施権を設定する制度です。

 特許権は独占排他権であるため、特許権の存在が公共の利益を害し、国民に多大な損害を与える事が考えられます。そのような場合には何らかの措置が必要ですが、私権の制約は公共の利益を守るという目的のためであっても必要最低限にすべきですし、また、通常実施権の設定によって全ての場合の要請に応じうるので、特許法は93条の裁定制度を設けています。

2.経済産業大臣が裁定することとした理由

 公共の利益のため特に必要であるかの判断をしなければならないし、他の行政機関(たとえば、厚生労働大臣等)からの請求が予想されるためです。

 現状(2021年09月22日)では裁定がなされた実績がありませんが、「公共の利益のため特に必要であるとき」に該当するか否かを、どのような判断基準を用いて判断するかが重要と思われます。

3.他の裁定との関係

 不実施裁定(83条)の場合、実施がなされていない正当理由がある場合には、通常実施権設定の裁定はなされません。しかし、本条ではこの規定は不準用です。これは、例えば、致死率の高い悪性伝染病の特効薬の特許のように、公共の利益の為に実施させることが「特に」必要な場合、使える製薬工場を全て使って特効薬を作る必要があります(そうしないと、国民が全滅してしまう可能性がある)。この例は、悪性伝染病による国家緊急事態の例ですが、このような場合にまで、特許権者の正当理由を考慮すべきではないからです。

4.具体例

 逐条解説に記載されている公共の利益のため特に必要であるときの具体例は以下の2例です。
①発電に関する発明であってその発明を実施すれば発電原価が著しく減少し需要者の負担が半減する場合
②ガス事業に関する発明であってその発明を実施すればガス漏れがなくなりガス中毒者が著しく少なくなる場合

5.その他

謄本送達により協議が成立したと擬制されます。

特許法93条の規定による裁定は、2021年09月22日の段階では、行われた例がありません

 なお、朝日新聞さんの記事によると、特許法93条の規定による裁定「請求」は過去に1度だけ行われたようです(情報元)(こちらで確認した範囲では、特許法93条の規定による裁定請求がなされた事実は確認できませんでした)。

 平成16年(2004年)3月3日に行われた産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の資料で以下のような記載がありました。

5.裁定の実績
これまで特許権、実用新案権及び意匠権を合わせ計 23 件(不実施 9 件、利用関係 14 件)の裁定請求が行われているが、いずれも裁定に至る前に取り下げられており、裁定により通常実施権が設定された事例はない。

5.1.解説の絵を描いていただきました!

・おっさん特許技術者(@ossan_tokkyo)さんにお願いして、裁定に関する解説画を描いていただきました! 

5.2.2021年裁定請求第1号について

 2021年裁定請求第1号についての記事は、こちらに移動させました。 

●記事の履歴
(~'21/12/27)特許法93条 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(公益裁定)
(~'21/09/21)特許法93条 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(公益裁定)
(~'21/09/30)特許法93条 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定(公益裁定)

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